最強の海軍 5
「各機、今の会話を聞いていたであろう。これよりこの地点に集合している遺物部隊を集成遺物隊として再編成する」
ポワブールは、アルトー閣下との会話を打ち切り周辺の様々な部隊から集まってきた遺物パイロットに向かって話しかける。
所属部隊だけでなく、機体自体も補給が追い付かなかったためなのか練習機であったり、旧式の機体であったりと様々だ。
「この集成遺物隊の指揮官を任せられた、ポワブール少佐である。見てわかるように私は、アートランチスの遺物に搭乗している。しかし、別に特別な人間ではない。貴様らと同じ祖国を憂う共和国軍人である」
なんだか最近は、こうやって長ったらしい訓示を良くするようになった気がする。新任将校だったころに嫌いだった、やたら訓示の長い指揮官に自身も成り下がってしまっている。
「我々に示された任務は、部隊の護衛と乗船時間の確保だ。この中には、初めて会うものもたくさんいると思うが、共和国の未来のために協同して任務を完遂してもらいたい!」
最初に行う訓示としては、なかなかの出来だったはずだ。士官学校では部隊の前で行う訓示の練習もさせられたが自慢じゃないが、最低評価だったはずだ。
それでも、このぐらいの訓示ならスラスラ言えるようになったのは、戦争のせいであろう。
戦争がなければ、訓示などを言う機会はほとんどなかったはずだ。
「次にこの部隊の指揮系統を構成していきたい。将校は名乗り出て来てくれ」
戦場で部隊を再構成することはまず、ない。全くないと言ってもいい。なぜなら、指揮系統の確立と練度の差異が生じてしまうからだ。
それでも、示された以上できる限りのことをしておかなければならない。無理難題に答えるのが将校の役目だ。
「ポワブール少佐殿。第四〇二遺物連隊所属、ジブリル・パタン大尉であります」
四〇〇番台の部隊は、予備役もしくは補充兵によって作られた急造の部隊であることを示している。
その他にも三人の将校が名乗り出てくれたが、全員が急造部隊の予備役将校だった。
この中には、ポワブールの配下にある将校四人と合わせても八人しか将校がいないことになる。部隊構成ギリギリの人数だ。
ポワブールは元々の部隊編成をできるだけ崩さないように配慮しながら再編成を進めていく。
さらに任務区分をするために簡単な操縦練度の判定を行うが、その練度の差は絶望的なものであった。
仮にも正規兵である過半数の兵員は、まだ戦闘行動がとれる練度を維持しているが、予備役と戦時召集組はもはや、弾除けになるかも怪しいレベルだ。
歩行はできるが走行はままならない。もちろん回避動作なんてできるはずもない。
銃による射撃はできている。ただし照準は、あってないようなものであるが。もちろん近接戦闘は、できるはずもない。
ポワブールは二個大隊を横隊にした鶴翼の陣での広範囲防御の考えを選択肢から排除する。もはやとりえる選択肢は正規兵で構成された一個大隊を小隊もしくは中隊単位にコマンド戦闘させるしかない。土地勘を生かした小規模部隊でのヒット・アンド・ウェイ一択だ。
練度の足りていない残りの大隊は、乗船支援させた方が効率的だ。
練度の判定を素早く済ませたポワブールが部隊の再構成と戦闘指示を済ませると、首都ペチカから向かってきた政府要人を乗せた車両と首都防衛軍の大部隊が噴煙を上げながら到着する。
四万人強の巨大な群衆の先頭を走っているのは、アルトー元帥閣下を乗せた参謀本部所属の人員輸送者だ。
あれだけの人数の集団を敵との交戦なく隠密に移動させられるアルトー閣下の手腕はカレイの一言に尽きる。
「少佐、待たせたな! 一人もかけることなく海を渡るぞ!」
「了解しました!」
アルトー閣下の引き連れる集団は、速度を緩めることなくそのままポワブールのたちの前を海岸方向へと突き進んでいく。
「各隊ごとに集団両翼にて警戒を実施せよ! 私と第一中隊は、集団前方二キロメートルの位置に前方警戒要員として向かう!」
手短に指示を飛ばして、自らも前方に向けて機速を上げる。後ろからは、最も信頼のおける第一中隊の面々がしっかりとした編隊を組んで続いてくる。
太陽が西の空に傾いた真っ赤な戦場の空は、これまでのどんよりとした天気が嘘のような、どこまでも見渡せる様な雲一つないきれいな秋空だ。もしも戦争中でなければいつまでも見ていたくなるような本当にきれいな空だった。
共和国の未来を天もが祝福するかのような空に向かってポワブールは進んでいく。
「この行軍終了後から激しい戦闘が見込まれている。各機は今のうちに腹ごしらえを済ませておくように」
行軍中は、同じような機動を行うためアクセルワークだけで操縦することができる。戦闘前に食欲を満たしておくことは、戦闘結果に少なからず影響を与えるのだ。
ポワブールは、コクピットの座席の後ろから戦闘糧食の乾パンとサラミを取り出すと、バリバリと音をたてて食べる。
遺物のパイロットが操縦中でも食べられるようにスプーンやフォークを使わずに片手で食べられるように考えられた食事だ。
塩気の濃いサラミとぱっさっぱさの乾パンでも生きていくためのエネルギーはしっかりと摂ることができる。
味のことを考えながら食べると食べられなくなってしまうので、ポワブールは素早く咀嚼した。食事に掛けた時間は、五分というところだろう。
食事を終えたポワブールは、前方の警戒と共に引っ張り出した地図を使ってできる限り長く遅滞戦闘ができるように図上演習を一人で何度も繰り返した。
読んでくださった方ありがとうございます。
そろそろ、共和国戦も終盤に差し掛かってきました。予定ではあと10話前後で終わらせる予定です。
この作品自体は、まだ続いていく予定です。
今後ともよろしくお願いします。




