第一章 4
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「そういえば、さっきのあの武術って、もしかして『神威流』?」
思い出したように、隣にいるアンが尋ねる。
「ん・・・?ああ、さっきのかい?『元』はね。でも自分で色々崩してるから、若干違うかな」
「じゃあ、睦月に教わってたの?」
言葉が詰まった。龍神が教えたのだろうか、と頭を過ぎるが、それは違うだろう。これだけ情報があれば、考えてみればわかる話だ。それに、彼女だって神威流を龍神から見たことも教わったこともあるはずだ。そして、別にそこは隠す事も無いだろう。
「一応ね。でも三年も習って無いし、修行も半ばで打ち切ったから言うほどじゃ無いよ」
「でもあの人、弟子は取らない、って公言してるはずだよ。君って結構---」
「---さっきも言ったろ。僕はそんなに大層な人間じゃ無いんだ。どうせ教えてくれたのだって、あの人の気紛れだよ」
アンの言葉を遮って言う。その言葉に困惑するアンに、
「ごめんね。でも、その話は今はやめよう。今回の依頼の話をしても良いかな?」
九条は自覚していないが、アンに抑圧的に言ってしまう。その言い方に気圧されて何も言わないアンの態度を肯定と取り話を始める。
「依頼内容は『メラス・イストの討伐及び、メラスの群れの掃討』。まあ、内容はそんなに難しいものじゃないかな。メラス・イストは知ってるよね?」
「馬鹿にしないでよ。それくらい知ってるわよ。メラス・イスト、メラスの群れのリーダーで、他のメラスよりも二回りほど大きく、決闘でリーダーは決まる。特徴としては、大きさ以外には特筆すべき点は無い・・・どう?」
教科書通りの答えを、胸を張って答えるアン。だが、普通『狩人』が知っている情報と言ってもそんなものだ。だから、九条はその事を咎めたりはしない。
「ま、そんなところだね。付け加えて言うなら、メラスは足元が弱点で、そこを攻撃されるとバランスを崩して戦い易くなるかな。これはメラス・イストにも言えることで、覚えておいて損は無いよ」
ひとまず重要な事を補足すると、アンが感嘆の声を上げる。
「そういうところを見ると、やっぱ経験を積んでるな~って思うわね」
「そうでもないよ。仕事を始めたのは二年くらい前だし、まだまだ新人だよ」
手を振りながら笑って言うと、
「そういえば、朝のあの子はどうなった?足を怪我していたみたいだったけど」
朝の出来事を思い出し尋ねる。アンは少し考え込むと、
「うーん・・・。まあ、命に別状は無かったし、足もちゃんと治療すれば後遺症も残らないらしいから大丈夫よ。あの時、あなたが居なかったらどうなったか・・・本当にありがとう」
「そんなに何度も謝らないでも良いよ。こっちが勝手にやった事なんだし」
髪を掻き上げると、苦笑いを浮かべる。自分で出した話なのだが、少々バツが悪くなってしまった。あの時にも言ったのだが、『こちらの事情』があった。その辺は彼女に話して無いので仕方は無いのだが、それでも居心地は悪い。
「そろそろ外なんだけど、覚悟は良いかな」
その言葉に、一瞬たじろぐアンを見て、言葉を言い直す。
「心配しないで、君は僕が守るから。君がするのは、何があっても生きて帰る、そんな覚悟だけだよ」
アンの頭に手を置き、落ち着かせるように穏やかに言うと、アンの返事を待たずに先に進む。




