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告白

ギルティアに連れられ、レティーナは王宮の奥の方に位置する庭園へ来ていた。

ここは、王族のプライベートスペースになっていて、専属の庭師と王族、特別に許可された人間しか入ることは出来ない。

もちろん、入り口には警備の兵がいるし、有事の際にはその限りではなかったが…。


そして、今は有事ではない。隣国との関係は良好だし、王の懸念事項であった王弟の問題も解決している。

つまり、今ここでは、レティーナとギルティアの二人きりという状態だった。


ギルティアは東屋にレティーナを誘う。


「ギル…」


続く言葉をギルティアはレティーナの唇に指を当てて黙らせた。


「まずは、僕の話を聞いてくれますか?」


そう言って、彼女をベンチに座らせると、自分もその隣に座った。


ギルティアの話とは、こう言うことだった。


曰く、

レティーナを屋敷に送り届け、自分もラナンキュラス公爵に保護されたギルバートは王弟であるモンステラ卿が二人に聞かせた内容をそのまま伝えた。

それはすぐに王に伝えられ、モンステラ卿はすぐに捕らえられたのだという。

逮捕され、貴人用の牢に入れられた彼は支離滅裂なことを言っていたという。

この中で、ハイドライドとギルバートの取り替えの話もあったらしい。

尋問官は医師を同伴させ、彼が正気を保っているときに、その事についてを徹底的に問い詰めたそうだ。

その結果、モンステラ卿はわざわざ王妃と似た容姿の彼女の遠縁に当たる娘を探しだして娶り、ギルバートとハイドライドが同じ年に生まれたことを利用して、二人の赤子を入れ換えたのだという。

一体いつの間にと思わないでもないが、叔父が生まれたばかりの甥の祝いに訪れることは不思議ではなかったし、誕生を祝う宴に紛れておこなわれたのではないか、という結論になった。


そして、二人の入れ替えが行われたことを証言することになったのは、当時見習いだった助産師だった。

当時二人を取り上げた助産師たちは既にこの世にはなく、本当に二人が入れ換えられたのかを証明するものがなかった。

だか、当時見習いだった者にまで範囲を広げると、一人の女性が見つかった。

モンステラ卿の子息、ギルバートを取り上げた助産師に見習いとついていた彼女はこう証言したという。


「生まれたお子さまの瞳はオレンジかかった鮮やかな赤い色をしていました」


と。


「じゃぁ…」


思わず、といった感じで呟いたレティーナにギルティアは頷いた。


「そう。モンステラ卿の本当の息子はハイドライドで、僕…いや、ギルバートが本当の第二王子だったんだ。でも、今回のことは王家にとっても醜聞でしかないからね。だから、モンステラ卿は病死、問題児だった第二王子は幽閉。そして、混乱を避ける為に、本当の第二王子であるギルバートは名前を変えて、双子の第三王子になったんだ」


それに、いつも前髪で顔を隠していたからギルバートの素顔を知ってる人はいないしね、とギルティア・・・いや、ギルバートは穏やかな表情でそう告げた。


「そう・・・。でも、どうやってあの傷を治したの?」


少なくとも傷を治した者はギルバートの素顔を見たことになる。


「あぁ、やっぱり覚えてないんだ?」


レティーナの問いに少しだけ困ったように目尻を下げてギルティアは言った。それにレティーナは何の事かわからないと言うように首を傾げて見せる。


「君が、治してくれたんだよ。レティ」


「え・・・?」


一体いつ治したというのだろう。少し考えて、レティーナがギルバートの傷に触れたのは捕らわれていた時にその瞼に口付けた時だということに思い至る。


「あの時、君は治すつもりなんて無かったのかもしれないけど、あの時に君が治してくれたおかげで、僕は生まれ変わることが出来たんだ」


そう言って穏やかに微笑むギルティアは確かにギルバートであって彼ではないように見えた。生徒会の件で顔を合わせた時から短いとは言え、彼と同じ時間を共有してきたからこそ、以前の彼と今の彼が違うのがわかる。以前から穏やかではあったが、口元だけで微笑む彼には常に影が付きまとっていたが、今、その影を感じることはなかった。


「だから・・・」


そう言って、ギルティアは立ち上がりレティーナの前に跪いた。そして、そっと彼女の手を押し戴く。


「どうか、僕と結婚してくれないだろうか。モンステラ卿が君に触れたときに目の前が真っ赤に染まったんだ。あいつの穢れた手が君に触れるのが、許せなかった。それに、ハイドライドが君に言い寄るのも、本当はずっと嫌だったんだ。だから、どうかこれからの人生を僕と一緒に歩んで欲しい」


そう言って自分を見つめてくるギルティアの深く青い瞳と目が合ったとたん、レティーナの頬が赤く染まっていく。それは決して空を赤く染める西日のせいだけではないだろう。


しばらく見つめ合い、レティーナは小さく頷いて見せたのだった。

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