秋季攻勢作戦 14
「攻撃開始線まで残り一〇〇メートルです」
三〇分間離れていた戦場は大きな変化もなく、いつもと変わらない硝煙と血と焦げた肉のにおいが充満していた。
「各機、突撃隊形に移行せよ」
クルトの号令と共に塹壕の中を縦一列で走っていた機体が一斉に動き始める。
小隊長機を先頭にした三機で形成される三角形がいくつも出来上がる。さらにそのスリーマンセルを集めた各中隊長を頂点とする大きな楔形の陣形が四編隊出来上がる。
クルトは、第一中隊の先頭に位置をとった。
「着剣!」
ロングソードを突撃銃の先端に取り付ける。突撃後の白兵戦を見越した銃剣突撃を敢行するのである。
歩兵で銃剣突撃を塹壕戦のさなかに行えば突撃破砕線に配置された機関銃の餌食となるだけだが、装甲堅い遺物ならば問題ない。さらに今回は、既に突破口を戦車がすでに開けてくれているはずだ。クルトたちは、ただその突破口を押し広げるだけなのだ。
「攻撃開始線まで十メートルです」
モニター上に攻撃開始線を示す赤いラインが引かれる。
「本隊はこの速度を維持したまま攻撃開始線を通過する。通過後から照準を合わせ次第発砲せよ!」
「「「了!」」」
クルトは、最後にもう一度装填されたマガジンに弾薬が入ってかを確認する。
「攻撃開始線を通過しました」
テトラの声と共に単連射に設定されたライフルの引き金を引いた。次々と攻撃開始線を越えた部下たちも各々射撃を開始した。
すでに各種防御陣地が破壊されているダリアス軍はさしたる反撃も行ってこない。
「フェンリル二〇よりフェンリル〇〇へ。味方戦車部隊を確認」
突破口を作るために先に進軍していた戦車部隊とも無事にコンタクトをとることができたようだ。
「フェンリル〇〇、了。相互に連携をとりつつ陣地の無力化をせよ」
「フェンリル二〇、了」
曵下射撃に長時間さらされた塹壕の中には、共和国軍兵士の死体が無造作に横たわっている。その体は、補給が受けられていないのか骨と皮だけだ。
「ご主人様! 十時方向に敵、感ありです! パルス信号からアートランチスの遺物。通称「ミノタウロス」です!」
モニターに敵を示す赤い光点が次々と増えていく。その量から見て大隊規模だ。
「フェンリル〇〇から各機へ! 十時方向よりアートランチスの遺物が接近中。左翼に展開中の第三、四中隊は積極戦闘を一時中断し迎撃態勢を整えよ! その他の中隊は、戦車部隊と共同しシンチ制圧を継続せよ!」
ミノタウロスと言えばエトヴィンを手にかけたクルトにとって因縁深い相手だ。
「フェンリル一〇、了」「フェンリル二〇、了」「フェンリル三〇、了」「フェンリル四〇、了」
前回会った時は、手も足も出なかった。しかし今回は、状況が違う。
クルトが乗る機体はミノタウロスより上位のアートランチスの遺物だ。仲間も最新鋭の機体に乗っている。
「第四中隊は、アートランチスの遺物以外の機体を排除せよ」
奴だけは、この手でつぶさなければならない。時間がかかってしまったがやっとあの時の決意を果たす時がやってきたようだ。
「敵が視界に入るまで5,4,3,2,1、今です」
テトラのカウントはドンピシャで敵の行動を予測している。
二本の大きな角を相変わらず頭からはやしたよく目立つ深紅の機体がクルトの視界に入ってきた。
その機体を見た瞬間にクルトの体にふつふつと得体のしれない何かがこみあげてくる。
「殺す!」
得体のしれない何かはクルトの思考から冷静さを奪いとっていく。
自然と足がアクセルを押し込んでいく。アクセルの傾きに合わせて機体の速度が徐々に上がっていく。
「あいつだけは、この手で殺す」
操縦桿を無意識に強く握ってしまう。
「フェンリル四〇よりフェンリル〇〇へ。突出しすぎです。後退してください」
無線機から聞こえるガウス中尉の声がクルトの興奮を収めてくれる。
そうだ。今は、大隊の臨時指揮官として冷静な指揮をとらなければならないのだ。
「フェンリル四〇、すまない。冷静さを失ってしまった」
「問題ありません。自分は、手柄を独占されてしまわないようにしたまでです」
「それならばこのまま突っ込んで一人で全滅させてしまえばよかった」
あとのことを考えなければ一人でもなんとかできるかもしれない。
「止めて正解でした。自分もそろそろ新しい勲章が欲しいので、ここで活躍したら上級部隊に申請をお願いします」
クルトは、第四中隊が迎撃態勢をとっている塹壕まで戻ってくる。
「考えておこう」
この攻勢作戦が成功した暁には、戦功に応じた勲章などの上申をするという、とんでもなくめんどくさい作業をしなければならない。皆それぞれ活躍しているので上申する部下を選ぶのはとても難しいのだ。
敵からの攻撃が開始された。塹壕の中にいれば当てられるような距離ではない。
「もっと引き付ける。号令あるまでそのまま待て!」
一度の射撃で最大の効果が得られるまで、銃を構えたまま待つ。
照準器を通してモニターに映し出される敵は、どんどん大きくなってくる。敵の射撃もまとまりだしてくる。しかし、敵の銃はボルトアクションのライフルだ。クルトたちが張る弾幕とは比べ物にならないほど少ない。
「連発用意!」
敵の姿が画面いっぱいに映し出される。
時は来たれりだ。
「撃て! 撃って撃って撃ちまくれ!」
薬莢が次々と排出され弾丸が打ち出されていく。毎分四〇〇から六〇〇発を撃ちだす三〇ミリアサルトライフルが十三丁すべて連射で弾丸を吐き出しているのだ。
突撃をしてくる敵の機体にいくつもの風穴があき、ついに火を噴いた。
最後まで読んでけれた方々本当に感謝でございます。
ご指摘をいただいた描写不足を序盤から改善させてもらっております。お時間があるときに呼んでみてくださるとうれしいです。
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