第三王子
王妃の言葉でレティーナは初めて二人の後ろにもう一人いたことに気付いた。
ギルティアと名を呼ばれた彼はスッとレティーナの前まで来ると、王妃に似た美しい顔に喜色を浮かべて彼女に挨拶をしてきた。
「初めまして、ラナンキュラス嬢」
そういって、レティーナの手を掬い上げ、その甲に軽く触れるだけの口付けを落とす。
その洗礼された仕草とその表情にレティーナはしばし呆け、慌てて挨拶を返す。
「初めまして、レティーナ・ラナンキュラスと申します」
「レティーナ嬢と、お呼びしても?」
「ええ…」
「僕の事はギル、と」
「…ギル様?」
ギルティアの申し出に戸惑いながらもそう呼べば、彼は嬉しそうに、その顔を綻ばせる。
そんな二人の様子を国王の夫婦は微笑ましげに、ラナンキュラス公爵は面白くなさそうに見ていた。
そんな大人たちにレティーナは困ったように顔を向ける。
「あの、これは一体、どういうことなのでしょう?」
「レティ、見たままということだよ」
そんなレティーナにラナンキュラス公爵が答える。
「ギルバート・モンステラはもういない。彼はギルティア・アウストロメリア殿下だ」
父の言いたいことは分かる。わかるが、大人たちはそうなった理由を説明する気はないようだ。
理由を聞きたいと言外に伝えてくるレティーナの様子にギルティアが口を開いた。
「父上、少々彼女と二人きりにしていただけますか?」
「あぁ」
「そういえば、奥の庭園の花が見頃を迎えていたわよ」
王が了承し、王妃がレティーナ嬢を案内して差し上げたら?と促してきたので、ギルティアはレティーナを奥の庭園に誘った。
「私に庭園を案内させて頂けますか?」
「ええ」
王妃の薦めた庭なら見ないわけにもいかず、レティーナはギルティアにエスコートされる形で王の私室を後にした。




