表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/17

第13話 楽しかったか?

打球はショートの頭の上を越え、左中間を破った。


「よっしゃぁ!!」


ベンチにいた俺達はボールがショートを飛び越えた時点で叫んでいた。

監督もベンチから立ち上がってボールの行方を見る。

ボールは相手チームのセンターとレフトが懸命に追っていたが、外野の後ろに並べた移動式のネットのところまで転がっていった。


もともと俊足の辻は普通のヒットでもホームに帰ってこれるかもしれないぐらいの奴なので楽々ホームイン。

一方古谷も懸命に走る。

別に俊足というほどでもないがベースの走り方が上手い。

走塁は単に足の速さだけでは決まらない。

ちゃんとした走り方をしないとどんなに足の速い奴でも普通の奴と同じぐらいでしか走れないのだ。


古谷がセカンドベースを回ったとき、外野ではセンターがようやくボールに追いつき中継に入ったショートへボールを投げる。

古谷は全力疾走のままサードベースを蹴り、ホームへ突っ込む。

相手のショートもさらに中継に入っていたピッチャーを飛ばして一気にバックホーム。

ボールと古谷はほぼ同時にホームへ飛び込んだ。

判定は……、


「セーフ!」


主審のコールが響く。


「やった!」


再びベンチが沸く。

ホームに滑り込んだ古谷も立ち上がりガッツポーズ。

そして帰ってきた古谷とハイタッチを交わす。


「ナイスラン、古谷」


俺がそういうと、


「これでみんな少しは試合が面白いと思えるだろう」


と言った。

俺と同じことを思っていたようだ。


「あぁ。それにしても綺麗に打ち返したな。相手のピッチャー唖然としてたぞ。まぁ、俺もホームラン打たれたときはああだったんだろうけどな」


そういうと今日は調子がいいみたいだ、と言ってベンチの中へ入った。


これでうちのチームも一矢報いることが出来た。

初試合で三年生を相手にこれだけ戦えれば十分だろう。

あとは俺がこれ以上失点しないだけ、と思ったがこれだけでは終わらなかった。


古谷に完璧に打たれて若干動揺したのか相手の投手は続く5番江口にデッドボールを出した。

これで二死一塁となる。

そしてバッターは6番の桜井。

ここで誰もが予想しなかったことが起きた。

ツースリーと追い込まれて粘った7球目だった。

外角高めにきた球を思い切り打ち返した。

グランドに再び快音が響きボールはぐんぐん飛んでいく。

そして、レフトの頭を越え、そしてレフトのネットも越えて初回に打たれたホームランと同じように雑木林の中に消えた。


ベンチは呆然とその様子を見ていた。

そしてボールが見えなくなると全員が隣りと顔を見合わせ、一瞬の間があった後、大騒ぎになった。

このまさかのツーランホームランでこれまたまさかの1点差。

本当に誰も予想しなかった展開だ。


ところでこのホームランを一番驚いていたのは打った当人である桜井。

打った後しばらくホームに突っ立ったままでボールが見えなくなってしばらくしてから主審に促されて塁を回りだした。

さらにファーストベースを踏み忘れそうになり、そのときファーストコーチャーズボックスに立っていた辻が慌てて桜井を呼び戻す場面もあった。

なんとか1周して戻ってくると俺達が寄ってたかって桜井を叩く。

あ、もちろん別にいじめてるわけではない。

野球ではよくあることだ。


しかし、反撃もここで打ち止め。

その後試合が終わるまで俺達のチームがランナーを出すことはなかった。



「5対4、よって西賀茂高校の勝ちです。全員礼!」


「ありがとうございました!」


こうして俺達の初試合は敗北に終わったが案外自分たちのチームは強かった、というのが第一の感想だ。

結局エラーも初回の3つのみだし(まぁ本来ゼロじゃないといけないんだけどな)、スコアも5対4と接戦だったし。

実際初回エラーがなければ勝っていたことになる。

これはひょっとすると2年後には甲子園だって夢じゃないかもしれない。


「どうじゃ、試合は楽しかったか?」


試合後、俺達を集めて監督が言った。

全員がうなずいた。

しかし、うなずいたわりには全員あまりうれしそうではない。

特に一番満足してそうな初試合組が不満そうだった。


「何じゃ、不満そうじゃの村西。どうしたんじゃ?」


と聞くと村西は、


「自分がエラーしてなければ試合に勝っていたはずです。せっかく古谷や桜井が点を取ってくれたのに結局自分が足を引っ張ってしまったんです。そこが一番悔しいです」


と言う。

すると他の数人もうなずいた。


「なるほどの。お前らは思ったより骨のある奴らじゃのぉ。これで満足しとったら甲子園はおろか公式戦で1回も勝てんじゃろう。じゃがお前らは満足せんかった。要するにお前らはみんな負けず嫌いのようじゃ。負けず嫌いじゃないと上手くはなれんからのぉ。惜しかった、でも頑張ったからいっか、なんて思っとるようじゃいつまでも惜しかった、で終わってしまう。なぁお前ら、勝ちたいか?勝ちたかったらとにかく努力することじゃ。誰よりも多くするんじゃ。人が自分の2倍すれば自分はそいつの2倍やれ。また向こうが自分の2倍したらさらに2倍するんじゃ。努力はお前を絶対に裏切らない。この後は自主練とする。何時までやってもいい。自主練では自分自身とも勝負じゃ。自分にも負けるな。それじゃあ解散」


村西や監督の言葉を聞いて俺は自分自身を恥じた。

初試合のあいつらですら不満に思った試合を俺は十分だと思った。

それにもともと今回一番反省点が多いはずなのは俺だ。

ほとんど毎回のようにランナーを出し、ホームランも浴びた。

その俺が満足している。

一体どういうことだ?

俺は自分自身に腹が立った。


俺はそのあと200球投げ込み、20キロ走りこんでさらに2時間筋トレをして帰った。

他の奴も昼飯を食った2,30分以外はずっと練習していた。


この練習試合をきっかけに全員練習を本当に一生懸命にするようになった。

あの監督はこれを狙っていたのかもしれない。

全員が一日一日上手くなっていくのが分かる。

日進月歩とはまさにこのことだ。

そして月日は足早に流れていき、いつの間にか梅雨も通り過ぎて暑い夏を迎えた。







感想お待ちしています!どんな些細なことでも構いません!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ