新たな戦友 2
翌朝、フリーデル少将に呼ばれた倉庫へとクルトが向かうとすでに何人かの将校が集まっていた。
「お待たせして申し訳ありません。ベッシュ大尉であります」
ここにいる将校が皆、研究職の人間であることはその風貌で察しがついた。
「君が適合者のクルト・ベッシュ大尉か」
中佐の階級章をつけた中年の将校が口を開いた。
「おおっと、すまん、すまん。私は参謀本部の装備部遺物課課長のクラウス・ゴルトベルト中佐だ」
「失礼ですが、よろしいですか中佐殿」
「なんだね。クルト君」
「適合者とは何のことでしょうか?」
クルトは、ただ渡したいものがあるということで来ただけなので適合者が何なのか質問する。
「フリーデル少将閣下から何も聞いておらんのかね。君は…」
「それについては、実物を見てもらった方が早いだろう、中佐」
ゴルトベルト中佐の言葉をさえぎってクルトの後ろから声を発したのは、クルトを呼び出した張本人のフリーデル少将閣下だった。
「おい、シャッターを開けてくれ」
少将の言葉でいくつかのセキュリティーが解除されシャッターが明けられる。
シャッターが開き切らないうちに照明によって浮かび上がったのは灰色の遺物だった。
「大尉。君は、アートランチスの遺物のパイロットに選ばれたのだよ」
クルトは、この言葉に疑問を感じた。
「自分は、既に適性検査で適正無しとされているはずですが…」
昔は、国民一人一人がアートランチスの遺物に直接会って動くかどうか確かめていたのだが、現在は、十八歳で受ける適性検査によって王国臣民は必ずその適正を見られているはずだ。
クルトももちろん受けており、適性がないからこそ今まで模造品に乗っていたはずなのである。
「実際に動くかどうか近づいて確認してみてはどうかね?」
「分かりました」
半信半疑で起動範囲内の半径1メートルへと近づいていく。
そして、クルトが1メートルの位置に足を踏み入れると、機体の色が吸い込まれそうな漆黒へと変化した。
「ワガナハ、テトラ。ナンジガ、ワガ、アルジデアルカ?」
アートランチスの遺物特有の合成音声で確認の言葉を発する。
クルトがフリーデル少将閣下の方を見ると静かにうなずいている。
「自分は、クルト・ベッシュ大尉。これから君のパイロットになる」
漆黒の機体に唯一真っ赤に光る眼が点滅する。
「カクニンシタ。ワレハ、ナンジノケントナリ、タテトナリ、ナンジガタオレルマデトモニタタカウコトヲ、コウテイヘイカニチカオウ」
今では、ミュージカルの題材にもなっている「レオンの邂逅」の言葉と全く同じことを発することが、間違いなくクルトに適性があることを教えてくれる。
「閣下。なぜ自分が今頃になってアートランチスの遺物に選ばれたのでしょうか?」
いつの間にかふかしていた葉巻を咥えたまま答える。
「この遺物は、つい先月発掘された神聖ローゼリア王国、十四機目のアートランチスの遺物なのだよ」
少将は、葉巻の煙は吐くとそのまま言葉を続ける。
「この機体は、ノナのデーターベースをあたったところ、ノナと同程度かそれ以上の性能であることが期待されている」
そこまで言い終えると少将の後ろから副官が声をかけた。
「大尉、すまないが私は次の仕事に向かわなければならん。あとはゴルトベルト中佐から説明を受けてくれ」
フリーデル少将は、「中佐頼んだぞ」とゴルトベルト中佐に声をかけると迎えに来た車に乗り込んでいく。
「それでは、ここからは私が説明しよう。まず、大尉はアートランチスの遺物にも性能差があることを知っているかね?」
「はい。パイロット教育にて教わりました」
「では、その性能差はどうやって分かる?」
「実際に動かすか、戦って評価を出すのではないでしょうか?」
これも、パイロットにとっては常識である。
まぁ、実際には性能がすさまじすぎるため意味のない評価とされているが…。
中佐は、「それも確かに間違いではない」と前置きをしてから、一呼吸おいて正解を述べた。
「彼らには製造番号がふられている。その番号が小さければ小さいほど性能が高いことが現在の研究によって示されている。大尉がこの前戦った「ミノタウロス」は最も性能の引く四十番台の機体だ」
この前戦った「ミノタウロス」ですらアートランチスの遺物の中では一番弱い部類であることがクルトを驚愕させる。
「大尉は、運がいい。もしも十番台や一桁の機体とあっていたら間違いなくこの場にはいなかったよ」
確かに不幸中の幸いなのは間違いないが、あってしまった時点で運が悪い方じゃないかとクルトは思う。
「それでこのテトラの製造番号は一桁台だ。つまり、世界最強の機体に大尉は選ばれたということになる」
クルトは、後ろに振り向いてテトラを感慨深く見上げた。
「性能が高いことは間違いないが、まずは慣熟訓練をしなければならない。であるから、大尉はそれまで参謀本部装備部の配属になる予定だ。その他に取りたいデータが山ほどあるし…」
中佐の本心はどちらかというと後から付け加えられたデータの方だと感じる。
「どのくらいの期間なのでしょうか」
「通常の場合だと一年ほど必要とするが、大尉はすでに遺物のパイロットであるから三カ月ほどだと見積
もっている」
三カ月。そこまで長く前線から離れなければならないことを仲間たちに申し訳なく思う。
「その後も新しく新編される部隊に配属されるはずだから前の部隊には戻れないことになるな」
ゴルトベルト中佐は、クルトの心を読んでいるかのように質問の答えを先に言った。
「しかし、前線はアートランチスの遺物を必要としているはずです。自分は王国のために戦いたいのです」
この気持ちに嘘はない。しかし、クルトの本心は次こそ「ミノタウロス」を倒したい気持ちの方が遥かに大きい。
「大尉の愛国心は重々承知しているが、今度新編される部隊でこそ愛国心がさらに破棄されるはずだ」
「どのような部隊が新編されるのでしょうか」
これは、純粋な好奇心からの質問だった。
「近衛師団だ。神聖ローゼリア王国第八王女シャルロッテ姫殿下の近衛師団だ。大尉はそこの遺物大隊の副隊長に任命される予定だ」
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