秋季攻勢作戦 13
地面に穴を掘っただけのトイレで用をたすとクルトも部下たちの会話の輪に入ることにする。
「グルーバー中尉、燃料の補給にはあとどれぐらいかかる?」
「残り十二機が補給待ちのため、早くても二十分はかかると思います」
整備員たちが今もせわしなく機体に燃料を入れている。
二十分ならば想定よりも早くに出撃ができる。クルトたちが指揮系統を破壊し混乱させた戦線に突破口を開け終わるベストな時間と言える。
「二三式の不具合は今のところ聞いていないが本当に何もないのか?」
試験的運用のなされている二三式は、不具合が発見されていてもおかしくない。
「現状そのような報告は受けておりませんが、しいて言うのであれば座席のクッション性が悪くて時になりそうなあことぐらいですかね」
「一応フリーデル少将閣下に報告しておくが改善は期待するなよ」
軍事兵器において乗り心地は二の次とされることが多い。そんなものなくても戦闘に支障がないからだ。例外として高級将校の乗る車両だけは最上級のサスペンションが搭載されている。
「大尉殿。今回も楽勝ですね。このまま行けばクリスマスまでには、対ダリアス戦争は本当に勝利できる予感がします」
今までむしゃむしゃとレーションのビスケットを食べていた第四中隊長のガウス中尉が満面の笑みで話に混ざってきた。
「今のところは損害もないが、この後どうなるかはまだ分らん。油断するなよ」
「心得ております。自分も大尉殿と同じ王国名誉騎士勲章を受勲できるように職務に邁進いたします」
中隊長として最も若いだけあって、返事だけは威勢のいいものがある。しかし、本当に理解できているのかは怪しいところがある。
「そういえば先ほどの戦闘時に敵がオープンチャンネルで大尉殿のことを叫んでおりました」
「敵が俺のことを言っていたのか?」
「はい。死神がやってきたと叫んでおりましたよ。大尉殿も有名人ですな」
「それなら自分も耳にしました」
ガウス中尉だけでなくグルーバー中尉も聞いたことがあるらしい。敵に恐れられるほど活躍をしたと喜ぶべきなのか、はたまた悪趣味な名前で呼ばれていると残念がればいいのか、反応に困る呼ばれ方だ。
「もう少しかっこいい呼び方にしてほしいものだ」
クルトは、残念がることにする。
「贅沢な悩みですな」
グルーバー中尉が言うように確かに贅沢な悩みだ。大勝利を重ねるからこそ敵にも知れ渡っているのだから。
「それにしてもダリアスはまだ戦闘を継続するのですかね?」
「一介の大尉では確実なことは言えないが参謀本部は、首都を攻略すれば降伏すると予想しているらしい」
だからこそパドーソル連邦に対する最低戦力以外の予備戦力を投入して攻勢作戦を行っているのだ。ダリアス共和国は本国にある戦力の半分を喪失しているのだからこれ以上交戦するよりも外交努力による和平を締結する方を選ぶのが常道だ。このまま戦争を続ければ国そのものが滅びてしまう。
「列強との直接戦争に勝利したとなれば王国には向かうところ敵なしですね」
今までは、列強の中でわずかに勝っていたぐらいだったが、この戦争に勝利すれば他の国々を大きく引き離すことができる。
「あと少し頑張れば大尉殿から最高級のダリアス料理をごちそうしてもらえるのだからな」
「それ、違うからな。おごるんじゃなくて食べに行くぞっていうことだからな」
たかが大尉の少ない恩給で大隊の隊員にダリアス料理などおごったら破産間違いなしだ。
「大尉殿。全機補給が終わりました。いつでも出れます」
補給を行っていた整備員が報告に来る。
「了解した。グルーバー中尉集合をかけてくれ。最後にもう一度作戦内容を徹底したのちに出撃する」
「了解しました」
グルーバー中尉とガウス中尉は兵を集合させるためにばらばらの方向にかけていく。
そして待つこと三〇秒。クルトの前にはすべての隊員が集合を完了した。
「ただいま補給が完了した。これからまた戦場に再出撃をする。怖気づいて出撃出れそうにない奴が今のうちに名乗り出ろ!」
「大尉殿。そんな精神力の奴なんてこの大隊にいませんよ」
「どちららかと言えば早く出撃したいです」
「共和国軍をタコ殴りにしてやりますよ」
口々に戦意の高い声が上がる。補給を挟んだことで怖気づいたものがいないか心配だったが、クルトの杞憂だったようだ。
「それならばよろしい。諸君らお待ちかねの殴り合いだ。そのための突破口はすでに戦車部隊が開けてくれている。砲兵もすでに爆撃機による攻撃ですでにいない。我々を邪魔するものは何もない!」
ここからは、歩兵と遺物で陣地の占領を行うだけだ。
「ただし、散発的な戦闘は予期される。流れ弾をもらって負傷しないように気を引き締めろ!」
勝利を目前に油断をすると手痛い反撃にあうことは歴史が証明している。
「特にアートランチスの遺物を見かけたら無理に戦闘はするな。俺に報告を上げろ! 他は好きに蹂躙して構わん。撃墜スコアを伸ばすチャンスだ」
クルトは、大きく息を吸う。硝煙と血の匂いに肺が満たされる。
「祖国に勝利の知らせを届けようではないか! 攻撃開始線通過直前に突撃態勢に展開せよ。先頭は私がもらう! 各機搭乗せよ!」
吸い込んだ空気をすべて出し切った命令は、昨日の雨が嘘だったかのような青い戦場の空に吸い込まれていった。
砲撃と怒号が支配する戦場には美しすぎるどこまでもどこまでも澄んだきれいな青い空だった。
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