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なんとつまらぬ神世界  作者: 鷹隼 籠
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柔剣

お久しぶりでs。

脱稿しましたのでこちらの世界に帰ってきました。

裏庭の少し行ったところに本当に道場があった。だいぶ古風な木造のやつだ。

「待たせたか?」

「ううん?私も、今来たとこ」

「そっか。その、なんだ。今日から、よろしく」

その言葉に吹き出すコハク。彼女が感情を表に出すのは珍しい、というか初めてなのではないか。そんな変なことを言ったつもりはないが、いい加減改まるのはやめろということならそうしよう。

道場の礼儀作法を教わりながら実践して一通り終わらせると、コハクが道具置場から3つの竹刀を抱えて戻ってきた。それぞれ長さも違えば太さも違う。長さも太さも違えば当然重さもそれに比例する。

「一本一本持って、構えてみて。しっくりきたところで、教えて」

「わかった。…こうであってるか?」

「腰が引けてる。もっとどっしり構えて」

当然剣道なんて納めていない。コハクにちょこちょこと姿勢を直してもらって初めて、正しい構え方ができた。しかし窮屈だ。この一番大きな木刀を構えるには、いろいろなものが足りない気がした。

「ごめん。これはちょっと重すぎる。そもそもこれは何をしてるんだ?てっきり投げられるところからスタートかと思ってたんだけど」

「まずはソウキの体感覚にあった獲物を見つけないと。それとも、殴るだけのグラップラー、やる?」

「痛そうだから、やめとく」

「どっちにせよ痛くなるから、安心して」

唐突な地獄にたたき押す宣言で唖然とする俺。どうせ痛くなるなら、最後までしっかり選ぼう。二本目。今度は一番小さいやつだ。これは軽い。軽く素振りをする。振り回すにはちょうどいいが、

「筋肉の動かし方にセーブがかかってる。軽すぎ」

とのことで却下。残った一本を握る前にコハクが口を開く。

「もしこれでもしっくりこなかったら、また別の持ってくるけど、剣以外にしっくりきそうなもの、ある?」

「剣以外と言ってもなぁ。別に特段戦闘術をやったことがあるわけじゃないし。それこそ銃ゲーくらいしか」

「銃、分かった」

一つ頷いて俺に最後の一本を放ってくる。慌てて受け止めたが、重すぎず軽すぎず、自分の手に収まるような感じがした。先ほど教わった構え方で上段から振り下ろす。

――――。

その時初めて体の筋肉すべてが一体となって動いた気がした。

「これだ。これ、ちょうどいい」

「じゃあ、いまの構えと…この構え、どっちがしっくりくる?」

「今のほうが肩の力が抜けるかな」

先ほどの自分の体の前で剣を持つよりも、半身で刀身をより倒したいまの状態のほうが楽だった。その言葉に再度頷いて、その木刀たちをかたし始める。おそらく俺にあった獲物とやらに確信を得たのだろう。俺も最後に握った剣をコハクについて行って、元あっただろう場所に戻した。

「ソウキにこれから教えるのは格闘術と剣術。後者はさっきので両刃剣が理に適うと思うから、私の大剣の振り方を少し変えたやつを教える。気に食わなかったら自分にあうように調整して。変な振り方してたら言うから」

今度は俺が頷く。ついに鍛錬が始まるのだ。まずは格闘の基本から。体幹がどうのだとか体が硬すぎだとか、技術よりも前の前提でダメ出しを食らいまくる。おかげで夕飯後のストレッチが30分伸びることになった。だがこの程度で気落ちはしない。分かっていたことだ。文句ひとつ言わずにそれを快諾すらした。

「ここは、こう」

まずは拳法の方からいくようで、構え方から指示が入る。そのたびにこうか?こうか?と相槌を入れて完成形に近づけていく。アバウト10回くらい直したところで支持がやむ。どうやらこれが完成形のようだ。つぎに自分に合うように崩してと言われたので少しづつ調整していく。悪くなったところでコハクが言ってくれるので、いわゆる微調整というほどで納める気はなかった。

結局その構えだけに20分ほどを使ってから素振りに入る。拳打は基本、肩から撃つ場所に対して直線にひねりながら放つものだそうだ。拳を突きだすたびにこれまたアドバイスが入る。そのたびにそれを意識して振るうこともう40分。時間としてはすでに鍛錬開始から1時間半ほどたった。

「そろそろこれはおしまい。今日中にあと柔と剣の基礎だけは全部教えたい」

「なるほど。でも一気に納められるもんなのか?格闘技って」

「そうしないと死ぬ、そう思えばできそう、でしょ?」

私は師匠が死そのものだったというコハク。その師匠あってのこの弟子だ。死とまでいかなくともそれなりの覚悟はしておくべきだろう。たとえば夕食を抜かれるとか。割と想像力が貧困だったことに自分のことながら呆れる。

「で、次は何やるんだ?」

「柔道。体の柔らかさが一番必要。アーユーアンダスタン?」

「それくらいわかるわ!一応学校の授業とかでもやってるけど」

「当然そのもっと上を目指してもらわないと、残念だけどあの人には勝てない。というか、納めても勝てないかも?」

「モチベーションが下がりそうなこと言うな」

これもまた宣言通り基礎からだ。拳法とは違って受けの姿勢を重視した構え。

ちゃんとした受けの技法が身についていない限り、すぐに急所を撃たれてしまいそうだ。そう考えてしまう時点で打撃の方が自分には合っているのかもしれない。授業でも習っていたせいか、構えの導入部分はすぐに終わる。

今度は受け身だ。柔術の基礎はすべて受けから始まる。目を閉じコハクの押す力に逆らわず敢えてその方向に倒れて、受け身を取ってから立ち上がるという受けの特訓だ。最初は前からだけだったが回数を重ねるにつれ後ろや横、果てには斜め後ろや連続でランダムに押したりしてきた。

その回数はゆうに100回を超えていて、分からなかったり、間違っている点に関しては、その時点で師から修正点が告げられる。その成果か、150回目ぐらいからすべての方向からの力に対して正確に受けをとれるようになり、200回目あたりには受けを取って立ち上がるまでの動作がかなり短縮されていた。

「ここまでできれば、ギリギリ及第点。これから毎日やらないと、いつ死ぬかわからない」

「日々鍛錬。ローマは一日にして成らずと言ったものだしな」

「じゃあ次。いい加減、投げ技ぐらいはまともにやれるようにならないと」

そのまま俺の襟と裾を掴む。どうやら相手はコハク自身のようだ。

「あの、なんだ。コハクはそれでいいのか?」

「ん?何か変?」

そりゃそうだ。男同士でやる分には何の問題もない。だが異性間となると話は別だ。袖はまだいいとして、問題は襟。どちらかと言えばスレンダーに分類されるコハクとはいえ、膨らむ部分は膨らんでいる。要は倫理観に縛られていて、とてもではないが掴むことができない。

「えっと、俺が襟をつかんでも何とも思わないのかなと」

「別に」

そしてこれまた本人は気にしていないときた。となるとぶつかり合うのは自分の倫理観と現状だけ。今までであれば倫理観を優先しただろうが、今は必要なことならばなんだってやる。そう昨日の夜に決めた。意を決してコハクの襟をつかむことにする。小指球のあたりに当たる女の子らしい柔らかな感触と温かさを首を横に振って振り切った。そのころにはすでに俺の足は宙に浮いていて。

「てい」

「うっ」

少し前まで受け身の特訓をしていたせいか、頭の判断を待たずして体が動く。なんとか怪我は免れた。しかし剣道場とも柔道場ともいえないこの道場の床は木製なので痛いものは痛い。なんとか立ち上がって着くずれを直す。

「いってて、やられたやられた」

「いつまでたっても投げないから、私が投げた。どうやらさっきの鍛錬の成果はついてるみたい」

「おう。何も考えずにまず手が出たよ」

「それはいいこと。だけど、油断してたのはダメなところ。もし私が本気だったら、ソウキのあばら骨4本くらいは持ってける自信がある」

コハクの神意は身体強化だったはずだ。昨夜の話では憑依状態であるならば憑依者の身体能力は向上すると聞いたが、”過剰”というあたり、それをさらに超えると言うことだろう。デメリットでコントロールできない狐耳生成がつくぐらいなのだ。あばら4本どころか背骨がいってしまってもおかしくないのではないか。

もう一度コハクと組む。もう頭の中に雑念はない。すぐに彼女を背中に背負ってから床に落とした。一方コハクはそれにちゃんとした受け身を取る。それなりにちゃんと投げられたと思っていたのだが、立ち上がったコハクから告げられたのは”雑”の一言だった。それから背負い投げだけを永遠と繰り返し、投げては投げられ、そのたびに改善点を吟味した。

それは日が傾き、町の建物たちを金色に染め上げるころまで続いた。


ながらく間が空いていましたが、別件で脱稿しましたのでまた書き始めることができそうです。やったぜ。

定期的にとはいかないかもしれませんが、善処しますのでこれからもよろしくお願いします。

どうやら携わった企画の頒布物はコミックマーケットc93、要は今年の冬コミの一日目サ37aとなるようです。ご興味があればぜひ。

感想などもお待ちしてます。モチベが上がりそうなこと書いてください(本音)。

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