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新たな戦友 9

 記憶がなくなるほど酒を飲んでも、起床ラッパの音で飛び起きることは、軍隊生活においての基礎中の基礎だ。クルトは、どれだけ爆睡していても、この音を聞くだけで起きられる自信がある。


 顔を洗い、朝食を食べ、濃いコーヒーを飲むと少しだけ酔いがさめてくる。


 そして、昨日出来なかった軍服へのアイロン掛けと軍靴をきれいに磨き上げる作業を行う。自らができていないことを部下に指導することは、道理に合わないとクルトは思っている。だから、毎日、完璧に身だしなみを整えているのだ。


 しっかりと軍服を規則通りに着こなし、必要書類を将校カバンに詰め込んで大隊司令部の駐屯する建物に向かった。


 クルトが入るとすでに幾人かがすでに詰めていた。


「おはようございます。大尉殿」


 クルトに気が付いた下士官が敬礼と共に挨拶をしてくる。

 クルトも「おはよう」と答礼を返していく。


 そうして、このフロアの最も奥にある大隊長室に向かう。これから一カ月間、大隊に急な出撃命令が出なければ毎日通う場所だ。


 本来の使用者であるヘルダー大佐は、近衛師団司令部の参謀長室で職務についているから好きに使ってくれと言われている。


 大隊長室の椅子に腰を下ろして、整理整頓を行っていると当直下士官がお茶出しに来た。お茶出しと言っても中身は、コーヒーである。


 本日二杯目となるコーヒーを飲んでいると各中隊長が人員の異常がないことを報告しに来る。


 クルトは、大隊を集めるように指示を出した。


 すぐさま、建物前の広場に集合が完了したと報告が入る。それを聞いてクルトは、広場へと向かった。


「ベッシュ大尉、臨場。大隊、傾注」


 グルーバー中尉が先任中尉として大隊を統制する号令でクルトを出迎えた。


「諸君、おはよう。本大隊は、本日から本格的に訓練を開始する。諸君らが王国全土から集められた精鋭であることは、承知している。しかし、隊員同士の連携などはまだできないはずだ。一ヵ月の訓練で最高の練度になる期待している」


 全隊員がしっかりとクルトを見据えて身動き一つしないのは、すでに卓越した兵であることを物語っている。あとは、各員の連携だけがクルトの不安事項でしかない。


「そして、本大隊には新装備が配備される。これから大隊主力で受領したのち訓練を開始する。グルーバー中尉、大隊を機密倉庫まで連れてきてくれ」

「了解いたしました」


 グルーバー中尉に大隊の指揮を任せて先にクルトは、機密倉庫に歩みを進めた。


 クルトが機密倉庫につくとすでにゴルトベルト中佐が待機していた。


「おはようございます。中佐殿」

「おはよう、大尉。大隊の編成にこれが間に合ってよかったよ」


 中佐が指差す方向には、同じ型の遺物レリックがずらりと並んでいる。

 王国が開発していた最新型の遺物レリックの先行量産モデル、いわゆる試作機に近い。


「ノナモデルの二三式プロトタイプだ。すでに知っていると思うが、エンジン性能と防弾性能が飛躍的に向上している」


 この機体の試験にはクルトも参加していたために、その性能は十分に理解している。


「特にエンジンの過給機を機械損失の大きい機械式過給機から開発中の排気ガスを再利用する排気タービン式過給機に変更されている。エネルギー損失を減らすことに成功しているのだ」


 ゴルトベルト中佐は、今までの機体との変更点を色々と説明してくれるが専門分野ではないクルトでは完全に理解することはできない。ものすごく簡単に要約すれば、新技術を搭載して性能が飛躍的に向上したということだろう。


「この機体ならアートランチスの遺物テトラと共に行動しても、邪魔になることはないだろう」


 クルトの乗るアートランチスの遺物テトラの機体性能が現行の模造品コピーとあまりにも差がありすぎたために行動を共にすることが難しかったのだ。


 そこへ遅れて、グルーバー中尉に率いられた大隊がやってきた。


「大尉殿、引率完了しました」


 敬礼して報告したグルーバー中尉は、すでに新しい機体に目線が向かっている。いや、グルーバー中尉だけでなく他の隊員も心ここにあらずという感じだ。


「中佐殿、今からすぐに稼働させられますか?」

「そう言うと思ってすでに準備させてある。いつでも動かせるぞ」


 中佐がニヤリと口を歪める。


「ありがとうございます。貴様ら中佐殿のご厚意により今すぐ乗ることができるそうだ。操縦訓練を兼ねて演習場まで乗っていくぞ!」


 隊員の顔がパッと明るくなる。


「各員、搭乗せよ」


 クルトが登場許可を出すと我先にと二三式に向かって駆け出していく。その姿は、新しいおもちゃを買ってもらった、子供のようだ。


「大尉。実は、もう一つ新装備を用意している。こっちにきてくれ」


 どうやら、中佐はまだ何か新装備の試験をこの大隊で行うようだ。


「これだ」



 中佐に案内された先にあったのは、遺物レリック用のライフルだった。しかし、これまでのライフルとは形状が大きく違っている。


「これは、オートマチックライフルだ。装弾動作までガス圧で自動でやってくれる。機関銃とライフルのいいとこどりをした画期的な銃だ」


 今までのライフルは、一発、一発、槓桿こうかんを手動で引いてから引き金を引かなければならなかったが、この銃にはその動作が不要だというのだ。


「それは、素晴らしいですね」


 これは、戦争を変える兵器となるかもしれないとクルトは思う。


「十五発のまで連射できる。試験的に運用して、意見を上げてくれ」

「了解いたしました」

 すでに搭乗している部下に一丁ずつ持っていくように指示を出して、クルトもテトラに乗り込んだ。約三カ月の間ほとんどを過ごしたコクピットの中は、もはや自宅と変わらない居心地だ。


「おはようございます。ご主人様」

「おはよう。今日もよろしく頼む」


 テトラと軽く挨拶を交わして、クルトもライフルをとって部下たちの元へと近づいていく。


「大尉殿。素晴らしい性能ですよ、この二三式」


 無線からアレクシスが感嘆の声を漏らす。


「確かに軍曹の言うように素晴らしいです。一九式がおもちゃのように感じます」


 無線越しにも可憐さが伝わる声でクライシェ中尉が同意を示す。


「諸君が気に入ってくれて何よりだ。その機体は、先行機だ。不具合があることが予想されている。何かあれば遠慮なくいってくれ。今後の正式採用前に修正を駆けられるようにしたいそうだ」

「「「了解しました」」」


 各員が自動的に中隊ごとに編隊を組んだことを確認してクルトは、演習場に進むように指示をする。


 部隊の先頭を歩きながら、クルトはついてくる部下たちを見渡す。


 もう、部下が死なないでほしいと願う。

 

 そのために、無理を言って二三式を用意してもらったのだ。


 訓練も考え付く限りの厳しいものを用意した。


 すべては、部下の生還率が少しでも上がるようにするためだ。


 誰にも死んでほしくないと願うのは、贅沢なことだとクルト自身も認識している。

 それでも、そう願わずにはいられないのだ。

最後まで読んでくださった皆様心より感謝申し上げます。

今回で第2章は、終了です。

次から新しい章に入ります。

作者のやる気維持のために皆様の愛を込めた感想、評価、ブクマ、レビューをお待ちしております。


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