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始まりの戦い 番外編

「奇襲です! ポワブール大尉殿!」


 ダリア共和国軍特別遊撃隊隊長のレジス・エロワ・ポワブール陸軍大尉は、己の運のなさを呪っていた。


 共和国南方で出土された三番目のアートランチスの遺物・エイコサ。通称『ミノタウロス』のパイロットに選ばれて八年。

 共和国守備軍の一員として参戦したが、共和国軍の敗北は間違いない。


 見方を安全に撤退させるために警戒の薄い王国軍側方に少しでも打撃を与えるべく中隊規模で来てみたものの、すでに各小隊長を失ってしまった。


「くそ。敵の位置は特定できたか」

「四時、六時、八時方向からの射撃を確認しました」

「射撃地点に向かって応射しろ。グズグズするな! 援軍が来る前に撃破するんだ」

「「「了解!」」」


 王国は、現実を知らない政治家どもが思っているよりも格段に強い。


 それは、ポワブール大尉だけではなく士官なら誰もが感じている事実である。


 兵器、戦術、国力。どれも今の共和国がかなうものなど一つもない。


 アートランチスの遺物は、王国の半分の数しか保有しておらず、その性能も原初の遺物やその他のアートランチスの遺物と比べて王国軍が勝っている。


 それを政府の馬鹿どもは知らないのだ。


 いや、知っているのかもしれない。己の保身のためにでっち上げの理由をつけて、国民の目線を王国に向けるために。


 その陳腐な権力欲で犠牲になるのは、前線で戦う兵士、罪なき国民たちだ。


 政治家は、一番安全な場所で葉巻をふかしているだけだ。


「ガス発生、ガス発生」


 奇襲部隊から投げ込まれた煙幕があたりを包む。


「各機、同士討ちに気をつけろ。近接戦闘準備」

「グアァッァ!!」


 スピーカーから短い悲鳴が聞こえる。


 間違いなく敵が切り込んできた証拠だ。


「オーバン、返事をしてくれ!」

「取りつかれた、誰か助けてくれ」

「俺は味方だ。こっちを撃つな」


 流れてくる音声は混乱する味方の声。


「全員射撃をやめろ! マズルフラッシュを出すな!」


 混乱する味方に指示を出し、自らの周りに集めて統制をとる。


 最後の煙幕も晴れて混乱が収まったことに安堵する。


 敵の数は、たったの三機。指揮官機と思しき機体が部下を同じように終結させている。


「敵は少数だ。各機、連携して撃破せよ」


 たった三機でよくここまで。敵ながらあっぱれだと思いながらポワブール大尉は、行動を開始した。


 機体性能にものを言わせた高速移動により指揮官機の後方に回り込む。

 

 特別製の巨大な大剣で横なぎの一撃を放つが、とっさのところで防御された。


 頭も切れて、遺物レリックの操縦技術もピカイチ。もし、こいつが同じようなアートランチスの遺物に乗っていたら、部隊は全滅していただろうなと思う。


 ここで殺しておかなければ、後々共和国の脅威になるかもしれないと感じる。


 せめて苦しまずに逝かせてやろうとコクピットに向かって振り下ろした一撃は、別の機体によって阻まれた。


 次こそは、必ずと剣を抜こうとするががっちりと掴まれピクリとも動かない。


 力任せに引こうとしたとき、絶命したのだろう剣を持つ手が重力に従って垂れ下がった。


 その後も、繰り出す攻撃を紙一重のところで躱されていく。


 それどころか、大型のナイフで反撃までしてくる。


 すでに、機体はボロボロ。左腕はなくなり、エンジンも異音を放っている。


 ポワブール大尉は、逆に恐怖すら覚える。王国軍は、皆ここまで祖国のために戦うのかと。

 であるならば、兵器などの科学技術だけでなく兵士の質ですら共和国ははるかに劣っていることになる。


 首都・ペチカに王国の旗が翻る幻想が頭をよぎる。


「一人、援護にきてくれ」



 万全に万全を期してここで殺さなくてはならない。


 二人がかりで今にも動かなくなりそうな一機を狩るなど卑怯だと言われるかもしれないが今はもう古き良き騎士道精神のある戦場ではないのだ。


 我らが負ければ数万の味方が王国によって殺される。そういう時代になったのだ。


 今にも停止しそうな機体を巧みに動かしながらよけてはいるが、少しずつ削れていくのが分かる。


 しかし、驚くべきことによけるだけではなく、攻撃をしようと間合いを詰めてくる。


 味方が放つ銃弾がいくつも穴を穿ち、真っ赤なオイルが機体を濡らすのも構わず、ポワブール大尉へと真っすぐ突っ込んでくる。


 もはや、執念だ。


 一歩ずつ後退することで間合いを開ける。間合いを完全に詰められたらやられる気がした。


 アートランチスの遺物と言えども、後ろまで目がついているわけではない。


 後ろへ踏み出した足が窪地に足をとられ機体がバランスを崩す。


 しまった。そう思った時には、すでに飛び上がって攻撃態勢をとった敵がモニターからはみ出すほどになっていた。


 咄嗟に大剣をふるう。


 偶然にもヒットした大剣が敵の下半身を粉々に砕く。


 それでも、落下が止まらない。


 みるみるうちにその距離が詰まり、ナイフが機体に打ち付けられる。


 アートランチスの遺物が危機を自己判断してその能力を最大限発揮させた。


 エイコサの特殊な能力がナイフが食い込む速度に合わせてナイフを飲み込んでいく。



 ポワブール大尉の体に強烈な負荷が襲う。


 アートランチスの遺物は利点ばかりが広まっているが、その能力を最大限発揮させるためには、パイロットに強烈な負荷がかかるという重大な欠陥が存在する。


 だから、常時能力を使うことができないわけだ。


 左腕を固く握りしめ思いっきり下半身のなくなった機体を殴りつけた。


 ボールが飛んでいくように放物線を描いて飛んでいく。


 そしてゴロゴロと地面を転がって岩にぶつかって止まる。


 能力の発動が止まった。

 どうやらナイフを飲み込み終わったようだ。


 確実に仕留めるため近づいてく。


「ポワブール大尉殿、援軍がすぐそこまで来ています! 大隊規模だと思われます」


 無線から報告が入る。


 あたりを見回せば大きな砂ぼこりが上がっているのが確認できた。


 作戦失敗だ。

 自分一人なら大隊相手に何とかなるかもしれないが、ついてきてくれる部下たちは全滅することだろう。


「これ以上の交戦は必要ない。撤退する」


 部下を集め、今さっき来たばかりの道へと引き上げる。


 この時、しっかりと殺しておけばよかったと後悔するのはまだまだ先のことである。


最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。

今回は、王国の敵共和国の視点です。

戦争には悪も正義もありません。そこにあるのは、祖国を守りたい、国民を守りたい、愛する誰かを守りたいという願いだけです。

悪も正義もその後の歴史が決めるのであり、彼らのあずかり知らぬことなのです。

どうか、どうか、皆さまの清き評価、ブクマ、感想、レビューをしてくださいませ。作者のやる気につながります。


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