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新たな戦友 6

 予定されていた三カ月の慣熟訓練は、練度良好ということで二カ月半で終了した。


 各種操作要領に性能把握など多岐にわたる訓練でテトラは、クルトの体の一部になったと言っても遜色ないものとなった。


 しかし、その中で唯一、クルトが性能を把握しきれていないのが「時間操作オーラリトリギア」である。


 特殊能力順応訓練により当初よりも格段に使用限界は高まったが、能力限界まで使用することは、ただの一度もできなかったのである。


 そして、今クルトは参謀本部前広場にきている。


 クルトが一人でいるわけではない。


「私が神聖ローゼニア王国第八王女シャルロッテ・オブ・ローゼリアである」


 威風堂々とした参謀本部を前に自己紹介をしたシャルロッテ姫殿下をはじめ総勢一五〇〇〇人がこの場に集まっている。


 なぜなら今日は、シャルロッテ王女近衛師団の編成完結式であるからだ。


 クルトは、遺物レリック特別遊撃大隊の大隊長代理として大隊の先頭で指揮をしている。


 なぜクルトが指揮をしているのかと言えば、本来の大隊長が壇上で姫殿下の後方に控えているからだ。


 ヘルダー大佐は、中佐から大佐に昇任して、師団参謀長と大隊長を兼任することになっているらしい。

 らしいと言うのは、大隊長が来ないから先任士官として突然指揮を任されたからである。


「…であるからして、今後諸君らの活躍を期待して訓示とする」


 姫殿下の訓示が終わる。


「部隊、気を付け」


 予備号令がかけられる。


「「「気を付け!」」」


 各部隊指揮官が一斉に号令をかけるのに合わせてクルトも声を張り上げる。

 軍靴同士がぶつかる音が一斉に広場になった。


 大隊の指揮のことで頭がいっぱいだったクルトは、姫殿下の訓示がほとんど入ってこなかった。


 クルトは、大部隊を指揮したことなどあるわけもない。まだ、大尉になってから約三カ月しかたっていないのだから当然である。


 遺物レリック特別遊撃大隊のその他の士官は、皆中尉か少尉。大尉自体がクルトしかいなかったので仕方のないことだとクルトは、割り切ろうとするがその思考自体が割り切れていない証拠のようなものだった。


「続いて、来賓より祝辞を頂戴いたします」


 クルトの不安とは関係なく編成完結式の式次第は滞りなく進んでいく。


 長い長い祝辞が終わると、そのまま式典は終了した。


 何とかミスなく終われたことにクルトは、安堵する。


 緊張が一気に解けたことで、二時間炎天下の中立ちっぱなしだった疲労がクルトの体に急激に襲い掛かった。

 残暑の残る日中にやるべきことではないなと思う。


 しかし、次は大隊長の訓示が行われる予定になっているので大隊をその場所に移動させなくてはならない。


 士官は、こんなことでへたっていてはならないのだ。


 中隊ごとに整列させ、ヘルダー大佐が現れるのを待つこと一〇分。シャルロッテ姫殿下と共にヘルダー大佐が大隊の前に姿を現した。


 大隊の隊員たちは、姫殿下が現れたことにざわめきが起こる。


「大隊、気を付け!」


 クルトが号令をかけると、動揺が消えて統制された軍隊へと戻る。

 さすがは、近衛師団に選ばれた最精鋭たちである。


「大隊長に傾注!」


 ヘルダー大佐は隊員の視線が自らに集まったことを確認すると静かに口を開いた。


「大隊諸君、私がこの大隊の指揮をするヘルダー大佐だ。皆、もう知っているかもしれないが私は、師団参謀長との兼務で大隊長をすることになっている。したがって、大隊の指揮は実質、ベッシュ大尉が執ることになる」


 いきなり実質的指揮官を命ぜられたクルトは、抗議の目をヘルダー大佐に向ける。

 ヘルダー大佐は、確実にクルトの視線に気が付いたがそのまま話を進めていく。


「ベッシュ大尉は、まだ若いが王国最高の誉れである王国名誉騎士勲章を受勲し、新たに発見されたアートランチスの遺物に選ばれた素晴らしい将校である。諸君は、彼を信じて任務に邁進してもらいたいと思う」


 確かにクルトの経歴は、聞くだけであれば素晴らしいものである。しかし、実際には部下一人の命を犠牲にしてギリギリ敵を撤退させただけの若輩者である。

 それが、大隊、しかも近衛師団の遺物レリック大隊を指揮するなど分不相応甚だしい。


「話は変わるがこの師団は、近衛師団ではあるが前線での戦闘を行うことが想定されている。そのため、シャルロッテ第八王女殿下をお守りするために、一個中隊が抽出されることになっている」


 大隊の構成は、基本的に四個中隊だ。しかし、この大隊は五個中隊で構成されていたのだ。クルトは、この編成の意味に得心をやっと得た。


「諸君らには、近衛師団の先兵としての活躍が期待されている。王女殿下の名に恥じぬよう、獅子奮迅の働きを求める。私からの訓示は、以上だ。指揮官代理としてベッシュ大尉、皆に一言」


 ヘルダー大佐から、予定にない挨拶を求められたクルトは、一瞬の間をおいて体の向きを一八〇度変えた。


「大隊長殿から紹介にあずかった、クルト・ベッシュ大尉である。このような大役を仰せつかり大変恐縮ではあるが、大隊のため王女殿下のため職務に邁進していきたいと考えている所存である。諸君らと共に戦場をかける日を楽しみにしている。よろしく頼みたい」


 よくある定型の挨拶を行うとヘルダー大佐の方へともう一度、体の向きを変える。


「これで、この場については解散する。各員、事後の行動にかかれ!」


 ヘルダー大佐から解散命令が出されると各中隊指揮官が部下に手短に挨拶をして、解散させていく。

 クルトは、この後士官のみでミーティングが行われることを事前に連絡されていたため、大隊会議室へと向かって足を進めた。

 すでに、ヘルダー大佐とシャルロッテ姫殿下は会議室に向かって行ってしまったのか、姿がなくなっていた。


最後まで読んでくださった方々に厚く御礼申し上げます。

近衛師団の編成も完結したのでこれからは、戦場での話が多くなっていく予定です。

評価、ブクマ、感想、レビューを書いていただきたいです。

よろしくお願いします。


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