水産資源の枯渇対策
近年になって水産資源の枯渇がより深刻度を増してきました。ウナギは絶滅危惧種に指定されましたし、マグロだって危ない状態です。もちろん、枯渇が不安視されている水産資源は他にもまだまだあります。カツオの漁獲量は減り続けていますし、イワシが高級魚に?!なんて話題になった事もありました。タコも獲れなくて、今では日本はアフリカからの輸入にその多くを頼っています。
水産資源の枯渇に関しては、日本ははっきり言って主犯の一つです。ただ、だからこそそれなりに反省もしているようで、漁獲量を調整する事で魚の数の回復を計り、ある程度はそれに成功しもしました。ところがです。中国が経済成長に伴って乱獲をするようになってしまったので、その効果もあまり期待できなくなっています。
魚を獲り過ぎて漁ができなくなれば、困るのは中国だって同じですが、状況を理解していないのか、それとも楽観視し過ぎていて「多分、大丈夫だろう」なんて思っているのか、不安に駆られながらもそれ以外に生活の手段がないのか、そのいずれかは分かりませんが、とにかく今のところは乱獲を止める気配はないようです。
もっとも、水産資源の枯渇問題は中国や日本の近海といった局所的な問題ではなく、世界全体の問題なのですがね(そして、世界規模でも水産資源の大量消費国である日本は大きな責任を背負っています)。
この問題はもう数十年以上前から訴えられ続けてきましたが、解決に向けて大きく前進したという話はもちろん聞きませんし、何かしら有効な解決策が実行されたという話……いえ、それどころか解決案が提示されたという話すら聞きません(もちろん、多少は行われているのですが)。こういった類の問題の場合、民間にできる事は限られていますから、国の取り組みに期待したいところですが、はっきり言ってやる気があるようには思えません。
税金を懐に入れたり、犯罪の隠蔽をしたりで忙しいのでしょうかね? (あっ 憲法改正以外は眼中にないのかも……)
ですが、水産資源の枯渇問題は、決して野放しにしておいて良いような問題じゃないんです。じゃないと、そのうちに魚が食べられなくなってしまいます。何かしら解決策を実行していかないと……。
え? 魚が食べられなくなるくらい、別に構わないじゃないかって?
甘いです! そんな事を言ったら、魚が好きな人達を敵に回しますよ!? 魚食文化をなめるな!
……えっと、もっと真面目に書くと、人間社会にとって文化の多様性というのは重要なんです。だから、それが失われる事には警戒をしなくてはならないんですね。ただこの点は、まぁ、その効果を明確には示せないので、或いは中には納得してくれない人もいるかもしれません。ただ、もっとはっきりとした“魚食文化のメリット”もあるにはあるんです……
■犯罪の少ない社会という特性
日本は世界でも有数の“犯罪がとても少ない社会”だと言われています。その原因として、ほぼ単一民族である点や貧困が比較的少ない点などがよく挙げられていますが、その内の一つに“魚食文化”があります。
海の魚には“オメガ3”という成分が多く含まれているのですが、このオメガ3には暴力行動を抑制する効果があるという説があるのですね。
この話は僕は無視できないと考えています。何故なら、社会の魚食量と殺人事件の発生件数に明確な相関関係がある事を示すデータがあるからです。
『暴力の解剖学 エイドリアン・レイン 紀伊國屋書店』という本によれば、その社会の魚を食べる量が増えれば増えるほど、殺人事件の発生件数が減っているというのですね。そして、水産資源枯渇の主犯と言われている点からも分かるかと思いますが、もちろんこの平和な日本社会は世界でもトップレベルで魚を食べています。
一応断っておきますが、これは飽くまで“相関関係”であって“因果関係”とは別物です。魚嫌いで温厚な人はいくらでもいるし、魚好きな殺人犯だっています。
魚食…… と言うか、オメガ3は暴力行動を制御するネットワークの一要素に過ぎず、だからこれだけで全てが決まる訳じゃないのですね。だから、これを理由にして誰かを犯罪者であると決め付けるような真似をしてはいけません。
ただし、それでもこの事実はちゃんと役立たせられます。魚食文化を広めれば、その社会の犯罪件数を減らす効果が期待できるはずですからね。
犯罪発生率って“社会の住み心地”に直結する話で、しかも、力技で抑え込んだり放置して犯罪増加で刑務所の増設に追い込まれたなら、べらぼうに金がかかるんです。
ならば、“魚食文化”によって、平和な社会の維持に努める方が良いって思いませんか?
更に言っちゃうと、この“魚食文化”を日本などの特定の社会だけのものにしておくのは勿体ない話でもあるはずです。
(まぁ、既に“寿司”とか、日本食が世界に認められているケースも少なくない訳ですが)
もしも、魚食文化を世界中に広められたなら(日本食に限りません)、犯罪件数を減らせるかもしれません。
「重要なのはオメガ3だってなら、何も魚に拘る必要はないじゃんか」って、そんな意見もあるかもしれませんが(魚の他にも、オイルや枝豆、クルミ、栗なんかにも含まれているそうです。もっとも、魚から取れるオメガ3とは、微妙に種類が違うのでそれら全てで犯罪抑制効果があるかどうかまでは僕も知らないのですが)、それは置いておいて、その為には“持続性のある水産資源の利用”が求められるはずです。
つまりは、日本以外の社会にとっても海の魚…… 水産資源は重要って事です。このまま漁獲量の減少を放置して、「魚が食べられない社会」にする訳にはいかないんです。
どうですか? こう考えると、水産資源の枯渇対策は、意外に重要な問題だって思えてきませんか?
もちろん、水産資源は経済にとっても重要ですし、生態系を考慮する上でも重要です。今現在、生態系を構成するパーツが急速に失われている状況ですが、これが進んでいけば果たして何が起きてしまうのか、まったく予想ができません。中には楽観視している人もいますが、リスク評価能力が低いと言わざるを得ないでしょう。仮に無事に済むとしてもそれは単なる結果論に過ぎません。
こんな事を書くと、
「そうは言っても、どうしようもないじゃんか」
って、言われそうな感じですが、果たして本当にそうでしょうか? 思考を放棄せず、まずはきちんと整理してみましょう。
■ざっと概観を掴む
さて。
水産資源に限らず、どんな生産物でもそうですが、生産があって流通があって消費があって廃棄があります。でもってどんな場合にも、“資源の枯渇”をどうにかする為には、生産量を増やすか、無駄な廃棄を減らして活用範囲を広げれば良いのですね。
水産資源における“生産”ってのは、当然の事ながら漁な訳ですが、これだけって訳じゃありません。言うまでもない事かもしれませんが、養殖だって可能です。もっとも、これは充分に普及してはいません。
農業畜産は自然を改変し、生物を育成する事で生産物を得ていますが、機械化によって規模こそ大きくなりはしましたが漁業は未だに昔ながらの狩猟がメインだって事ですね。だからこそ、生産量をコントロールし難く、“枯渇”が問題になり、生態系への影響も大きい訳です。
ただし、「なら、養殖にすりゃ良いじゃんか」とは簡単にはいきません。何故なら、水産資源の養殖は難しい上にコストがかかるのが普通だからです。漁をした方が安上がりで済むのなら、漁をするってのが人間社会の常ですからね。
もっとも、近年になって養殖への期待が大きくなって来ています。当たり前に分かるかもしれませんが、“水産資源の枯渇”で、魚一匹当たりの漁のコストが上がり、魚の値段も高くなっているからです。養殖に切り替えても充分に商売として成り立たせられそうになって来ているのですね(既に4割程が養殖になっているとか)。
次に流通です。
一応説明をしておくと、生産者(漁師さんたち)から、消費者へ水産資源を届ける為のものですね。ここには獲れた魚を保管するって作業も含まれています。
消費は当り前に消費。まぁ、僕らが魚を食べたりなんだりする事です。一応、肥料にする場合やバイオマス利用もここに含まれるでしょう。
でもって最後に廃棄です。一応、これもGDPに含まれていますが、ほとんど誰も得しないのでできれば減らした方が良いのは説明するまでもないでしょう。
では、概観はここまでにして、次にもっと具体的に個別に説明をしていきたいと思います。
■(さっきも書いたけど)無駄を減らせばいい
普通なら、順番からいって“生産”から語るのが筋だと思われますが、これは後に回して物流から説明します。物流の話が“生産”にも影響を与えるもので。
当然の話ですが、生産量が減っているのなら無駄を減らせば良いのです。今まで資源が無駄遣いされてしまっているポイントに注目をしてそこを改善するのですね。
これも当然の話ですが、無駄遣いを減らすには廃棄される資源を減らせば良いのです。魚介ってのは生ものですから直ぐにダメになってしまいます。ダメになっちゃったなら廃棄するしかない訳で、ならダメにならないようにすりゃ良いのです。
とってもシンプルな話ですね。
こんな事を書くと、
「魚をダメにならないようにする? 防腐剤でも大量に投与するつもりか? 健康被害を考えろー!」
って、怒られそうな気もしないではありませんが、実はもっと安全な手段があるのですよ。
急速冷凍技術って知っていますかね?
■急速冷凍技術
生物を冷凍すると、細胞膜を傷つけてしまいます。それが品質の劣化に繋がり、保存可能期間も短くなってしまうのですが、実はこれを防ぐ技術があるのです。
急速冷凍と呼ばれているのですが、特殊な冷凍方法によって細胞を傷つけずに生物を冷凍保管する事が可能なのですね。これによって高品質を保ったまま冷凍でき、当然ながら保存期間も桁違いに伸びます(CAS冷凍技術、プロトン凍結など、数種類あるようです)。
臓器などを高品質のまま保存できるので、医療分野での活用が期待されていますが、当然、食品の保存にも効果を発揮します。
これを知ったのはもう数年以上も前の話なので、もっと普及しているかと思って調べてみたのですが、どうも予想よりも普及してはいないようです。原因までは分かりませんが、やっぱりコストの問題が大きそうです。ただし、導入実績はあるようなので活用は可能だと判断して良さそうです。
これを活かせば、当然ながら、廃棄される水産資源を減らせます。
じゃ、どうすればこれを普及し活かす事が可能になるでしょうか?
単に情報共有ができていないという可能性もあるかもしれませんが、コストが普及の足枷になっているだろう点は否定できません(今、ネットで軽く調べてみたら、長期保管が可能になるので長期的に観ればむしろコストは安くなるという記事がありました。これが信頼できる記事かどうかは分かりませんが、一応、そういう話はあるようです)。という事は……
「魚一匹分の価格を引き上げて、導入を促せば良いんだ!」
って、なるはずですが。
そんな主張をしたなら、やっぱり
「魚が高くなるのは嫌だー!」
って、消費者の声が響き渡るのでしょうね。
――と。
なら、こんな解決策はどうでしょうか?
■物流改革
知っている人は知っている話ですが、日本の物流には中間業者が多くいるという特徴があるそうです。
製造業者から下手すると複数の卸売業者を経て小売業者へ納入され、それからようやく消費者へと商品が渡るのですね。この過程で、当然ながら、付加価値が加算されてしまうので、徐々にその商品の価格は上がっていってしまいます。
ならば、この中間業者を省けさえすれば消費者は低価格でその商品を手にいられ、製造業者は高価格での販売が可能になるはずです。
「そんな事が可能なのか?」って思いますか?
まぁ、可能なんですね。中間業者の役割は幾つか考えられますが、絶対必要って訳ではありませんし、今現在はインターネットの普及によって中間業者に頼る必要性は更に薄れています。実際、一部では既にその動きは出ています。
僕もそれほど詳しくはないのですが、日本から中間業者が消えないのは“因習に過ぎない”という話もあります。嘘か本当かは知りませんが、中間業者が特権階級化してしまっているというのですね。
もしこれが本当だと言うのなら、こんなにバカバカしい話はありません。中間業者の所為で商品の値段は高くなって、資源は無駄遣いされ、労働力不足の現状を考えるのなら労働力の無駄遣いまでしてしまっている……
速く中間業者に業種転換を促し、こんな因習は止めてしまった方が良いのじゃないかと思います(ただし、業界内の力関係とか色々あるようなので、その辺りを上手く調整しなければいけないでしょう)。
あっと、話が少し逸れてしまいましたが、とにかく、中間業者を省けさえすれば、魚一匹当たりの価格を引き上げられるのですね(しかも、消費者にとっては価格が安くなる)。そうすれば、急速冷凍技術の普及を促せられる上に中間業者がなくなるので、廃棄はほぼ確実に減るでしょう。
そして、実はまだ物流には改善の余地があるのです。
これもインターネット絡みなのですが、“予約注文”の割合を多くすれば、消費者が購入する事がほぼ決まっているので、無駄な入荷を減らせます。無駄な入荷が減るのですから、当然、廃棄は減ります。
予約注文はインターネットの普及によって容易になりました。技術的には、言うまでもなく既に可能です。
ただし、中間業者を省くにしろ“予約注文の文化”を根付かせるにしろ、“社会全体の慣習を変える”という大変に大がかりなものです。まず、民間だけの力では無理とみて間違いないでしょう。
まぁ、つまり、何度か書いていますが、国にやる気を出してもらわないと始まらないって話です。
さて。
これと同じ理由がほぼそのまま生産面…… つまり、“養殖の拡大”にも使えます。
■養殖可能な魚に注目するってのはどうでしょう?
前節で説明した物流改革を行えば、一匹当たりの利益率が高くなるのですから、当然、養殖もやり易くなります。
ただ、養殖が容易な魚は限られています。ウナギとかマグロとか完全養殖を目指して研究されているって話はよく聞きますが、全ての魚が養殖に適しているって訳じゃありません。
なら、養殖可能な魚の需要を増やせば良いのではないでしょうか?
そうすれば自ずから養殖の普及が促せます。先に説明した急速冷凍技術も併用すれば、生産管理も容易になるでしょう。それにより、水産資源を護る事が可能になるはずです。
ただし、養殖ならば何でも水産資源枯渇対策になるのかと言えば、実はこれがそうでもないんです。
魚の餌として、天然の小魚等を用いている場合、やっぱり生態系にダメージを与えてしまうのですね。なので、天然由来の餌を用いている場合は、養殖でもダメです。
水産資源枯渇対策に効力を発揮する養殖のみを伸ばすのには、例えば、持続可能な養殖かどうかを判断し、優良な養殖手段によって飼育されたと判定された魚にはエコマークを付けるだとかいった対策が考えられるかもしれません。
更に付け加えておくと、餌によっては健康に悪いものもあるかもしれませんので、その辺りは要警戒だと思います。
■思考麻痺に陥らないよう
よく聞く話ですが、新しい試みを実践しようとすると「○○だから無理」とできない理由ばかり探す人がいます。ところが、よくよく考えてみると致命的欠陥ではなかったり解決策があったりするケースがほとんどなのだとか。
取り敢えず、今回、僕はアイデアを出してみましたが、もちろん、スムーズにこれが上手くいくとは思っていません。恐らく、実際に始めてみたら、数々の問題点にぶち当たるでしょう。
が、だからと言ってそれは水産資源枯渇を諦める事を意味してはいません。
「どうせ駄目だから」的な思考麻痺に陥らず、まずはよく考える事から始めてはみませんか?
今回僕が提案した方法だって、詳細な検討を省いた雑なものではありますが、それでも叩き台、或いは何らかの活路を見出す切っ掛けくらいにはなると思いますので。
因みに、今回のアイデア、水産資源に限らず、農作物や畜産にも一部はそのまま使えます。
と言うか、急速冷凍庫を効率良く使う為には農作物や畜産にも同時に使った方が良いかもしれません。