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秋季攻勢作戦 12

 戦場の上空を飛来してきた王国軍爆撃機が悠々と飛翔していく。機内には、敵砲兵を撃破するための爆弾が満載されているのであろう。


「ご主人様! 重機関銃がこちらに指向しています!」


 曵下射撃が行われているさなか、健気にも機関銃陣地から銃弾が飛んでくる。

しかし、歩兵に対しては大きな脅威となりえる重機関銃も遺物レリックに対しては焼け石に水だ。分厚い装甲に守られた遺物レリックの塗料を削るのが関の山だ。


「さようなら」


 引き金を引くと、蚊を叩き潰すがごとく跡形もなく消し飛んでしまう。


 戦果を確認するまでもなく、第三目標を狙撃するべく射撃地点の移動を開始する。


 クルトが向かう方向には塹壕の壁に機体を依託して射撃姿勢をとるアレクシスの二三式が火を噴いている。弾丸は、トーチカを撃破したようだ。


「エグナー軍曹。見違えるようにうまくなったな」


 唐突に声をかけられてアレクシスはびくつくいて、銃を落としそうになる。


「いきなり声をかけないでくださいよ。敵かと思ったじゃないですか」

「敵だったら、今頃軍曹はヴァルハラ行きだな。しかし、敵は無線で通信なんてしてこないがな」

「確かにそうですね。射撃が上手くなったのは、大尉殿の訓練のおかげです」


 一カ月間の訓練では、どんな作戦が下達されても生き残れるようにありとあらゆる訓練を行ったのだ。それこそ遺物レリックが動かなくなっても生き残れるようにサバイバル訓練も行っている。


「訓練したかいがあるというものだ」

「大尉殿の訓練と比べれば戦場なんて楽なものです。夜は眠れますし、味方の支援も受けられるのですから」

「喜んでもらえて何よりだ。そこまで喜んでもらえたのならまた行うとしよう」

「い、いえ。もう大丈夫です。それでは、自分は次の陣地に向かいます。失礼します」


 アレクシスは、フルスロットルで急加速して逃げるようにクルトから遠ざかっていく。


「死ぬなよ!」


 ぐんぐんと遠ざかっていくアレクシスの背中にそう呼びかけた。

 その声は、敵側で起こった盛大な爆発音によってかき消されてしまう。弾薬庫に当たった球が誘爆を起こさせたのかもしれない。音のした方向に目を向ければ、おおきな黒煙が空に向かって上がっている。


「フェンリル〇〇、こちらHQ。航空部隊が敵火砲に対する爆撃を成功させた。貴官らも作戦通りに戦線の押上を開始せよ」


 先ほどの爆発音は、爆撃によるものだったらしい。


 遥か彼方からは爆撃に成功した航空機が軽々と帰ってくる。戦闘機は、上空でアクロバットな飛行を披露して喜びを表現している。


「フェンリル〇〇。了」


 砲撃される心配は、これでなくなった。あとは、全力で突撃していくのみである。


「フェンリル〇〇から各機へ! 砲兵の撃滅に味方航空部隊が成功した。本隊はこれより敵陣地に対する突撃を開始する。兵装を換装後、集結地点にて待機せよ!」


 命中率を重視した全長の長い狙撃銃では、突撃後に行われる近接戦闘には不向きなのだ。背中に背負っても邪魔になってしまうので一度集積所に置きにいかなければならないのが狙撃銃の難点だ。


「なお、敵陣地内にはアートランチスの遺物が確認されている。突撃後、発見したのならば即座に報告せよ。無理に戦う必要はない」


 戦力が分散してしまう浸透襲撃では、アートランチスの遺物との戦闘が予期されているここでは、いくら精鋭の遺物特別遊撃大隊のメンツとて厳しいものがある。


「「「了」」」


 最後の目標である通信施設に対して発砲をして戦果を確認すると、クルトも一度、少し後方にある弾薬集積所に向かう。


 その途中でクルトたちと入れ替わりで前線に向かっていく戦車部隊と遭遇する。


「少しの間よろしく頼みます」

「任せといてください。遺物大隊が返ってくる頃には作戦終了になっていますよ」


 すれ違いざまに短く無線であいさつを交わす。戦車部隊長とは、将校のみの懇親会で同じ機動戦を得意とする装甲部隊を指揮するとあって意気投合して三次会まで回ったほどだ。


「姫殿下に勝利を!」

「姫殿下に勝利を!」


 砲塔から顔を出した戦車部隊長の笑顔の敬礼に対して、親愛を示すモールス信号をライトの点滅で行って答える。


 七百馬力を誇る大型エンジン音は快音を響かせながら、炎と黒煙が立ち込める前線に向かって、塹壕を乗り越えていってしまった。


 その他にも弾薬集積所に向かうまでの間に第八二近衛歩兵旅団や第八近衛工兵連隊が攻撃待機をする塹壕を通過していく。

 クルトが通過していくと兵たちから口笛や歓声が口々に飛ばされる。クルトは、そのたびにエンジンを空ぶかしして声援に答える。


 寄り道をしながら向かった集積所では、既に兵装の換装を終え燃料補給をするばかりとなった隊員たちが、機体を降りて談笑していた。

 どうやら、誰一人としてヴァルハラに旅立った奴はいないようだ。それどころか戦闘を行ったことによって分泌されたアドレナリンによっていつも以上に会話が弾んでいる。


 クルトは、誘導員の指示に従って臨時に作られている武器保管庫の中に入る。狙撃銃を銃臥に置き、新たに近接戦闘用装備品を装備していく。

 他の兵器と違い遺物の装備品の換装は時間がかからない。自らに手で装備を変えることができるからである。クルトも、ものの五分で兵装の換装を終わらせてしまう。

 さらにアートランチスの遺物は、古代文明の永久機関を搭載しているため燃料補充さえいらない。弾薬以外は兵站を圧迫しない素晴らしい兵器だ。最悪、刀剣で戦闘を行えばもはや無限に戦うこともできる。


 クルトは、他の機体が燃料補給を終えるまでの間にトイレを済ませるべく、機体から降りる。


「大尉殿、人員装備共に異常ありません」


 クルトの元にグルーバー中尉が駆け寄ってくる。

「報告ありがとう。先ほど確認した。隊員には、これからが本番だ。気を抜くなと、伝えておいてくれ」

「はっ!」


 グルーバー中尉が本当に優秀な下級将校であることをクルトは再認識する。言われなくても部下を掌握し簡潔に報告することは、一見簡単に見えて意外と難しいものなのだ。

 事実、クルトは上級部隊に報告が必要な時は、予行練習を行っているのだから。

英雄たちに贈るデブリーフィングを読んでくれている方、ありがとうございます。

今のところクルトたちの作戦は、順調に進んでおります。なにごともなければいいのですが…

作戦の成功を願って皆様、評価、ブクマ、感想、レビューをよろしくお願いします。皆様の力が物語を動かしていくのです。

勝手になろうランキングの方もよろしくお願いします。


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