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理由と妥協案

「・・・レティ、大丈夫?」


ぐったりとした様子でテーブルに突っ伏しているレティーナにプリシアが心配そうに声を掛ける。


「・・・、ダメ。っていうか、しつこすぎない!?」


貴族の令嬢としてはかなり行儀の悪い姿勢で叫ぶように幼馴染二人に訴える。

ちなみに今は放課後でアリシア、クレア、リリアーナはすでに寮の自分の部屋に戻っている。


そう、マクルスの勧誘はレティーナが思っていたよりもずっとしつこかったのだ。

それでも最初のうちは昼休みに声を掛けられる程度だったからまだよかった。

それが彼女の教室まで時々来るようになったと思ったら、短い休憩時間の度に教室まで来るようになるまで早かった。

一度だけだが、化粧室に行って、出てきたら、化粧室の入り口で待ち伏せされていたことがあった。

あれは流石に引いた。

共にいたクレアもドン引きしていたからレティーナの感覚がおかしいのではなく、マクルスがおかしいのである。

最初の勧誘の話から二週間。

逃げても逃げてもどこかから湧いてくるかのようなマクルスの訪問攻撃にレティーナは精神的に疲れ果てていた。

そこにプラスして、おとなしくなったと思っていたハイドライドがこそこそと(そうは言っても隠れきれていない)何かやらかそうとしているようだし、で、頭が痛くて仕方がないのである。


「いい加減諦めたらどうだ?」


そんなレティーナの向いに座り、呆れたように彼女を見ながらルドベキスが言った。それにレティーナはがばっと顔をあげる。


「嫌に決まってるでしょ!私は表だって動くのは嫌いなの!」


心底嫌だと雄弁に語る表情を浮かべたレティーナは、そういい返したルドベキスの視線が自分の後ろに向けられていることに気づいて、嫌な予感がしてすぐさま席を立とうとした。

しかし、そんな彼女の肩は彼女の背後から現れた人物に容易く抑えられてしまう。


「やぁ、ラナンキュラス嬢。こんなところにいたんだね。隣りに座っても?」


そう言って、レティーナの返事も待たずに彼女の右隣にマクルスが、左隣には無言のルピナスが陣取る。 ちなみに彼の手は逃がさないとばかりに、レティーナの肩を掴んだままだ。


・・・。地味に痛いから離してくれないかしら?


「しかし、確かにここなら密談や密会にもってこいだな。こんなところに来る生徒なんてそうそういないだろう」


「・・・別に密談も密会なんてものもしておりませんよ?そんな不穏な疑いをかけないでください」


ルピナスがこぼした呟きにレティーナは心外だと言わんばかりに不機嫌を隠しもせずに返した。


「あぁ、すまない。今のは例えで君たちがここでそんなことをしているとは思っていない」


さらりと謝罪を口にされ、レティーナはどこか肩すかしをくらったような気分になった。

ルピナスは自分のことを毛嫌いしているのだと思っていたのだかそうでもないのだろうか?


そんな二人のやり取りを楽しそうに見ていたマクルスが口を開く。


「さて、君が本気で嫌がっているのはわかるんだけど、僕たちもせめて生徒会には入ってもらわなければ困るんだよ」


いつもよりも幾分真剣味を帯びた声でマクルスは切り出した。それにレティーナは首をかしげる。


「私よりも優秀な方はいくらでもいると思いますが・・・。そんな方々ではなく何故、私なのですか?」


とりあえず、レティーナが逃亡しないと判断したのだろう。肩を押さえていた手はどけられた。


「君たちの学年には第二王子殿下がいるだろう?」


「いますね」


「今まで慣例として王族がいる場合、彼らは生徒会に所属することになっているんだ」


マクルスがハイドライドを話にあげた時点で、なんとなくレティーナにも流れがわかった。


「だが、アレを生徒会長に就けるわけにはいかない」


ルピナスが苦々し気に言う。彼の言うとおりだろう。王子だから、と権力を笠に好き勝手にやっているのだから。そんな彼が生徒会長になんてなったら、学園の安寧は確実に壊れるだろう。


だからだ、と彼らは言う。


「あの第二王子の代わりに誰を生徒会長に推すか悩んでいたんだけど、そしたらあの決闘騒ぎだろう?」


その時のことを思い出しているのか、マクルスがくつくつと笑う。ルピナスも纏う空気も心なしか柔らかくなったように感じるのは気のせいだろうか?


「あれを見て、君になら任せられると思ったんだよ」


「もし、会長になるのを承諾されなかったとしても生徒会には引き込むつもりではいるしな」


「・・・」


つまり、この件に関してレティーナに拒否権は無い、と言うことらしい。


「はぁ・・・。私に拒否権は無いということですね。でも、会長になるのは遠慮させていただきますわ。これ以上、アレに絡まれたくないんですの」


「まぁ、気持ちは分かるよ」


大きなため息と共にこぼしたレティーナの言葉にマクルスは苦笑しながら応じた。


「なら、君には彼の補佐として、副会長に就いてもらう事にしよう」


「彼?」


マクルスの言葉にレティーナが首を傾げると、ルピナスが入り口の方へ声をかける。

ちなみにここは、旧校舎の図書室にある自習スペースである。

普段から使用者のほとんどいないここはレティーナの息抜きの場となっていたりする。

まぁ、それでもここは学園の施設であるため彼女たち以外の利用者もいるのだが、今は彼女たち以外いない。

そんな図書室に1人の男子生徒が入ってきた。

淡い金糸の髪に、日に当たったことのなさそうな白い肌にそれでも鍛えてはいるのだろ、無駄な肉のついていないけれど、男としては華奢な印象を受ける体躯。

整った顔を思わせる薄く形のいい唇、しかし、レティーナたちに向けられているであろう瞳は長く伸ばされた前髪で隠されていた。

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