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3 奴隷の扱い


「私はあんたがわからない。」


 ポツリと呟かれる言葉。


「なら、何でも聞いてくれ。生憎、嘘がつけないんだ。本心からの答えをくれてやるからさ。」


 そう考えると、便利だなこれ。


「なら、あんたは怖くないの?」


「何が?」


「いきなり、別世界に一人で飛ばされて、右も左もわかんないのに、奴隷なんかになって命を握られてるのに…」


「んー、異世界に行くのが夢だったからな。不安が全く無い訳じゃないけど、それ以上に楽しみだったし。向こうでも一人だったから未練も無いな。」


 完全に天涯孤独とまでは言わないけど、親しい血縁も完全に信頼出来る仲間も居なかったな。


「一人…親は?」


「早くに亡くなったな。」


「友達は?」


「居なくはないけど、正直、俺が異世界バカだったからな…お互い深入りは無かったよ。」


 本当、異世界に来れなかったらどうなっていたことか…うん、普通に死んでたわ。


「私に命を握られてるのよ?」


「別に意味無くいたぶる趣味があるわけじゃないんだろ?」


「ない…けど。あんたは絶対服従なのよ?せっかくこれたのに自由がないのよ?」


「あぁ、自由が無いのはちょっとつらいな。でも、本当にこの世界のことは何も知らないんだ。最低限、命の保障があるだけ、いきなり放り出されるよりマシじゃない?それに、絶対服従ってのも今のとこそんなに悪くは無いな。俺のご主人様って可愛いし。」


「っ?!」


 顔を真っ赤にして俯くユウラ。てか、なんか今の発言はいろいろと危ないな。


「なぁ、ユウラ。」


「な、に…よ?」


 わぁ、照れちゃって可愛い。


「なんで俺を買ってくれたんだ?あれだけ、止められてたのに。それに、結構な額を使ったんじゃないか?」


「………」


 なにやら、そっぽを向いて黙るユウラ。そんなに言いにくいこと?


「仮にユウラがあの時買ってくれなかったら俺はそんなに長く生きられなかったよな。」


 研究所のどうのって、聞いてたら死体でも価値があるみたいないい方してたし。


「一応、それの感謝もあるんだ。命を救ってくれた相手を嫌うなんて…ましてや恐れるなんてありえないだろ?そして、何より可愛いっぶふ?!」


 ダメ押しの可愛い宣言は要らなかったか。


「はぁ、何かしらね。一人だけ警戒していた私がバカみたいじゃない。」


「そうだね。ぐぎゅっ…」


 お願いだから靴は脱いでくれません?


「私ね、これでもそれなりに奴隷を見てきたわ。」


 語りだしたユウラ。聞いてやるから足を退かせ。


「さっきも言ったけど、うちの家系は一人ひと……一人ずつ、奴隷から使用人を育てるの。奴隷は大体安いし、替えがきくから何をしてもいい。暴力で従わせるのも、魔法で洗脳するのも、薬漬けにするのも……必要なのは、どこまでも付き従い。裏切らず従順であること。たとえ、親と殺し合いになってもその奴隷だけは決して裏切らない。そんな存在を作るの。」


異世界ならではだな。


「絶対服従…奴隷紋がある限り、どの奴隷も一緒なんだけど、うちの奴隷は違うわ。感情を持たず、主の命が関わる事態では命令が無くても当たり前のように盾になるし、食事や排泄。睡眠から呼吸まで命令しだいではどうとでもなるの……命が続く限り。」


「………。」


「引いた?」


「っ!」


 意外だった。引いたは引いたけど、ユウラに対してではない。それに、ユウラの表情はどこか悲しそうで、寂しそうで…やっぱり、根は優しい、いい子なんだと思うとなんだか抱きしめたくなるな。たぶん蹴られるからしないけど。


「ちなみに、俺は暴力も魔法も薬も嫌です!」


「しないわよ!私だって…したくないもん。」


「わかった。なら、安心だな!」


「っ…なんで、そんな簡単に信じることが出来るの?私は出来ないのに。」


 しゅんと項垂れるユウラ。何でって、感だけど。


「強いて言うならユウラがかわいぶぅえっ?!」


 そんなに可愛いって言われるのが嫌なのか?あと、いつまでも踏まれてると格好がつかないんだけど。


「はぁ、もういいわよ…もう。」


 呆れたようにそう言ったユウラは俺から足を退かして、真面目そうな顔をする。


「私があんたを買った理由は目が綺麗だったからよ。」


「目?」


 俺は居住まいを正して話を聞く。


「そっ。私はうちのやり方が嫌い。でもね、奴隷はみんな何かしら問題を抱えているの。犯罪者だったり、戦争孤児だったり、攫われてきたり。恐れ、怒り、憎しみ、悲しみ。一度そんな不の感情を抱えてしまった獣人は立ち直れないの。一度折れてしまった心は、人を信用できなくなるの。常に何かに怯え、恐れ、奴隷紋に縛られていようと暴れようとするの。だから、意識がハッキリしないように、力が必要以上に出せないように、恐怖を上塗りして反抗しないように、暴力や洗脳や薬と言うのは強弱問わず奴隷に対しては一般的に常用される。」


 なるほど…


「だから嫌だった。私は奴隷なんて要らないって何度も言ったの。でもそれは許されなかった。それで仕方なく行ったの。」


「奴隷商のところに。」


「えぇ。知ってる?やましい事や不の感情を持ってる人って匂いでわかるのよ。」


「まじか。」


 俺は何となく自分の匂いを嗅いでみる。


「ふふっ、あんたからはしないわ。あの時だって、地下室のほうから不衛生な匂いと誰かがいる匂いはするのに、不安や恐れの匂いは全くしなかったもの。」


「それで見に来たのか?」


「そうよ。そして見つけた。気が狂ってるなんてあいつは言ってたけどそんな様子もなけれは、ニンゲンのくせに獣人に囲まれてもなんとも思ってないような目でまっすぐこっちを見てくるんだもの。これだなぁって思ったわ。」


「なのに、契約直後に電撃に遭わせたのか?」


 実際は電撃ではないだろう。でも、それに類似した衝撃でわあるため伝わったようで、


「あ、あれは!いきなり、近くに立たれて見下ろされるのよ?乱暴に扱われた直後に、それに真っ直ぐ目を見て……噛まれるかと思うじゃない。」


「俺は狂犬かよ、失礼な。」


「あ、うぅ…ごめんなさい。」


「へっ、いや、別に今更、気にはしてないけどさ。」


「本当?」


「あぁ。」


「そっか。」


 まさか、謝られるとは思わなかったよ。


「さて、俺を買った理由はわかった。で、これからどうするかって聞いた事についてはどうなんだ?」


「それは」


「お嬢様。」


 バルドがやってきた。窓を見れば大分日が昇っており多分、


「朝食の用意が出来ました。」


「今行くわ。」


 やっぱりか。


「大人しく待っててね。」


「あいよ。」


 まだ聞きたいことがたくさんあるのだがこればかりは仕方ない。ユウラと入れ替わりで入ってきたバルド監視の元大人しく待つとしますか。




「もういいわよバルト。」


 それからしばらくユウラが帰って来た。手には俺の朝食かな。

 何か言いたげなバルトだったが、特に何も言わずに大人しく出て行く。


「さて、ティス?」


「ん?あ、おう!」


 ティスは俺の名前だったな。

 ユウラは持ってきた食事をテーブルの上に置くと自分はベッドに腰掛て質問してきた。


「朝食食べるのと、その…こっち……どっちがいいかしら?」


 こっち。そう言ってユウラは自分の足を指差した。


「……飯か足かって、何?踏まれたいかってことか?」


「えぇ。」


「飯。」


「……ふんっ、だったら好きになさい!」


「えぇ…なんで拗ねてんの?」


「うるさい!食べないなら片付けるわよ!」


「わ、わかった。いただきます。」


 ベッドに倒れこんで不愉快そうにこちらを見るユウラ。食べづれぇ。てか、飯か踏まれるかで踏まれる方を選ぶやつなんているのだろうか……あ、ちなみに飯は旨かった。



「さて、あんたはこの世界に来るのが夢だった。そうね?」


「あぁ。」


「それじゃあ、やっぱり自由にこの世界を見て回りたいのよね?」


「あぁ…そうだな。」


 確かにその通りではある。せっかくだしな。てか、なんでそんなことを聞くんだ?そんなこと聞いたら答えなんてわかってるだろうに。


「私は…あんたに……ティスには残って欲しい。私の味方で居てほしい。」


「俺はユウラの奴隷なんだから残るも、味方も、関係なくない?」


「っ…それは……」


「なに、奴隷とか関係なく忠誠を誓えと?」


「忠誠…違う……いや、違わないけど、その。」


 わからん。ユウラは何が言いたいんだ?


「ティスはこの世界のニンゲンじゃなければ、獣人でもない。私やうちの家や獣人に対する偏見も、恐れも無い。そんな人今まで居なかった。だから、ティスには私のそばに居て欲しい。公平な目で私を見て欲しい。間違いがあれば止めて欲しい、苦しかったら支えて欲しい。奴隷だから仕方なくではなくて、ティスの意思で………私を選んでくれたらいくらでも踏んであげるから!」


「ごめんなさい。」


「ぁ…そう…だよね。うん、そうよね。あんたはニンゲン。せっかく夢が叶ってここにいるんだもの。こちらの都合で振り回すわけにはいけないわね。」


 んー、違うんだよユウラ。そうじゃない。


「安心していいわよ。私が薬や魔法で奴隷を従えるのが嫌いなのは嘘じゃない。だから、何も知らないあんたがニンゲンとして暮らせる場所に連れて行って開放してあげる。時間はまだあるしきっとあんたみたいな変わり者も見つかるはず。だから、」


 だから、そんな悲しそうな顔すんなって。


「なぁ、俺はユウラの味方になってもいいぞ?」


「へっ?いや…だってあんた、さっきは」


「あのな、俺に踏まれて喜ぶ趣味は無いんだ。」


「………」


「………」


 よくわからん静寂が二人を包む。


「へぅっ?!」


「っ!!お、おいユウラ、どうした?」


 ユウラが壊れた。顔が一気に真っ赤に染まって、変な音が出た。ベッドに顔を押し付け、足をばたばたさせて、なに?なにが起きてんの?


「う、うそよ!」


「なにが?あと、俺は奴隷紋で嘘はつけないぞ!」


「そんなことない!だって、ママが言ってたもん!オスは女に踏まれて喜ぶ生き物だって!そう、言ってたもん!!」


 ママ…娘に何を教えてるんだよ。あと、ユウラってキャラ分けが甘いな。俺以外のやつがいたら、お嬢様キャラなのに気を抜いたり、今みたいにパニックになると子どもみたいになる。まぁ、十四歳なんてこんなもんか。


「だから、私だって恥ずかしいのに我慢して、ティスが喜んでると思ってたから、私も、えと、うえぇあっ」


 なにこの可愛い生き物。和む。


「お姉様もお兄様もやってるんだよ?普段無表情なのにその時ばかりは奴隷達も嬉しそうにしてるもん…だから、私は間違ってない。ママも間違ってない!」


 兄姉がいたのか。てか、兄が踏んで奴隷が喜んでるのなら、ママの言葉がおかしくなる事に気づかないか?まぁ、イヌ科だし、弱者が強者に踏まれて喜ぶのはおかしくないって事かな。


「とりあえず、落ち着こう。な、ユウラ?」


「ひゃあっ!こ、来ないで!うん、きっと踏み足りないんだ。きっとそう。だから……踏まれろ!」


「おお落ち着け、キツネっ子!話を聞くんだ!」


「キツネっ子って言うなぁ!」


それから、ユウラが落ち着くまで何度も踏まれたがやっぱり嬉しくはない事がわかった。



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