始まりの戦い 5
次に一撃でも貰えば戦闘不能に陥るのは明らかであった。
それでもクルトの瞳には復讐の光が灯ったままだ。
頭部を狙って繰り出された突きを屈伸運動でよける。
そのまま地を這うよな低い姿勢で間合いを詰めていく。
アートランチスの遺物は、突きの体制から大剣を振り下ろしてくるが、横へのローリングで回避する。
クルトが近づいた分だけ、アートランチスの遺物も間合いを開けていく。
アートランチスの遺物を援護する射撃が適時クルトの機体に向かって放たれるが、お構いなくアートランチスの遺物に肉薄していく。
後退するアートランチスの遺物が窪地に足をとられバランスを崩した瞬間をクルトは見逃さなかった。
地面ギリギリからの急激なジャンプによって位置エネルギーを得て、アートランチスの遺物へナイフを突き刺す態勢に入った。
深紅の機体も空中で体勢が変えられないクルトに対して肉厚の刃をふるう。
そして、先に攻撃を受けたのはクルトの方だった。
重い一撃がクルトの機体の脚部を襲う。すでに装甲板が剥がれ落ち、機械部分が丸見えの脚部は陶器のように軽々と粉々に砕け散った。
しかし、それでも軌道を変えずに機体の落下は続いていた。
そのまま振り下ろされたクルトのナイフはアートランチスの遺物の装甲の継ぎ目に深々と刺さった。
一瞬、すべての音がなくなり戦場が静寂に包まれる。
刺さった角度からコクピットを貫いたことをクルトは確信した。
それをひび割れたモニターごしに確認したクルトの目から一滴の涙が頬を伝ってコクピットの床に流れた。
「敵は討ったぞ、ビンデバルト二等軍曹」
静かにつぶやく。誰に聞かせるためでもなく、ただ自らに言い聞かせるために。
「やしましたね。小隊長殿」
アレクシスが賞賛の声を上げた。
突如、クルトの体に横殴りの強い衝撃が走る。
衝撃の正体をクルトが認識したのは、近くの岩にぶつかって止まってからだった。
横から殴られたのだ。
殺したはずのアートランチスの遺物に。
さらに衝撃の光景をクルトの瞳はとらえる。
刺さったナイフが深紅の機体に飲み込まれていくのである。
何事もなかったかのようにナイフが消えたアートランチスの遺物は、動けなくなったクルトに対してゆっくりと確実に近づいてくる。
「こちらCP。ウルフ八四応答せよ。ウルフ八四応答せよ」
今まで沈黙していた外部無線機から呼び出し音が鳴る。
クルトは、応答しようと無線機に手を伸ばそうとするが、操縦桿を握った右手は脳の信号を拒絶しているかの如く、操縦桿から微動だにしない。
「ウルフ八四。聞こえているならば、応答されたし」
深紅の機体の動きが止まり、あたりを警戒する。
「ウルフ八…四。応答…され…た…」
通信手の呼び出しが遠のいていく。
視界が、色彩を失っていく。
感覚が麻痺していく。
ああ、瞼が重い。
そして、クルトの意識は、深紅の機体がその他の遺物をまとめて撤退していく様子を見たのを最後にブラックアウトした。
一九二三年三月二十六日。神聖ローゼリア王国とダリアス共和国の国境で起こった戦いは、たった四時間で共和国軍国境守備隊約八万八千が全滅する。この戦いにおいての王国軍の被害は一二一九名だけだあり、共和国軍の大敗北であった。
その後も遺物部隊と戦車部隊で構成される陸上部隊と航空機による電撃戦を展開する王国軍に対して後手に回った共和国軍は次々と後退を余儀なくされていく。
そして、王国軍はたった一カ月で共和国首都・ペチカの喉元まで侵攻することに成功したのである。
今まで静観していた列強各国もこれ以上、王国がヨーロシア大陸で今以上に肥大化するのを阻止するべく、共和国支援を開始するのであった。
特に対王国軍事同盟を共和国と結んでいたパドーソル連邦は、同年四月二十日、王国とその同盟国に対し宣戦布告をすると、国境に集結させていた二五〇万にもなる大兵力で王国へと押し寄せたのである。
その対処を余儀なくされた王国は、ペチカ占領を企図した主戦力の投入を中断せざる負えなくなり、ペチカ近郊にて戦線は膠着状態に入ったのである。
こうして、近代が始まって以来初めての列強同士の戦争は拡大し始めたのである。
最後まで読んでくださった方謹んでお礼申し上げます。
今回で序章が終わりますが、作品自体はまだまだ続くので今後も何卒よろしくお願いします。
戦争で亡くなった王国、共和国それぞれの冥福を祈って、評価、ブクマ、感想、レビューを書いていただきたいです。
よろしくお願いします。