第11話 洗礼
練習試合当日、空はきれいに澄みわたり絶好の野球日和になった。
俺が学校に着いたときにはもう全員が集まっていて、それぞれがアップを始めていた。
俺も急いでユニフォームに着替えた。
このユニフォームは当たり前だが初めて着る。
上下ともに灰色で、胸のところに「二ノ宮」と漢字で書かれた結構シンプルなものだ。
帽子は黒地に銀糸で二ノ宮の「N」が刺繍されてある。
ちなみにこれらのデザインはみな監督が決めたものらしい。
着替え終えてグランドに出て時計を見ると8時30分過ぎを指していた。
試合開始は10時丁度、昨日グランドの整備もやっておいたからまだまだ時間には余裕がある。
俺は軽くキャッチボールでもしようと思って、近くにいた村西に声をかけた。
村西も丁度しようと思ったとこだったらしくボールとグローブをベンチまで取りに行って早速始めた。
「お前確か試合は始めてだったよな。緊張してるか?」
俺はボールを投げながら聞いた。
「う〜ん、そこそこ。まぁ俺は結構能天気だから」
村西も投げ返しながら言った。
確かにこいつはそんなに緊張で固まるようなタイプじゃなさそうではある。
しかし、表情はいつもと違う。
いつもこいつはヘラヘラしてる感じなのに今日は表情が固い。
冗談も言わない。
やっぱり緊張しているみたいだ。
「まぁ気楽にいこうぜ。ただの練習試合だし、初めてなんだから勝ち負けなんか関係ねぇよ。草野球と思えばいいさ」
軽く緊張をほぐそうと思って言ったが、あまり効果はなさそうだ。
村西はあぁ、そうだなと言ったが表情は相変わらず。
まぁこれから慣れていくしかないだろう。
しばらくしていると監督がグランドに現れた。
「気をつけ、礼!」
「おはようございます!」
古谷の号令で全員が手を止めて挨拶をする。
監督は帽子を取って軽くうなずき、それからこっちへ集まれと合図をした。
「今日はいよいよ練習試合じゃ。初めての奴も多いけぇ緊張していると思うが、今日は試合を楽しんで来い。エラーは仕方ない、まだまだ練習不足じゃけんの。これからだんだん試合になれていけばええけぇ、今日は思いっ切りやることじゃ。ええか?」
「はい!」
監督の言葉に全員が力強く返事をする。
俺もやる気が出てきた。
「よし、じゃアップにかかれ」
しばらくアップをしていると9時過ぎに相手のチームが到着した。
西賀茂高校、もともとそんなに強いほうではないがそれでも時々夏の県予選でベスト8ぐらいまでは進んでいる高校だ。
そんなに強豪というほどではないが、この忙しい時期によく来てくれたなと思った。
この時期は夏の甲子園の予選に向け毎週のように練習試合をしている。
そんなときに俺らみたいな格下の学校にわざわざ来てくれているのだ。
本来なら俺達が向こうに頼んでいるわけだし向こうの学校に行ってさせてもらうのが普通だが、うちの監督が向こうの監督に練習試合を頼んだところ向こうからこっちへ来ると言ってきたらしい。
監督の名がものを言った、というところか。
そして向こうのアップも終わった10時、ホームベースに両チームが整列した。
相手は1年2年といった2軍を出してくるだろうと思ったが意外にも3年ばかりの1軍がでてきた。
「これから西加茂高校対二ノ宮高校の練習試合を始めます。礼」
「お願いします!!」
主審の号令で試合は始まった。
ホームである俺達は当然後攻。
しかし、審判は普通はこちらが出さないといけないが人数がギリギリであるため向こうにお願いした。
俺はマウンドで3球ほど投球練習をする。
3球ともストレート。
朝来てからブルペンで古谷と20球ほど投球練習をしたが、今日はわりと調子がいい。
なんだかバッチリ抑えられそうな気がした。
「プレイ!」
球審がコールする。
俺は振りかぶり、第1球を投げた。
キーン!
鋭い打球がサードの横を抜けていく。
初球の甘く入ったストレートをきれいに打たれた。
バッチリ抑えられそう、言ったそばからこれだ。
俺はため息をついた。
無死一塁、相手は走ってくるだろうとおもったら案の定初球から盗塁をかけてきた。
古谷は当然読んでいて、外にストレートをはずさせて2塁へ投げる。
ボール自体のタイミングは完璧だったが、ショートの小林がボールを落としてしまった。
「ごめん、谷川」
小林が申し訳なさそうに言う。
「気にすんな。切り替えていこうぜ」
俺は少しもったいないなと思ったが当然起こることなので仕方ない。
第一ランナーを出したのは自分なのだ。
俺も気持ちを切り替えようと思い、深呼吸をしてバッターに向き直る。
2球目はボール。
これは少し内角によりすぎた。
そして3球目を投げる。
バッターは投げた瞬間バットを構えてバントをした。
コン。
ボールはファーストのライン沿いを転がった。
上手い。
相手のことながらそう思った。
これは古谷がさばいてアウト。
二塁ランナーは進塁し、一死三塁。
次の3番バッターは抑えた。
2球目のスライダーを叩いて平凡なセカンドゴロ。
ランナーはそのままで二死三塁。
そして4番を迎えた。
ただ思っていたより小さいバッターだった。
背も低いし、体格もそこまで大きくない。
そう思って油断したのが災いのもとだった。
キーン!
グランドに再び快音が響いた。
1番バッターのときと同じく、初球だった。
内角低めに投げたスライダーは古谷の構えたグローブには収まらずレフトの向こうの雑木林に消えていった。
2ランホームラン。
俺は悠々と塁をまわるバッターを呆然と見ていた。
そして、これが高校野球だ、そう思った。
野球をあまり知らない人だと描写が下手なんでわかりづらいかもしれないです。ここが分かりにくいとかあったら是非ご指摘ください。出来る限り努力していきます。