秋季攻勢作戦 11
「風速を計測。計測完了。気温を計測。計測完了。空気密度を計測。計測完了。重力、自転、風速、気温、空気密度、口径、初速から弾道を計算します」
モニターに映し出されるのは、ダリアス共和国軍の軍旗がはためく、オリーブドラブ色のコンクリート製の堅牢な建物だ。
「弾道予測から銃口方向を修正。目標への弾頭到達時間は六・五八秒です。着弾誤差、半径30センチメートル内です。目標の大きさから考えて初弾の命中率九八・二パーセントです」
外部接続されたスコープと機体自他に搭載された望遠機能により六キロ以上離れているにもかかわらず、建物の外にいる兵士の表情まで読み取れてしまう。
「射撃精度向上のため電力源をエンジンから|補助電源(APU)に変更します。エンジン停止完了。|補助電源(APU)起動。電力源の切り替え完了しました」
一瞬すべての明かりが消えて真っ暗になったと思うと、すぐさま新たな明かりがともる。
「HQよりフェンリル〇〇。応答せよ」
「こちらフェンリル〇〇。おくれ」
「作戦開始時刻変更なし。開始時刻と同時に攻撃を開始せよ」
「フェンリル〇〇、了」
無線が途切れると心臓の音だけが補助電源に切り替わったことで必要最低限の明かりしかついていないコクピットの中にこだまする。
今まで行われていた浸透作戦ではなく、敵の指揮系統に対する初撃同時狙撃。
上層部からの囮作戦をしているのであれば、指揮系統が混乱すれば行われなくなる可能性が高くなるというのが軍司令部の見解だった。
砲兵による砲撃による指揮系統の破壊も考えられたが、どうしても観測射撃を行わなければ、精密な射撃は難しいということで我々に白羽の矢が立ったのだ。精密さと攻撃力を併せ持つ炸薬の入った弾丸を撃ちだせる大口径狙撃銃による精密射撃が選択されたのだ。
「ご主人様、作戦開始時刻六〇秒前です」
モニターには丁寧にカウントダウンが映し出されている。
「フェンリル〇〇から各機へ。作戦開始時刻五〇秒前。繰り返す五〇秒前。必ず当てろ! 一撃で決めて見せろ!」
クルトの照準している目標よりも格段に近い前線司令部などを狙っている他の隊員だが、それでも技量だけで当てるには、相当な練度が必要になる距離である。
「「「了!」」」
全ての隊員から自信に満ち溢れた返答が返ってくる。本当に頼もしい限りだ。
クルト自身も操縦桿に備えられているトリガーに指をかける。
「三〇秒前です」
体の振動が射撃に影響しないように深く息を吐く。
モニターには、二〇秒後には跡形もなくなっているであろう敵軍司令部が通常戦闘警戒態勢を維持している。
「カウントを開始します、九・八・七…」
クルトは肺にたまっていたすべての空気を吐き出して呼吸を止める。視界には敵軍司令部の無機質な建物だけが入り込んでいる。
「…三・二・一、発射」
戦場に四九の発射音が轟く。
マズルフラッシュが瞬いたモニターは、減光調整によって一瞬、露出が抑えられた。
そして、近くの目標から順に着弾した弾丸が、内蔵された火薬を爆発させ盛大な炎を上げる。
クルトの放った弾丸も計算された軌跡を通って、目標に吸い込まれていく。そして、一番最後に盛大な爆発音を響かせて、敵の軍司令部破壊した。
「各機、戦果報告をせよ」
「フェンリル一〇、目標の破壊に成功!」
「フェンリル二〇、命中を確認しました」
即座に帰ってくる報告は、すべての狙撃が成功した知らせだった。
「フェンリル〇〇よりHQ。攻撃成功、繰り返す攻撃成功」
「こちらでも確認した。素晴らしい戦果です」
突如として各指揮所を失ったダリアス共和国の兵士たちの慌てふためく様子がそこら中で確認することができる。生き残った士官が混乱を抑えようと指示を出しているが、効果がなかなか見られない。
「各機、随時射撃位置を変更しながら今朝の命令に示された目標に向かって攻撃を続行せよ」
これだけでこの作戦が終了するのではない。どちらかと言えば、今からが本番だ。
「指揮系統が乱れて反撃の少ない今のうちにできるだけ多くの目標を沈黙させろ!」
「「「了」」」
ここから先は、時間との闘いになる。
「エンジン始動!」
クルトの言葉を認識したテトラが瞬時にエンジンをかける。心地のいいエンジンの振動がクルトにも伝わってくる。
エンジンがしっかりと立ち上がると、すぐさま射撃位置の変換に移る。敵の砲兵が顕在している以上、定点射撃は命とりになる。
クルトたちの後方では砲兵による曵下射撃が開始された。空中で炸裂した砲弾が金属の破片を雨のように降らせて人員並びに物資に損害を与えるのだ。
地面で爆発するものに比べて効果範囲が大きいため塹壕戦では、最も有効な射撃方法だ。
射撃位置を新たにしたクルトは元から設定されていた第二目標に銃口を向ける。
「今からは、手動照準に切り替える。テトラは、周囲の索敵に集中してくれ!」
「了解いたしました。全タスクを索敵に当てます」
自動照準は間違いなく便利だが、とっさの照準には対応できない。初撃以外はそれほど長距離でもなく、静物に対してが主をしめるので、手動照準でも問題ない。
しっかりと狙いを定めて第二目標である通信施設に向かってトリガーを引く。一直線に飛んでいく弾丸は、大きな穴をあけて施設内部で破裂した。
散っていた仲間の無念を我々が晴らさなければならないのだ。
最後まで読んで読んでくれた方、大変ありがとうございます。
各種レリックのデザインがなかなか思いついておりません。誰かイラストの上手な方がおりましたら絵に起こしてくれるとうれしいです。
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