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なんとつまらぬ神世界  作者: 鷹隼 籠
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基礎の太刀

「じゃあ一旦休憩。はい、水」

「あ、ありがたい」

息をきらして汗を流す俺に対して、コハクの呼吸は乱れてもいないし汗の一滴すら雪の肌の上には見られない。やはり常識の枠外にいるのだろう。ペットボトルに入った水を受け取ってのどに流し込む。1/3ほど口につけたところでキャップを閉めた。

「次は何をするんだ?」

電気をつけていたコハクにそう尋ねる。

「今度こそ剣術をやる。未経験だし、今日は素振りだけ」

道具置場から俺にしっくりくる木刀とそれより一回り大きいものを、腕に抱えて持ってくると鍛錬再開だ。

剣術の構え方に関してはいくつもの構え方がある。それは知識として知ってはいたものの、いわゆる流派というものに俺は属してはいないし、剣をまともに振ったことすらない。その点はコハクの言う通りだ。なので剣道の一番基礎的な構えから入ることにした。体の向きはほぼ真正面。しかし足は前後に少し開く。自分の獲物の切っ先を自分の目線の高さに合わせた。そのまま腕を上に振り上げ、

「腕で振っちゃダメ。まずは肩で持ち上げて。そこからだんだんと手首のほうに動きを繋げて振って」

さっそくの教授を踏まえて、もう一度剣を振り上げる。

「持ち上げすぎ。それじゃあ大振りになる。もっとコンパクトに」

ここで再度ダメ出しが飛んだ。だがもちろん文句など言う気もない。ド素人相手に稽古をつけてくれているのだ。言われた通りコンパクトに振りきる。ビュッと言う風切り音とともに剣が空を切った。

「肘が硬い。もっと柔らかく使って」

「肘を、柔らかく?つまりどういうことだ?」

確かめるように剣をスローで振るが、やはり改善はされていないらしい。コハク俺の後ろに回って剣を握る俺の手を自身の手で包んだ。その手は剣術をやってきたとは思えないほど柔らかく綺麗だったが、指の付け根の皮は少し厚いらしくしっかりと握られているということがわかる。

「こう」

コハクの腕の振りに逆らわずに俺も腕を振る。

シュッ

振り切られた木刀は先ほどよりも澄んだ風切り音を響かせて停止する。だが、今までの振りと今の振りがどう違うのか分からない。いや、感覚では分かっていても体は理解していない。どこがどうなればいいのか詳細に教えて貰うと、それを意識しながら、振る、振る、振る、振る、ふる、ふる、ふる…。

コハクの助力もあって、だんだんと形になっていく。それでもアドバイスや注意は3回に一回は飛んできていて、それを軸に改善を繰り返すことしばらく。

「今日はこの辺にしとく。このままだと明日に触りそうだし」

「俺はまだやれ、っつぅ!?」

「その集中力は認めるけど、道場の備品を血で汚すのはやめて」

手元を見れば今日できたまめがすでに潰れていて、手のひらはまるで噴火口のようになっていた。確かにこれでは鍛錬どころではない。とはいっても一日でも早く、俺は強くならなければならない。こんなことで音を上げていいわけがない。

「それでも、俺はもっと強くならなきゃ。銀髪のやつを超えられるぐらい」

「なら、今すぐ休むべき。そんなボロでやっても時間の無駄。不利な状況の経験は実戦で積んで」

ひょいと俺の腕から木刀を取り上げると、濡れたタオルで柄の部分に付着した血をふき取って備蓄庫に持っていく。

「それに、もうごはんできるころ」

「えっ、もう、そんな時間か?」

剣術の鍛錬に入った時に赤く自己主張をしていた太陽はとっくの昔に沈んでいた。それに気が付かないほど集中していたことに自分のことながら危うさを感じる。

冷静になった頭でコハクの言葉をもう一度吟味した。下手な状態で鍛錬を積んでも逆効果ということも聞いたことがある。それに、鍛錬はもうしないと言っているわけではないのだ。ちょっと強くなった程度でアイツに勝てるはずもない。千里の道も一歩から、だ。コハクと道場に礼を尽くすと邸宅の方へ戻ることにする。玄関には鍛錬を始める前までなかった革靴がかかととつま先を揃えて置いてある。どうやら家主は帰宅しているようだ。それに倣って玄関の上り框を超える。

「シャワー、先行ってきて」

俺たちの部屋、厳密には俺とコハクにそれぞれ宛がわれた部屋は邸宅の二階に位置しているのだが、一階と二階を繋ぐモダンな階段を上っているところでコハクはそう言った。

「わかった。でも、俺が先でいいのか?」

いいよと手で合図すると階段横すぐの部屋のドアを開けて入っていく。どうやらそこが彼女の部屋のようだ。覚えておくことにしよう。コハクの部屋から奥へ3部屋いったところが俺が使っている部屋だ。浴室の場所は一階のつきあたりだろう。朝ダイニングへ行く際、それらしい部屋のドアを発見していた。着替えを持ってそこへ向かう。そのドアを開くと温泉施設のような脱衣所で、俺の推測が正しいことを示している。嫌な予感とわくわくとした衝動に駆られてもう一つ奥の引き戸を開けた。やはりだだっ広い湯船とシャワーが俺を迎えてくれる。シャワーヘッドに至っては3つと一般家庭とは思えない数。”温泉のような”ではなく”温泉”でいいのではないだろうか。嬉しい落胆のため息を吐くという世にも奇妙な経験をしつつ体に纏わりつく汗を流した。

「ふぅ」

一通り汗を流してからすでに湯が張られている湯船へ。汗を流してこいとしか言われていないが、これくらいの幸せならば享受しても構わないだろう。朝から酷使し続けた体にこの心から温まる温度は心地が良い。ひきつっていた筋肉がほぐされていく気分だ。

「満足してくれてるみたいだね」

ガラガラという音とともに入ってきたのは30代後半の男性だった。あわやコハクかと疑った自分を呪い殺したい。それはそうと、ちょうどよかった。荒州さんにも話したいことは山ほどある。

「あ、荒州さん。お勤め具苦労様です。あと、お先お湯頂いてます」

「そういう固いのはやめてくれってば。今は男の時間だとコハクちゃんから聞いてさ。僕も一緒でいいかい?」

「もちろんですよ」

軽く体を流した荒州さんに自分の隣を開けて勧めた。荒州さんも俺の考えを汲んでくれたようで、思惑通りのポジションに腰を落ち着けてくれる。話すなら今しかない。そう思った俺は何も考えずに口を開いた。

「こんなお願いをするのはどうかと思うんですが、しばらくの間、俺をここにいさせてくれませんか?家事でも仕事のお手伝いでも何でもしますから」

「いま、なんでもって」

「い、い、言って…」

まさか自分から地雷を踏みぬいてしまうとは思わなかった。それだけ強くなることに熱心になっているのだろうか。それとも熱くなると周りが見えなくなる昔からの悪癖か。

「ははは!なに、最初からそのつもりだったんだから気にしなくていいよ。でも、それじゃあ君の気が済まないというのなら」

「というのなら?」

「その言動。もっと親しそうなものにしてほしいな、と」

結局そこに帰結するんだなこの人。

「分かったよ。じゃあ普通にしゃべることにする。その、ありがとう」

父親の友達ということもあってとても歯がゆい。俺がこんな人とタメでしゃべってもいいのだろうか。もちろんあちらからの要請なので問題はないに決まっているのだが。

「やった!ついに蒼輝君から信頼の証を勝ち得たぞ!ここまでよく頑張った、僕!」

タメで話せるだけでここまで驚くのか。少し引いた。だが会社でも最高責任者の地位ということもあって敬語ばかりなのかもしれない。なんにせよこれからしばらくお世話になるのだし、結果としては俺としても嬉しいことだ。

了承を貰ったことで安心できたのか、体がしっかり温まっていることにいまさら気づく。荒州さんに一言言って湯船から上がると、背中に越しに”ごはんがもうできるころだから、一階のダイニングに下りるといい”と返事が返ってくる。後ろ手で引き戸を開けつつ荒州さんに頭を下げるとささっと着替えて自室に戻ることにした。

前回切るところを間違えたなと今になって反省。読みにくいものになってしまって申し訳ないです。

個人的には今話もきりが悪いと思ってます。すみません。

次話もおそらく2、3日後にあげようと思います。お楽しみにしてくれていると嬉しかったり。

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