表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/42

秋季攻勢作戦 8

「さすがだな、ベッシュ大尉。戦線参加二日で撃墜数三一か。驚異的活躍だな」

「ありがとうございます。ヘルダー大佐。機体性能のおかげであります」


 クルトは、大規模攻勢作戦の二日目が終了した夜、師団司令部に顔を出していた。戦況報告と明日の命令受領のためだ。


「謙遜しなくてもいい。機体を使いこなせなくては、こんな活躍などできないのは、同じ遺物レリック乗りとして理解している。中央部の大幅な前進が成功しているのも大尉の功績が大きいのは、間違いない」


 初日に続き大幅な前進に成功し、計画では一週間かかるとされていた首都攻略もあと二日もあれば攻略できるところまで来ている。


「重ね重ねありがとうございます。ヘルダー大佐殿のワインの差し入れのおかげであります。兵士の燃料は、アルコールなのです」

「それなら、差し入れしたかいもあったというものだ」


 差し入れというよりもクルトが無理やりふんだくったと言った方が正しいかもしれない。


「報告は以上であります。明日の命令を伺ってもよろしいですか?」


 明日の進撃目標を聞いておかなければ、突出部となってしまい戦線の脆弱部になってしまうこともある。


「明日というよりも今日の深夜になるが、海側の右翼に陣地変換命令が上級司令部より下達されている。攻勢が上手くいっていないようなのだ」


「なぜですか? 確か右翼にもアートランチスの遺物を含む戦力が展開されているはずですが?」


 今回の攻勢作戦には、王国にとっても虎の子のアートランチスの遺物が三機も投入されている。


「そのアートランチスの遺物を含む遺物連隊が戦闘継続不能なほどの損害を出したみたいなのだ」


 クルトは、予想外の理由に驚愕を隠しえない。


 アートランチスの遺物は、分厚い装甲の内側にいるパイロットを殺すか、機体が半壊するほどのダメージを与えなくては、戦闘不能にならないのだ。

 大規模な奇襲砲撃や圧倒的な戦力による飽和攻撃が必要なはずだが、今のダリアス共和国には、そんなことができるだけの余剰戦力などないはずだ。


 クルトも初陣で完璧な奇襲を成功させたにもかかわらず、アートランチスの遺物には傷一つ付けられなかったのだ。


「あり得ません。そんなことができるだけの戦力があれば、ここまで一方的な戦闘になっていないはずです」

「確かにベッシュ大尉の言う通り通常ならあり得ないことだ。しかし、共和国軍はもう普通じゃないようだ」

「どういうことですか?」

「自らの命を犠牲にして砲撃要請を行ったのだよ。その結果、敵も味方も関係なく砲撃に巻き込まれた」


 クルトは、もう一度絶句してしまう。


 あり得ない。作戦として成り立たっていない。


 共和国軍の上層部から出された命令によるものだとすれば、これほど無為な作戦などない。一時的に撃退することができたとしても、クルトたちのように代わりの部隊が補填され、すぐに作戦が再開されるのは、間違いない。


 限界まで国力をすり減らしているダリアス共和国と違い、王国にはある程度の余力があるのだ。同額の損害ではその差は、広がっていくことぐらいはダリアス共和国も理解しているはずだ。


「理解しました。いつ陣地変換を開始されるのですか?」


 たとえ理にかなっていないことでも実行されていることならば、納得しなければならい。クルトたちも極限まで追い込まれれば、同じような作戦を遂行することになるかもしれない。


「予定では、本日二二〇〇フタフタマルマルから行う予定だ。夜間の行動になってしまうため、兵員には可能な限りそれまでに休養を取らせておいてくれ」


 明日からも明け方から戦闘を行わなければならない。疲労を持ち越さないようにしなくてはならない。


「了解しました。警戒要員の割り振りを見直しておきます」

「よろしく頼む」


 ヘルダー大佐は、それだけ言うと別の作業に取り掛かり始めた。

 クルトは、「失礼しました」と敬礼して司令部を後にした。


 明日の朝までに陣地変換を行うのは、そこまで大変なことではない。夜間移動は敵の意表を突くための基礎中の基礎として、訓練をたくさんやっている。


 問題は、アートランチスの遺物が撃破されたということにある。明日も敵が同じ作戦をとってこれば、味方の被害が大きくなることを覚悟しなくてはならないのだ。


「お疲れ様です。大尉殿」


 いつの間にか大隊の警戒線に入っていたようだ。そのことに歩哨として勤務していた下士官に声をかけられて初めて気が付いた。


「ご苦労」


 これだけ対応策を考えさせるという点で敵の作戦も無意味ではなかったのだと考えを改めなければならない。


 昨日まで敵の陣地だったところを改修して使っている大隊本部は、完全に地下にある。

 砲撃の影響を抑えるために小さく作られている入口をくぐって中に入る。


「お疲れ様です。ベッシュ大尉殿」


 各中隊長はクルトが帰ってくるのを待っていたようだ。


「お疲れ」


 クルトは、大隊長用の少しだけ豪華な椅子に座って下達された内容の必要部分だけを伝達していく。

 明日の攻撃ついては、特に大きく今までと変わっているためにしっかりと下達をする。

最後まで読んでくれた方、ありがとうございます。

命を犠牲にする献身は、なかなか理解されないものなのです。

少しでも面白いと思った方、評価、ブクマ、レビューをよろしくお願いします。

誤字脱字や改善点を思いついた方は、感想にて教えていただけると助かります。

今後ともよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ