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なんとつまらぬ神世界  作者: 鷹隼 籠
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鍛錬

1時間半後、結局俺はタイムオーバーしたが10キロ走りきることに成功。とりあえず1時間15キロを目指そうと言うことで朝の部は終了した。

荒州さんの手作り朝食を食べて、コハクと学校へ向かう。教室にたどり着くと恋人だのカップルだのつまらない騒ぎでうるさかった反面、”昨日風邪で休んでたけど大丈夫か”とか”コハクちゃん昨日の包帯、もうとれたんだ”という温かい声もあった。ヒナもどうやら俺の唐突な休みに心配を隠せなかったのか、”一言くらい連絡いれてよ”とお怒りになっていた。どうやら俺の家での一件は広まっていないらしい。それ以外は特に音沙汰もなくホームルーム、一現、二限と過ぎていき、気づけばホームルーム終了の合図が耳に届いた。そう、疲れで授業内容はほとんど頭に入っていないからだ。

「…ぇねぇ、ソウキ?ソーキ?おーい」

「…」

「おきろてめー」

「…ぐっはぁ!?」

どうやら意識は覚醒していても体は限界のままのようだ。コハクに椅子から蹴り飛ばされて初めて目を覚ます。

「お、起きた。ソウキ、おはよう」

「お、おはよう。すまん。なんか声は届いてたんだけど体が動かなくて。それより起こし方、もうちょっと何とかならなかった?」

流石に第一声の次が蹴り飛ばしというのはどうなのだろうか。背中を叩くとか、百歩譲って頬に鉛筆を刺すとかバケツで水をぶっかけるとかあるだろ。…いや、バケツは蹴り飛ばしより勘弁してくれ。

「うーん。師匠にはいつもこうやって起こされてたけど」

「そうか。たしかにあいつならやりそうだ」

ただでさえ可愛らしいこの女の子をどうして蹴り飛ばせるのか。憎くて仕方ない相手への憎悪がさらに増えた。殺す。あいつだけは絶対に殺す。幾ばくかコミカルになってしまったがこれだけは絶対だ。

紗奈の仇は俺が討つ。

コハクに視線で”はやく修行をしに行こう”と告げると、彼女は頷いてカバンを机から持ち上げた。

じゃあ行こうか。そう言おうとした瞬間のことだった。顔面右方向から俺の頭部よりも明らかに質量の大きいものがぶつかってくる。カバンだ。当然俺は横倒しになるわけなのだが、その犯人がカバンを振り切ったスノーホワイトの少女だということが驚きを増幅させる。

「な、なにすんだ…?」

「え?まだ目が覚めきってないから、殴ってって」

「言ってねぇよ!はやくこの後のなすべきことをしようって言ったんだよ俺は!」

どうやら馴染みのように目線で会話するのはまだ難しいようだ。これからはちゃんと言葉で伝えよう。ただでさえ常識の枠外にいる存在なのだ、この少女は。若干常識感が欠けている部分もあるし、このままでは俺の命が持たない。まわりからはついに”あれ恋人っていうか主と奴隷みたいになってない?”みたいな声が出始めている。その声から逃げるようにカバンを持って教室から飛び出した。

「ソウキはいつも焦ってる。私も行くのに、なんで待ってくれないの?」

「基本的にはお前の責任だ。少し反省してくれ」

「ん?」

なんでと言わんばかりに首を45度くらい傾けるコハク。だめだこりゃと頭を抱えつつ足だけは学校の外に向かって動かし続ける。

「で?この後は?」

「うん。このあとは戦闘技術の鍛錬。それが終わったら体作りとストレッチをしておしまい」

「わかった。どこでやる?」

「無論、アレスんち」

一体どこまで設備整ってんだよあの邸宅は。でも最寄りの道場なんて知らないし、探している時間もない。むしろ絶好のポジションだと思う。そうと決まれば善は急げ。すぐにでも荒州さん宅へ戻ることにする。そういえば俺はこれからどこに帰ればいいのだろう。紗奈と違って家事などほとんどできないし、家に帰っても俺一人だ。近くに親族の家もなければ、幼馴染の家に泊めてもらうということもあり得ない。そうとなると消極的に荒州さんにお世話になるしかないわけで。帰ったら面倒を見てもらえるようお願いしてみよう。

立派で豪華な荒州さん宅までの道のり約15分の間、どうお願いしようか、俺から出せる条件は何だろうかと絶え間なく考えていたせいか、すぐに過ぎ去って玄関に到着。コハクは合鍵を持っているらしく、そのまま施錠されていた玄関ドアを開錠した。

「「ただいまー」」

二人して恒例の帰宅宣言をすると、リビングで水分補給をする。家主の姿は見えないので今は勤務中のようだ。そういえばあの人は既婚者なのだろうか。もしそうならばお世話になるのは考え直さなければならない。せっかくの家族との空間を壊すのは、失った者として本意ではない。”家の裏に道場があるから、あとでそこで待ち合わせ”という声に了解の頷きを返して俺にあてがわれた部屋へ戻る。いつの間にかPCとディスプレイはセットされていた。それもつい最近買ったケースに移し替えられて。やはりこういう所はパーツメーカーの人だなあと思ってしまう。なんでも仕事帰り、缶ビール片手に酔っぱらいながらPC組むような人なんだから。感謝しながら電源スイッチを押すと、荒州さんのところのメーカーロゴが現れて…

「なんでユーザー名が”道着はクローゼットのなか”とかいう名前になってんだよぉ!」

パスワードを解析されている。荒州さんのことだ。おそら俺の記録媒体すべてを閲覧したに違いない。残念だったな。如何わしい画像は全部ポケットの中の方なんだよ。試しにいつものパスワードでログインを試みると、あっさりとデスクトップ画面が吐き出される。パスワードまで変える鬼畜ではなかったらしい。一安心のため息をついてPCを落とした。

クローゼットを開けると、ユーザーネームの指示の通り、ハンガーにかかった柔道着とも剣道着ともいえない中間的な道着の用意が済まされている。すぐにそれに袖を通して、道場へ向かうことにした。


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