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なんとつまらぬ神世界  作者: 鷹隼 籠
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不穏の幕開け

「さっきのワードの中に社の家系っていう単語があったんだが、俺には関係があるのか?」

「当然。ソウキは社の人じゃないの?ふーん、そうなんだ、へぇー」

「分かった分かったよ。コハクの話を信じる。信じるから、詳細はよ!」

「仕方ない。じゃあさっきのじじぃの話に戻るけど、単刀直入に言うと、私たちにもそう言う能力が宿ってる」

「…」

いやいやいや、そんな分けねえだろ。どこぞの銀髪紅玉の討ち手じゃあるまいし。

「信じるって言ったのに」

俺の顔にまた”信じられるか”という文字がありありと刻まれていたらしい。再度口を尖らせるコハク。今度は物で釣るわけにはいかない。

なんでかって?

金がねぇからだよ…。

「いや、信じてないわけじゃないぞ?ま、まさかそんなことがあるとは思えなくてさ。私たちってことは、コハクは持ってるんだろ?異能系。どんなの?」

「はぁ…、こんなの」

そう言ってコハクが自分で頭を撫でると、

なんと不思議なことに、狐耳が最初からそこにあったと言わんばかりに生えていた。

「なるほどわからん。詳しく頼む」

「私の神意は過剰憑依、時間滞留。今見せたのが過剰憑依、って言っても能力のデメリットを無理やり引き出しただけで、しばらくこの耳は消えない。あともう一つの時間滞留だけど…」

先ほどまで握っていたフォークをダーツのように腹を指先でつまみ、容赦なく俺に投げる。

そのスピードはいわゆるダーツとは比べ物にならないものだった。彼我の距離はものの1メートルほど。おそらくあと0.01秒後には俺に突き刺さるといっただろう。

「…っ!?突然何すんだよ!?」

「これが私の二つ目の力、時間滞留。簡単に言うと、反射神経の反応速度を上げるって感じ。だから自分で投げたフォークを、ソウキの目の前でキャッチできる」

俺の目の前(文字通り)でピタッと静止させたフォークをひっこめながら説明してくれた。ほんとに死ぬかと思った。が、自信の命の危険という対価を支払って得たものは多い。

「つまり俺たちの家系はじいさんの契約が脈々と受け継がれている、と。そういうことか」

つまり俺も、また紗奈もこのような得意な力を隠しているということ。しかし俺が過去に人間離れした力を見せたことはない。紗奈もそうだ。どちらかと言えば優等生の部類だが、何か突出しているというわけではない。

手のひらを見つめて握ってみる。巨大化したりする兆候はなさそうだ。

「そう簡単に使えるようにはならない」

「特訓とか修行が必要ってことか?」

「そう」

その辺りは俺も楽に受け入れることができた。意識しただけで超常の能力が使えるようになっては主人公補正もいいところ。そういうつまらん展開は好きじゃない。

「まあ、それは置いておいて。ここからが本題。これはソウキに直接関係すること」

「うん?社の家系の部分が本題だと思ってたんだが」

「違う。厳密には、私はソウキだけを見張るために来たんじゃない」

私は、と続けようとするコハクの口は、先ほどからあらわになっている狐耳の微動によって静止させられる。神妙な顔。どうやら耳に意識を集中させているようだ。数秒後その狐耳がピンとたって、

「いくらなんでも速すぎる…。このままだと、サナが危ない」

は?

「おいおい!?サナってうちの紗奈じゃねぇだろうな!?」

「うん。そのサナだよ。はやく家に戻らないと。私は彼女の見張り、つまり社兄弟の護衛のためにここに来たんだから」

「何が起こるっていうんだ?まさか交通事故にあうっていう未来視か?」

「もっとひどい。けど神意を使わずともわかる。サナは命を狙われてる。そしてソウキ、あなたも」

なぜ?という疑問は後回しだ。理屈付けはあとからでも可能。今は行動することが最優先だ。今できることはなんだ。学校から一緒にやってきた自転車なら使える。ほかに遣えるものはなんだ。

「今紗奈はどこにいる?」

「私の耳によれば、自宅」

「くそっ、ここから西神夜まで自転車で飛ばしても30分かかるぞ」

「それじゃ間に合わない。多分その距離だと、私が走っても間に合わない」

さっそくの詰み。運命はすぐに袋小路にするから嫌いだ。自転車よりも、おそらく俺の自転車よりも速く走れるコハクよりも、速い移動手段が必要だ。考えろ。袋小路でも、穴は掘れるはずだ。

「今すぐ家に戻りたいんだね?なら僕が一肌脱ごうじゃないか」

車のキーらしきものを人差し指からぶら下げて微笑む荒州オーナー。車なら間に合うかもしれない。どうやら運命、今回は袋小路にしなかったらしい。

「どうだコハク、車なら間に合いそうか?」

「うーん。ギリギリ。相手次第。とりあえずそれで行こう」

「了解。久しぶりの人乗せドライブだからね。飛ばしていくよ」

荒州さんにお願いしますと言うと、店の奥にあった地下駐車場へと通される。流石CEO、超いいレーシングを持っていらっしゃる。

「さ、乗ってくれ。さっき言った通り飛ばすから、ちゃんとシートベルトつけるんだよ?」

その言葉に二人で頷き、後部座席に乗り込む。エンジンをかけてギアを入れるところまでしか、俺は覚えていられなかった。


「もうすぐ着くよ!準備して!」

その声に俺の意識は現実に引き戻された。どうやら圧倒的ドライビングによって気を失っていたようだ。隣のコハクも大丈夫なように見えて、頭が前後左右にふらふらと揺れている。ドアに体重を預けるように掴まった瞬間、ブレーキングではあり得ない衝撃が俺たちを襲った。

車が、宙に撃ちあがっていたのだ。窓から見えるのは茜色に染まりかけた空と、自宅が面しているアスファルトの道路。重量のある車はすぐに落下運動を開始して、俺の意識もろとも地面にたたきつけられた。衝撃にただでさえ朦朧としていた意識が再度吹き飛びそうになるが、痛みと温かいどろっとした何かにそれは阻まれる。

「…いっつ…。一体何が起こったって言うんだ…?」

思い頭でを動かして現状の把握に努める。幸いにもコハクと荒州さんも息はあるようだ。コハクは俺同様額を切った程度で済んだようだが、荒州さんの方はひどい。自分の血でエアバックを赤く染め上げるその姿はむごいものだ。そのほぼ骸状態の彼はギリギリのところで意識の手綱を握り直し、エアバックを弱弱しい動きで一回殴りつけた。一番か弱そうで実は人間離れした力を持つコハクが、なぜかただ一人意識を失っている。

「くそっ!僕のことはいいから、コハクちゃんを外に出すんだ!君はその後すぐにでも紗奈ちゃんのところに行け!」

「何言ってるんですか!?あんたが一番重傷だ!すぐに出しますからちょっとまっ」

「僕のことはいい!それよりも、はやくコハクちゃんと君の生家へ向かうんだ!取り返しがつかなくなる、その前に!」

何を言っているのか分からないが、その鬼気迫った真っ赤な眼鏡越しの表情を見てただならぬことと察した。車は上下が反転した状態で仰向けになっており、フレームがゆがんでいない脱出可能なドアは俺の横と運転席のみのようだ。隣の席のコハクを抱きかかえドアから脱出。

見慣れた近所の道路だ。家もすぐそこに見えていて、まっすぐ70mほど進めばつくはず。目に入った血をぬぐい、口元まで垂れてきた血を舐め、コハクを抱え直してから走り出す。高校に入ってから運動という運動をしてこなかった俺にとっては、この70mですら息を切らしてしまう。ましてや重り付きとなると足取りは運動全盛期だった中学時代よりも半分ほど遅くなっているはずだ。しかし腕の中の少女を置いていくと言う訳にもいかない。

コハクが無理な姿勢にならないように気を使いながらその距離を踏破すると、家にはすでに一台の自転車が。俺の自転車は荒州さんの店の前に置いてあるはずだから、コハクの耳の言を信じていいようだ。

紗奈は、家に帰っている。

ひざ裏を抱きかかえていた右手を右足と入れ替えて、ポケットに入っている鍵を探り当てる。ダブルロック式の玄関ドアの鍵穴にそれぞれ差し込んで捻るというおっくうな作業を行うとカチャという開錠音を響かせた。


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