始まりの戦い 3
遺物の人間よりも遥かに大きな体に合ったライフルである。
その威力は、戦車砲並み。
クルトの放った弾丸は、小隊指揮官機の膝へと吸い込まれた。
アレクシスやエトヴィンの放った弾丸もその他の指揮官機に見事にあたったことをクルトは、視界の隅で確認する。
足の動かなくなった敵に追い打ちをかけるべくセミオートライフルの引き金を立て続けに引く。
そのうちの一発が首元の装甲板の薄いところへ命中して敵の動きが完全に止まった。
「ウルフ八五、目標撃破」
「ウルフ八六、目標沈黙」
どうやら、部下も完全に仕留めたようだ。
奇襲の成功にひとまずクルトはほっと一息ついた。劣勢の場合の鉄則は、いかに奇襲で戦力をそげるかにかかってくる。各小隊長機の撃破は、この作戦でクルトたちが生き残るための絶対条件である。
各隊長機を失った、敵が遅まきながら反撃の射撃をし始めた。その射撃は、統制の取れていないお粗末なもの。それでも数が多いために現在のクルトたちにとっては脅威であることに変わりない。
いつ、装甲板のない駆動部に当たっても不思議ではない状態だ。すでに、数発がクルトの機体の装甲板に当たっている。
「煙幕、投射!」
クルトは、短く次の指示を部下へと出した。
各方向から投げられた発煙弾が敵の周りで、白い煙を上げる。
「抜刀! 突撃準備」
ここからは、近接戦闘である。敵の視界を奪っての乱戦。少数だからこその近接戦だ。
「ここから、さらなる奮戦を各員に期待する」
「任せてください。共和国の奴らなんて、剣の錆に変えてやりますよ!」
「馬鹿か、ウルフ八六。遺物斬っても血じゃなくて、オイルが出るんだから錆にはならんだろうが」
「あっ、確かに」
二人とも今から死ぬかもしれないのに、いつもと変わらない会話をしている。
煙幕が十分に広がったのを確認して、号令をかけた。
「突撃に、前へ!」
敵の銃弾に自ら飛び込んでいく。アドレナリンの分泌によって、恐怖が抑制されていなくては一歩踏み出す事すらできないだろう。
「ウォォォォォオ!」
腹の底から叫び声を出す。敵を威嚇するためだけでなく、自らを鼓舞するために。
今までが非にならないくらいの弾が、装甲に当たりクルトの突撃を拒絶する。
肉薄したクルトは、発砲炎を手掛かりに超ジュラルミンでできた剣を振り下ろした。
金属と金属が激突する鋭い音とともに握った操縦桿が唐突に重くなった。
あたり。クルトは心中でつぶやいた。
クルトは操縦桿を力任せに倒す。それに連動して少しずつ刃が食い込んでいく感覚が操縦桿を通してクルトの手に伝わってくる。
そして、刃はあっけなく左腕を切り落とした。切り口からは、真っ赤なオイルが波打ちながらこぼれ出る。
とどめをさすためにコクピット前の装甲板を無理やり引きはがすとクルトは刃をねじ込んだ。
敵の腕が力なく垂れ下がり、銃が重力に従って地面に落ちた。
動かなくなった機体から剣を抜き取ると、新たな獲物に向かって機体を向ける。
無線からはオープンチャンネルで仲間の名前を呼ぶ声、援軍を求める声、悲鳴、叫び声が垂れ流されている。
今、敵は混乱している。
クルトはそう確信していた。の混乱が収まる前に可能な限り撃破しなければならない。
さらに、同じ要領で一機撃破する。いくつもの弾丸が当たった機体はあらゆる警告で悲鳴を上げている。
戦場に似つかわしくない春の爽やかな風が最後の煙を吹き流し、視界がクリアになる。
お互いのの姿が確認できるようになり、敵も連携が取れ始めている。
「ウルフ八四より、各機へ。密集隊形に移行せよ」
このままバラバラに戦っていても、各個撃破されるとクルトは判断した。
激しい近接戦をしながら足早に集まってくる僚機もともに傷だらけだ。アレクシスの機体は、すでに右腕が力なく垂れ下がっている。
「各機、戦闘を継続しながら損傷を報告せよ」
「ウルフ八五。軽微な損傷多数。戦闘機動には問題ありません」
さすがは歴戦の兵士といったところであろうか。
「ウルフ八六。右腕部応答なし。その他異常なし」
「八六、戦闘続行可能か?」
「もちろんであります。自分の活躍はこれからです」
「了解。期待している」
時計を確認すればすでに七分経っている。あと少し耐えれば増援の部隊が来るはずである。
「相互に援護しながら、防御せよ!」
「「了解!」」
頼もしい部下の声が耳に届く。クルトは、この時点で誰一人として欠けずに遅滞防御が成功したと一瞬、たった一瞬安堵した。
「隊長! 後ろ!」
切迫したアレクシスの声で振り返るとそこには、深紅の機体が今まさに攻撃を行おうとしていた。
いつの間にか回り込んでいたアートランチスの遺物による桁違いな横なぎがクルトを襲う。
咄嗟に剣でガードするが剣ごと空へと吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
強烈なGが全身にかかりクルトの意識を刈り取りにくる。舌を噛んで意識を保つことには成功するが、平衡感覚が取れず起き上がることができない。
「隊長! 大丈夫ですか。返事してください」
「ウルフ八六。だ...大丈夫だ。戦闘に集中せよ」
アートランチスの遺物が二撃目をコクピットへと振り落とそうと振り上げたのが見えた。
死んだ。この状況から立ち直る術を思いつかない。
ああ、最後の瞬間がスローになるのって本当だったんだ。
やけに思考が落ち着いていた。
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