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秋季攻勢作戦 2

 歩兵も続々と塹壕の中に飛び込んできている。作戦は順風満帆に進んでいる。


「歩兵が塹壕に集結できたならば、我が大隊は次の目標に向け前進する。次に目標確保が一番遅かった中隊に今日の戦勝会はおごってもらうことにしよう」


 作戦の進行速度を上げるために中隊間でのスコアを競うことにする。


「第二中隊、フルスロットルだ! 何があっても負けるなよ」


 競い合うことは、誰にとっても得のあるいいことである。まぁ、負けた中隊にとっては、損が多いことかもしれないが。


 ある程度の緊張もほぐれ、士気も上がってきた瞬間に緊急無線を示す、アラートがけたたましく鳴り響いた。


 クルトは、敵砲兵の射撃が開始されたのだと思い、塹壕の中にテトラの体がしっかりと入るようにしゃがみ込む。


「フェンリル〇〇、緊急事態発生、緊急事態発生! シャルロッテ姫殿下が予備の二三式遺物レリックに乗り前線へ向かわれた! 繰り返す! シャルロッテ姫殿下が前線に向かわれた!」


 一瞬、通信手の言っている意味が理解できなかったが、顔を上げて後方を見れば、歩兵に続いて駆けてくる二三式が見えた。

 簡単なことだ。姫殿下が前線にきているのだ。そう、ただそれだけ何の問題もな……いや、大きな問題だ。


「姫殿下! どういうことですか? 事前の命令には書かれていませんでしたが!」

「どういうことって、私も一緒に戦うだけよ。クルトも楽になるしょう」


 まったく楽になどならない。どちらかと言えば、素人同然の姫殿下をお守りしながらの任務は、難易度が跳ね上がると言える。


「ここは、危険です。姫殿下の身に何かあったら大騒ぎになります。師団司令部にお戻りください!」


 姫殿下にもしもの事があれば、まず、クルトの首が飛ぶ。


「大丈夫よ。自分の身は守れるわ」


 ぎこちない歩行しかできていないのに、その自信はどこから出てくるのだろうか?


「大尉殿、歩兵の終結が完了いたしましたので、お先に地点確保に向かわせてもらいます。今晩は、ごちそうになります」


 各隊は、クルトが姫殿下の対応に追われている間に各中隊は、地点確保に向けて前進していってしまう。


 このままでは、今晩の戦勝会で金を出すのはクルトになってしまう。


「護衛の第五中隊はどこにいるのですか?」

「彼らなら、軍司令部に伝令に向かわせたわ。当分戻ってこないわ」


 開いた口が塞がらないとは、このことを言うのだろう。

 姫殿下がおてんばだということは理解していたつもりだったが、クルトの想像のはるかに上をいくおてんばぶりだ。


「分かりました。ここで歩兵の援護をしてください。塹壕からは絶対に出ないでください!」


 どうせ、言うことは聞いてくれないなら、まだましな提案をした方がいい。塹壕の中にいれば多少の砲撃でも問題ない。そのうち第五中隊も戻ってくるはずだ。


「いいえ。あなたについていくわ。指揮官先頭が王国の伝統でしょ」


 確かに指揮官先頭の精神はロ―ゼニア王国の伝統ではあるが、断じてこれは違う。勇気と無謀は違うのだ。


「司令部にて陣頭指揮するだけで十分です。姫殿下が最前線に立つ必要はありません」

「もういいわ! なら一人で行くわ」


 そう言い残して塹壕を飛び越えて、敵方へと向かい始めてしまう。


「お、お待ちください。…分かりました。小官の後方にいるという条件なら前線に立ってもいいですから」

「仕方ないわね。それでいいわ。それでどこに向かうのかしら?」


 作戦内容は、全く把握せずにここまで来ていたらしい。さっき敵方に向かったのもどこに向かうか考えずに突き進もうとしたのだ。


「三時方向の敵防御陣地の脆弱部を占拠します。行きますよ」


 クルトが先に向かって、陣地の安全化を図れば姫殿下が危険になることもない。今は、どれだけ早く敵を倒すかにクルト自身の首がかかっているのだ。


 重い盾を捨て去りエンジン出力を最大まで上げてトップスピードで戦場をかけ抜ける。飛んでくる銃弾は、すべて装甲性能にものを言わせて無視をすることにした。微々たる損傷を気にする余裕は、もうないのだ。


「右方向から目標を順次補足。射撃支援プログラム起動。一五個の目標に対して射撃を開始します」


 テトラの局部的な自動操作による正確無比な射撃が開始された。敵も自分も激しく動いていながらでも、フルオートで発射された弾丸は、一発ずつ計十五機の遺物レリックのコクピットを打ち抜いた。


「目標の沈黙を確認。再装填を開始します。残り装弾数、七五発です」


 倒れた遺物レリックの代わりに三台の戦車が黒煙を巻き上げながら塹壕を乗り越えてくる。ルーノP1だ。


 十七口径七五ミリ砲を搭載したダリアス共和国の正規戦車。当たり所が悪ければ、たとえテトラでも一撃で戦闘不能になってしまう大きさの弾だ。


「弾道予測計算システムを起動。砲塔の角度から解析を始めます。この射撃は、当たりません」


 その言葉の次の瞬間に戦場の空気を震わせる轟音が轟く。

 ソニックブームを伴った砲弾がクルトの真横を抜けていく。


 これで脆弱部なのかと思わざる負えない。さすが、最激戦区といったところだろうか。


「次弾、来ます! 推奨回避経路を表示」

「このまま突っ切る。当たる可能性のあるのだけ教えてくれ」


 別の戦車から放たれた弾がクルトが今までいた地点を通過して後方に着弾した。

 動いている物体に対して照準してからの射撃は、当てることが難しい。テトラの射撃補助システムが異常に正確なのだ。


「了解しました。後方に置いていかれているシャルロッテ様にも弾道予測をお伝えしますか?」

「ああ、頼む」

「お任せください」


 後方に置いていってしまって姫殿下は、いまだにクルトの半分の距離も前進できていない。


「姫殿下。敵戦車が出てきました。テトラによって算出した弾道予測を送りますので回避してください」

「わ、分かったわ。任せて」


 姫殿下よりも脅威度の高いクルトの方が優先的に攻撃対象となるはずだ。もし、ロ―ゼニア王家の紋章でもついていたら違うかもしれないが。


 クルトたちの装備する兵装で確実に戦車の装甲を貫けるのは、剣のみだ。肉薄しての後方か上部に対しての刺突が王国戦闘教本に示されている遺物レリックによる戦車の撃破方法である。


 装填時間の間に一直線で可能な限り距離を詰めていく。

 敵戦車の砲塔がゆっくりと砲塔が旋回をし始める。手動で回る戦車砲は、高速移動中の遺物レリックの速度とは比べ物にならない。


 砲塔がクルトに対して指向を完了する前に、クルトはすれ違いざまに横なぎの一撃を振るった。砲塔と車体部の隙間を狙った一撃は、見事に砲塔を車体から切り離して戦車を行動不能にした。

最後までお読みくださった読者の皆様、大変ありがとうございます。

姫のおてんばは、城の中だけにしてほしいものですね。

まだまだ、作戦終了にはなりません。次回も楽しみにしていてください。

最後に感想、評価、ブクマ、レビューをよろしくお願いします。


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