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新たな戦友 4

 その後は、基本的な操縦法の確認と武装の確認だけを行うとクルトも帰路に就くことにした。



 参謀本部で今日の業務について尋ねてみるが、クルトの仕事は一切ないから長旅の疲れでも癒せばいいとゴルトベルト中佐から言い渡された。


 現在クルトは、参謀本部の士官用宿舎に滞在している。


 本来の所属場所と異なり、さらに着の身着のままで来ているためにほとんど生活必需品しかない。

 すでに私物の配送は手配しているが戦時であるため、士官の私物品よりも弾薬や食料が優先されてしまう。


 何もない部屋に帰ったクルトは、しばらくは唯一の趣味といっても過言ではない読書をしていたが、最後の一冊もすでに参考文献欄を残すのみとなってしまった。


「暇だ」


 つぶやいた一言が真っ白な壁に吸い込まれていく。


 窓の外に目を向ければ、中世から変わっていない王城が目に留まった。


 クルトは、地方の貧民街出身のため、王都・コロラマの観光名所など行ったこともない。


 陸軍士官学校は、王都にあるため王都自体には一年ほど住んでいたことになるが、厳しい時間管理のされていた士官学校時代に観光名所に訪れる余裕などなかったのである。


 昨日、受勲式典で訪れたことには訪れたが、見て回るほどの余裕は皆無だった。


「よし、行ってみるか」


 ハンガーにかけた軍服の上着と制帽をしっかりと着込むと一路、王城へと向かうことにした。


 クルトは、リハビリもかねて歩いて向かうことにする。


 あまりにも大きな王城は、たとえ道が分からなくともその方向に向かって歩きさえすれば必ずたどり着

くことができる。


 そのため、道に迷うことなくたどり着いたクルトは、衛兵に立ち入り許可を求めた。


「参謀本部装備部のベッシュ大尉だ」


 クルトの身分をしっかりと確認した曹長が敬礼をすると、重々しい扉が開けられる。


 軍服をしっかりと着込んできたのもこのためにである。


 参謀本部の将校は王城への立ち入りが許可されている。


 本来は、王城にある王国統帥府などへの報告をするときに使われるのだがせっかくなので規則を使って普段は入ることのできない王城へ入ることにしたのだ。


 王城・コロラマは王国建国の前は砦の一つであったらしい。その後、王国が建国されると国の中央にあったコロラマは、仮の王の住まいとして利用されたらしい。

 立地条件がすこぶるよかったので増改築にを繰り返しつつ、そのまま使っていると教育されたのをクルトは思い返していた。


 均一に刈られた芝が続く中庭を歩いているとクルトの進行方向から人が向かってくるのがみえた。


 王城の中にいるのは、王族か貴族、あるいは軍の高級将校のどれかにだいたい当てはまる。


 間違いなくクルトの実質的な上位者であるので、横によけて敬礼を行う。


 近づいてきたのはクルトよりも少し若い少女だった。


 その半歩後ろからは、中佐の階級章をつけた将校が後をつけている。


 まず間違いなく貴族令嬢であるはずだ。


 そのまま、通り過ぎていくかと思われた彼女は、クルトを見ると中佐と一言、二言躱してから近づいてくる。


「あなた、クルト・ベッシュ大尉?」


 クルトに貴族の知り合いはもちろんいない。若干、先日の受勲式典後のパーティーで知り合ってはいるが、彼女はそこにいなかったはずだ。


「申し訳ございませんが、小官はどこかでお目にかかったことがあるのでしょうか?」


 少女は、しまったという顔でクルトの質問に答えてくれる。


「いいえ。会ったことは、一度もないわ。でも、自分の部下になる予定の将校の顔と名前は既に把握しているわ」


 少女の発言は、クルトが震撼するのには十分だった。


 神聖ローゼニア王国第八王女シャルロッテ姫殿下その人に間違いない。


 本来クルトがこうしてしゃべることすら恐れ多い天上の人である。


「姫殿下とはつゆ知らず、失礼いたしました」


 クルトは、地面に片膝をついて頭を垂れる。


「まぁ、仕方のないことよ。私は、まだ公に出ていないのだから。それに、これからあなたに守ってもらうのだから気にしないわ」

「姫殿下の寛大なお心に感謝の言葉もございません」


 姫殿下は、特に気にしていないようだが、これ以上ここにいては、何か失態をしそうなので早々と退散することにクルトは決める。


「姫殿下に謁見できたこと至極光栄の至りであります。小官がこれ以上姫殿下の遊歩をお邪魔しないよう、お先に失礼させていただく所存であります」

「邪魔なんかじゃないわ。どちらかというと、あなたとお話したいわ。ちょうどいい茶葉があるの、良かったら飲みながら経歴書じゃわからないことを教えてほしいわ」


 素早く退散しようとしたクルトをお茶に誘ってくる。誘いという名の命令に近いとクルトは思う。


 ローゼニアの王族というだけで断ることが難しいのに次の配属先の上官なのだ。これを断ればクルトの人生は終了せざる負えなくなってしまう。


「お誘いありがとうございます、姫殿下。姫殿下とお茶ができるなど故郷の親に自慢できまする」


 クルトは、孤児であるため親など顔すら知らないが…。


「よかった。断られたらどうしようかと思っていたの」

 

 どうやら姫殿下は、断られると思っていたようだ。


 よっぽどお茶を飲みたかったのだろう。満面の笑みにそのうれしさがにじみ出ている。


「王国名誉騎士勲章受勲の英雄とこんなにも早く会えるなんて今日は、散歩をして正解だったわ」


 黄金色の髪の毛に太陽の光が反射してキラキラと輝いて見える。


 すでに、完璧に整った顔と真っ白な肌と合わさって天使が舞い降りたのかと思うほどだ。


 シャルロッテ姫殿下がのお誘いをクルトが受ける前からすでに準備が始まっていたテーブルとイスはすぐさま準備を完了した。


 まさかとは思うがクルトが来ていることを事前に把握していたのではないだろうか?

最後まで読んでくださった皆様感謝の言葉もございません。

やっと本作のヒロインが出てきました。

評価、ブクマ、感想、レビューを書いていただければ、皆さまのために神社にお祈りをさせていただきます。

よろしくお願いいたします。


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