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新たな戦友 1

ここから新章に入ります。

前の部分を読まれていない方は前章を読むことをお勧めします。

 クルトが目を覚ましたのは、後方の軍病院のベッドの上だった。軍病院に運び込まれているということは、野戦病院では手に負えないような重傷を負って戦線を離脱したということだ。


「気が付きましたか。少尉」


 白髪の老人に声を掛けられる。オリーブドラブ色の戦闘服の上から白衣を着た服装から軍医であることは間違いない。


「自分の名前と生年月日を答えられるかな?」

「クルト・ベッシュ少尉。一九〇一年二月三日です」


 忘れるはずもない自らの名前と生年月日を答える。軍医になぜそんなことを聞かれるのか疑問に思う。


「部隊はどうなりましたでしょうか?」

「君の献身的活躍によって被害は皆無。見事勝利を収めたと聞いているよ」


 どうやら役目は果たせたらしい。敵のアートランチスの遺物に殴り飛ばされたところまでは鮮明に覚えているのだが、そのあとのことは全く思い出すことができない。


「部下たちはどうしているか分かりますか?」


 アレクシスはどうなったのであろうか? もしかしたら軍曹も瀕死の重傷で意識を失っただけで生きているのではないかと淡い希望をもって質問してみる。


「ビンデバルト准尉は、戦死なされております。エグナー軍曹は、すでに回復して戦線に復帰している」

 

 しかし、その希望はすぐさま打ち消されてしまう。軍医の会話に出てきたアレクシスは、いつの間にか軍曹にまで昇進している。あの後も活躍を重ねたのだろうか?

 どうやら、アレクシスはクルトよりもだいぶ軽い怪我で済んだようだ。


「ここからは、少尉のことについてだが、少しいいか?」

「はい。いつ頃戦線に復帰できるでしょうか?」


 早く復帰して戦友達の背中を守らねばならない。クルトがこうして病院のベットで寝ている間にも戦争は続いているのだ。


「まず少尉は、体各部の骨折、頭部裂傷、などの状態で運び込まれてきた。今日まで約二カ月間昏睡状態のままだった。その間に傷の治癒はほとんど終わってはいるが、一カ月ほどはリハビリが必要であろう」

「軍医殿もご冗談を。二カ月も昏睡状態だったなんて少し趣味が悪いです」

「残念ながら冗談ではない。少尉は、本当に二カ月も眠ったままだったのだ」


 クルトは、軍医の真剣そのものの顔から冗談などではないことを読み取る。

 あの戦闘からすでに二カ月も経過しているという驚愕の事実をすぐさま理解することができない。言葉を聞き取ることができても脳が理解することを拒んでいるのだ。


「戦争、戦争はどうなっているのでしょうか?」


 二カ月もたてば戦況が大きく変化しているに違いなかった。それどころかすでに終戦を迎えている可能性すらある。初戦ですらすでに圧倒的に王国の方が優位に戦局を進めていたのだ。その後、戦局をひっくり返すほどの国力がダリアス共和国にあるとは到底思えない。


「南部のダリアス共和国との戦いは、共和国首都近郊で八個軍からなる共和国侵攻軍が塹壕戦を展開している。戦況は五分五分だ。そして、北部ではパドーソル連邦がダリアス共和国との軍事同盟を理由に宣戦布告してきている。当初は、大軍で押し寄せてきた連邦軍に押されていたが、鉄道を使った予備戦力の迅速な展開によって一気に押し返している」


 王国は、ダリアスだけでなくパドーソルとも戦争を始めたという事実に少しだけ不安がよぎった。これから他の列強もいろいろな理由をつけて王国に戦争を仕掛けてくるのではないだろうか?


「それで、少尉の処遇について参謀本部からの命令がとどいているから読んでおくように」


 王国軍の封蝋で封をされた一通の大きめの茶封筒が渡された。

 封蝋に少し力を加えるとパキッと音を立てて簡単に封が空く。軍医は、クルトが開封した日時をしっかりと書類に書き込んでいる。


 中に入っていた書類の内容を要約すればこうだ。


『王国名誉騎士勲章授与の決定と大尉への戦時昇進。それに伴う授与式典のために参謀本部に出頭せよ』


 読み終えるとすでに内容を把握していたらしい軍医が命令の補足をしてくれる。


「まずは、王国名誉騎士勲章授与と大尉への昇進おめでとう。明日には参謀本部から迎えが来る予定だからそれまでに支度をしておいてほしい。大尉のリハビリについては王都の軍中央病院で行う予定になっている」


 アレクシスも同じ日に王国名誉戦士勲章の授与を受けるために参謀本部に来るらしい。


 それだけ、言い終えると軍医は「何かあったら呼んでくれ」と言い残して他の患者の元へと向かっていった。戦時中であるため患者の数に対して医者の数が足りていないようだ。


 王国名誉騎士勲章。王国最高のほまれであり、受勲条件があまりにも厳しいために死者への授与が公式に認められている勲章だ。今までの受勲者もそのほとんどが死後に受勲している。


 今回の功績が認められた結果をうれしく思うが、もう一度体験するのだけは勘弁願いたいなとクルトは思う。もう部下が死んでしまうような過酷な戦場には立ちたくないと内心思っている。こんなことを思うようでは、軍人失格なのかもしれない。


 明日の朝に出発できるように荷物をまとめなくてはならない。しかし、いましがた起きたばかりなので特に荷物を出しているわけではない。やらなくてはなっらないのは、軍服にアイロンをかけることだ。参謀本部の高級将校にあってもいいように身だしなみを整えておかなくてはならない。

 ほとんどない荷物をまとめ終えると体が休息を欲しているのか睡魔に襲われ眠りについた。



 翌朝、起床ラッパで起きたクルトの元へ参謀本部の迎えがすぐさまやってきた。


 封筒に同封されていた新しい大尉の階級章を肩につけた軍服をしっかりと着こなして案内された軍用車に乗り込む。


 途中どこへもよらずに王都の参謀本部に向かっていく。軍用車であるため乗り心地はよくないが流れていく風景が平和そのものでクルトは一安心をする。

 参謀本部につくと佐官、将官たちが建物の前で出迎えてくれるという手厚い歓迎を受ける。そして衝撃の事実がクルトにもたらされた。


 曰く、明日には授与式典で行われるのだという。


 王国名誉騎士勲章は、その格式の高さから司令官からの受勲ではなく国王陛下直々に授与されるものである。

 そのため、不敬があってはならないからと、病み上がりの体で延々と予行練習をさせられる。

 少しだけ遅れてやってきたアレクシスと話す余裕がなかったほどである。


 なれない挙動をこれでもかというほどさせられた挙句、受勲の前祝ということで夜の街に連れ出され、しこたま飲まされた。その日は、そのままベッドに突っ込み死んだように眠ったのは言うまでもない。


「クルト・ベッシュ大尉。貴官の疑うことなきその王国への忠誠と献身をここに讃え、王国名誉騎士勲章を授与する」


 大勢の王侯貴族や軍の高級将校に見守られる中、王城の謁見の間にて行われた授与式典は成功裏に終わった。特に大きな失敗もせずにできたのは、予行練習のおかげだ。


 クルトのほかに、エトヴィンが軍服と制帽のみで同じく王国名誉騎士勲章を授与され、アレクシスが下士官がもらうことのできる最高位の勲章王国名誉戦士勲章を授与された。


 授与式典の後は、国王陛下がご臨席されての祝賀パーティーとなった。


 そこで声をかけてきたのが合成に顎ひげを蓄えた参謀本部装備部部長のフリーデル少将閣下だった。

「初めまして装備部部長フリーデルだ。これからも頼むよ、大尉」

「はい。もちろんであります、閣下」

 参謀本部の装備部部長と言えば研究職では、最高のポストである。

「唐突だが明日、参謀本部の装備部機密倉庫B―4にきてくれ。君に渡したいものがある。君にとっても王国にとってもとても重要なものだ。来れるか?」


 大尉ごときが少将の命令に逆らえるはずがない。


「必ずうかがわせていただきます」

「よろしい。それでは、楽しいひと時を楽しんでくれたまえ。まぁ、君は楽しめんかもしれんがな」


 そういうと、反対側にいる別の高級将校の元へと向かって行ってしまった。


 そのあと、クルトは王侯貴族の子女に取り囲まれて質問攻めにあい、高級将校のところへあいさつに駆けずり周ることになった。フリーデル少将の予言の通り、パーティーを純粋に楽しむことはできなかった。

まずは、最後まで読んでいただきありがとうございます。

これから本編です。

新たな仲間もヒロインも出てきますのでよろしくお願いします。

ぜひ、評価、ブクマ、感想、レビューを書いていただきたいです。

作者が泣いて喜び、三回回って「ワン」と鳴きます。

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