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東方剣士の流浪録  作者: かなた
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第二章 3

  3 

~同時刻 メラスの包囲網の中~

最初に飛び掛ってきた二体のメラスを躱して同士討ちにし、アンが去って直後。

九条は依然体に力を入れず、ゆったりと佇んでいた。それはさながら、友達との待ち合わせのように緊張感が無い様に見える。

「さて・・・と。僕と一緒に踊ろうか」

 伝わるはずの無い言葉を呟くと、大きく深呼吸する。それを機に、メラスの群れが一斉に襲い来る。それでも、慌てる事も、力む事もせず見据える。

神威流剣術の極意は、『紫電一閃』。一瞬の攻防の中に真髄がある、とされる。神威流の免許皆伝まで上り詰めた、龍神くらいのレベルになれば、一合の打ち合いで試合を終わらせる。だが勿論、九条は極めていない。知ってはいても、それを行うのは相当の修練を要する。それに、九条は既に龍神の元から離れており、業も我流を加えている。

「神威亜流、一の型『流舞』」

 そう呟くと、演舞を見せるかの様な足取りでメラスの間を縫い、飛び掛ってくるメラスの力さえも利用して、抜いたメラに斬撃を浴びせる。

無理の無い動きで、剣を流れるように振り回し最速でメラスを斬り付け、躱し間際にも斬り付ける。流水を彷彿とさせる、無駄の無い動きの九条に、メラスの爪や牙はことごとく空を切る。

両手持ちでの袈裟斬りから、左手に持ち替えて後ろへの斬り上げ、勢いそのまま横一閃。殆ど片手でカタナを扱う九条だが、カタナの重さを感じさせないのは、彼の『狩人』としての身体能力の補強だけでは無く、彼自身の体捌きにもある。剣を振る流れに身を任せ、それに逆らうような力を加えず、それでいて無駄を省いてメラスを斬る九条は、その場に見物人が居れば、舞いを舞っているように見えるだろう。事が済むのに、十分も掛からなかった。

辺り一面に鮮血が覆い、返り血で外套を所々深紅に染め、それでも尚清廉とした面持ちをする九条の姿には、一種の恐怖を感じる。だが、その雰囲気もカタナを鞘に納めると共に消失した。

「・・・、」

 物憂げにメラスの死体を見つめ、細く短い溜息を付く。そして、頭を左右に振ると思考を次に回す。勿論、アンの事だ。

辺りに意識を巡らせるが、どこかで戦闘が行われている気配はおろか、アンの気配も感じない。

首を傾げながらも、髪を掻き上げ、アンに向かわせた方向へと歩く。

先程のメラスは九条が最初に立っていた地点から数メートルの範囲に死体が散らばっているその範囲を抜ければ、また土の木の根の感触が足に伝わってくるのだが、もう一つ感じる物がある。血の香りだ。風向きからしても前方、アンが向かった先だ。

嫌な予感が過ぎる。

 『心配しないで、君は僕が守るから。君がするのは、何があっても生きて帰る、そんな覚悟だけだよ』

自らアンに発した言葉を反芻すると、足が無意識に早くなる。

 茂る草や、枝から垂れる蔦を鬱陶しく感じながら、その匂いの元へと走る。そして、到着する。

そこには、首筋に傷を負い、その傷口からの血で辺りの木々を染めている---メラス・イストの死体があった。逆に言えば、それ以外には誰も居なかった。

よく見ると、額には矢が一本刺さっており、おそらくそちらが致命傷になっているだろう。その矢を手に取るが、どこでも手に入る様な普通の矢だ。しかし、そんな事が分かっても、アンの居場所が分かるわけでは無い。それでも全く手掛かりがないわけでも無い。

一つに、アンは弓を持ち歩いていなかった。

二つに、彼女の姿が無い。

この二つから、アンが誰かに連れて行かれた、もしくは自らの足でどこかに誰かと向かった。二つの可能性が浮上する。どちらにせよ、アンが生存している可能性は高い。

 九条はアンの向かった方向に目星を付けようと痕跡を探し始める。

本来、こういうのは専門では無いが、そうも言ってはいられない。本職よりは精度は落ちるが、出来ない物でも無い。それに、アンは足跡を隠して行動を起こしてはいないはずだ。

そして、その予想はしばらくして覆された。


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