秋季攻勢作戦 15
次々と真っ赤な炎が敵の機体を包んでいく。
しかし、敵の前進は止まらない。火を噴いた機体さえも火だるまになりながら前進をしてくる。
「なんなんだ! こいつらは!」
思わずそうつぶやいてしまう。すでにコクピットの中は、人間が活動可能な温度を優に超えているはずだ。炎がコクピットの中にまで侵入している可能性まである。
機体自体にも温度の上昇によってさまざまな障害が発生しているはずだ。駆動部の潤滑剤の蒸発、金属の熱膨張による動作不良、引火による燃料の消失。どれも稼働不可になるようなもののはずだ。
「射撃を継続せよ! これ以上主戦場に近づけるな!」
クルトは、空になったマガジンを流れるように素早く交換した。槓桿を引き、薬室に新たな弾丸を装填する。射撃が可能となったライフルで新たな機体に向け照準を合わせる。
しかし、照準器の先に新たな機体が入り込んでこない。
既に炎にくるまれている機体が盾となって二列目、三列目にいる後方の機体が隠れてしまっているのだ。
時節、炎の隙間から除く新たな機体に対して一発ずつ発砲するが、あまりにも弾幕が薄くなってしまう。
これ以上射撃をしても銃弾の浪費になってしまうと思ったクルトは次の指示を出す。
「フェンリル〇〇より、第四中隊各機へ。これより白兵戦に移行する。繰り返す、白兵戦に移行する。なおアートランチスの遺物との戦闘は、回避せよ!」
無限に存在するように思える銃弾も実際には有限だ。特に敵地への侵攻を行っているクルトたちは後方からの輸送に頼っている。しかし、あまりにも早すぎる進撃に兵站線が追い付いてきていない。
つまり、補給量が少なく銃弾の節約をしなければならないということだ。
「私の後に続いて塹壕から進出せよ!」
「「「了!」」」
本来であれば塹壕にこもって弾幕を張っている方が兵員の損耗が少なく、推奨される戦術なのだ。クルトもできればこんな命令を下したくはない。
クルトだけで戦うのであればまだいいのだが、部下の命が危険にさらされるのは回避したい。それでも、将校として祖国の勝利のために下さなければならない。
クルトはタイミングを見計らって勢いよく遺物用に作られた通常よりも深い塹壕を飛び出した。
命令通りに後からガウス中尉と下士官、兵たちが続いてくる。
誰一人かけることなく夜の宴会を行えることをクルトは願う。今のところ誰一人としてかけていないが、いついなくなってもおかしくないのだ。
クルトは、最も厄介な相手であるアートランチスの遺物を探す。エトヴィンの仇であるだけでなく最も危険性の高い相手をクルトが抑えることで生還率が大きく上がる。
敵方を確認すればすぐに目立つ深紅のカラーリングの機体は見つけることができた。隊列の二列目、炎にくるまれた機体のすぐ後ろに隠れている。
前線将校としてあるまじき姿である。部隊指揮官とは、部下を率いて最も危険な最前線に立ち、その旺盛な戦闘意欲をもってして部下を鼓舞するものだ。しかも、アートランチスの遺物に乗ってるのだ。誰よりも前にいるのが当たり前であろう。
それがあろうことか部下を弾除けに使い、自分はこそこそと戦うなど言語道断である。
「将校の風上にも置けないクズめ!」
こんな将校に率いられている部下たちがかわいそうだとクルトは思う。
「お前たちの元にあのクズも今すぐ送ってやる」
クルトは、なおも前進を続ける炎にくるまれた遺物にそう声をかけて、これ以上苦しまないようにコクピットを一思いに突き刺した。
コクピットを銃剣が貫くと敵の遺物は、クルトをつかもうとしたのか、ゆっくりと手を伸ばしてその途中で力なく倒れてしまう。
「敵ながら見事な戦いに敬意を」
敵であったとしても死んでしまえば関係なくその闘志を讃えるのが殺した側の義務だとクルトは思っている。敵とて、祖国のために戦う兵士なのだ。生まれたところが同じであれば味方だったかもしれないのだ。
しかし、クルトがそう思っている間にも戦闘は継続している。
クルトが倒した機体の後ろからアートランチスの遺物が巨大な大剣を振り下ろしてくる。
相変わらず馬鹿でかい大剣なのにもかかわらず、スイング速度は普通の機体よりも格段に速い。
クルトは、最小のステップで初撃を躱す。
遺物による近接格闘術は、人間の動きとほとんど大差がない。本の中に書かれているような派手な動きで回避などは無駄なので行うことはない。
回避動作に連動して大剣の間合いの外側から銃剣を突き出した。着剣したライフルは、テトラよりも大きい四五〇センチもある。ミノタウロスの使っている大剣よりも目測で五〇センチほどは長いのだ。
ミノタウロスは、クルトの突き出した刺突を胴体部ひねることで躱している。
躱されることを見越していたクルトは、そのまま連続で刺突を繰り出していく。一つ一つの攻撃が致命傷になりうるものだ。
「ご主人様。内部データベースを検索したところ敵に機体を特定することができました。参照いたしますか?」
しっかり者の相棒は、クルトに指示されなくとも敵の情報を収集していたらしい。
「ああ、よろしく頼む。戦闘の妨げになるからモニターに映し出さずに読み上げてくれ」
「仰せのままに」
モニターにはミノタウロスがクルトの刺突を剣の腹で受け流し間合いを詰めてくる様子が映し出されている。剣と剣が触れ合っている部分からは火花が飛び散っている。
「ご主人様と交戦中の機体は、アートランチス帝国の人型機動兵器のエイコサ型一番機です。試作二号機の量産型で比類なきパワーをコンセプトとして製造されています」
テトラが説明してくれている間も激しい戦闘は止まらない。
大剣の間合いよりもさらに懐深くまで詰めたミノタウロスは、強烈な前蹴りをクルトの腹部に当ててくる。
回避するために後ろに下がれば大剣のちょうどいい間合いになってしまう。横に回避するには、長すぎる銃が邪魔だ。
クルトは、自らミノタウロスに一歩を踏み出す。間合いが近すぎれば本来の威力を大きく軽減することができるのだ。
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