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ヤンデレ妹に死ぬほど愛されて眠れない第1話

中2か中3の時にノートに書いた小説。今読んでもひどい。

天遣あまつかつかさは自分が夢を見ていることをはっきりと認識できる人間である。「ああ、夢か。」などと興ざめしたように顔を歪ませると、「起きろ。」と発するだけで彼の視界は現実サイドへと切り替えられる。

 本人は別段特殊な力とは思っていないようだが、夢を見ながら夢であることを認識できる人間は多かれど、夢から任意のタイミングで目覚めることのできる人間はまずいないだろう。

 しかし、彼の能力はそれだけではない。

「お兄様ぁー、朝ですよー!」

 彼は寝ていても、現実世界の情報を得ることができるのである。


        ***


「お兄様、早く起きてください」

 俺は妹の目覚ましコールに応えるべく、重いまぶたを開け、鉛のように思い身体を起こすと、接着剤でガチゴチに固めたプラモデルより硬い関節を動かすのだった。

「今行くよー」

 関節をほぐすためにうめき声をあげながら背伸びしつつ、二階の洗面所で顔を洗い、歯を磨き、

「おはよう」

 と妹のいる階下へと降りる。

「お兄様、おはようござ……きゃっ!」

「どうした!」

 小さな悲鳴をあげる妹。その原因を探り、辺りを見まわしたが特に変わったことはない。

「お兄様、服」

「あ。」

 俺は今更過ぎるけどパジャマから着替えていないことに気付く。面倒なので前のボタンは全開になっている。

「かわうぃー妹だなぁ、まったく!」

 俺はこんな軽口を発したりしない。では、これが誰の台詞かと言えば、玄関から今まさに不法侵入しようとしている俺の幼馴染み、二ノ宮のもので相違ない。

「むむむ?不法侵入とはひどいな」

「心を読むな、心を」

 とりあえず俺は着替えることにした。妹が真っ赤な顔で

「お兄様、お召替えを……」

 と言うのと俺が二階の自室に向かって歩を進めたのはほぼ同時のことであり、

「真っ赤になっちゃってー、兄貴の裸で恥ずかしがるとか純粋ぴゅあすぎ!」

 とかほざいてた二ノ宮に

「あんま妹いじめんな」

 と制したのは階段の一段目を踏んだ時だと記憶している。

 階段を上がり、目の前のドアを開く。そしてクローゼットのノブに掛けてあったハンガーを取ろうとしたその時だった。

「おはようございます、司クン」 

 窓の方から声がした。

「おはよう神崎。何度も言うが窓から入ってくるな」

「鍵をかけない司クンが悪い」

「かけていいのか?お前屋根に取り残されるぞ」

「ダメですね、それは」

 こいつは会話を聞けばわかると思うが、すでに顔なじみである。神崎という超絶木登り大好き女子だが、木の上には登れど、下には降りられないのだ。

「で、俺は今から着替えるんだけど」

「そうみたいだねぇ」

「……」

「……?」

「出て行ってくれないか?」

「ボクは別に構わないから着替えたら?」

「俺が構うから出て行ってくれ」

 構わないの対義語は構うではない。念のため。

「しゃーないなー。分かったよ」

 神崎は階下に降りていった。

「あの木、切り倒そうかな……」

 そんな具合に呟きつつ、僕は一分弱で着替えて階段を降りた。



「お兄様、遅いですよ」

「ああ、ごめん」

 と妹に相槌をうち、ダイニングのドアを開けると、

「やっぱ朝は白飯だよなぁ」

 と丼一杯の白米を口にかっ込む二ノ宮と

「私はパンのがいいなぁ」

 と文句をたれながら茶碗の米を食む神崎が、

「お前ら……」

 メシを食っていたんだよ、俺の家で。僕の顔にはマンガみたいな怒りマーク(#←こんなの)が5つくらい浮いていたと断言していいね。

「「ごちそうさまー(でしたー)」」

「じゃ司、早く学校に来いよ」と二ノ宮。

「……?司クン、また明日」と神崎。

 この場合、二ノ宮が馬鹿で間違っている。ヤツは日曜なのに学校へのこのこ出向くらしい。

「お兄様、少し遅めですが朝ごはんにしましょうか」

 そうだな、と適当に流しつつ時計をチラ見。10時。普通に遅いな。

「ところでお兄様」

「なんだ、どうした」

「先程の二ノ宮様の分でお米が切れてしまったのですが」

 ……。あとで米代請求しよう。

「いいよ、パンで」

 とりわけ白い米に思い入れがあるわけでもないし。妹の料理は何でもおいしいし。

「では10分程お待ちください」

「ああ」


 次の瞬間、妹が包丁を持ってつっこんできた。

 包丁の描く軌道を読み、バックステップ。

「うぉっ!」

 振り下ろされた包丁がはらりと何本かの髪を切り落とした。

「お兄様……逃げちゃダメですよ」

 後ずさり。1歩、2歩、3歩下がって

「隙ありー!」

「何ですと!」

 足を払い、尻餅をついた妹の手から、すかさず包丁を抜き取る。

「あぁ……」

 落胆する妹。

「久しぶりに面白いを見たな」

 ちょっと楽しすぎだけど、と妄言を吐きつつ時計を見る。ジャストタイムだろう。

「起きろ、俺」

 視界がテーブルの上に戻る。

「あ、お兄様。できましたよ」

 だろうな。さっきのが夢じゃなきゃヤンデレにもほどがある。

 今日は久しぶりのパン食なのだが、惣菜パンや菓子パンではなく、食パンを調理したサンドだ。

「妹特製の妹サンドです★」

「露骨にネーミングが怖え!」

 そしてケチャップで『私を食べて』の文字が。ホラーだ……。

 ニコニコと俺の感想を待つ妹。食欲が削がれた。ヤンデレ、正夢だったら怖い。

 30分後。俺と妹はゆっくりと時間をかけて『特製妹サンド』を完食した。

「お兄様、食後はコーヒーとお紅茶、どちらになさいますか?」

 天遣家では食後にコーヒーか紅茶を飲む、というしきたりがある。死んだ両親がとりつけた決まりだ。

「じゃあ、コーヒーで」

「かしこまりました」

 まさかのウェイトレス妹。俺は1分でも時間が余ると寝るから、サイドテーブルの文庫本を手に取った。どうやら、剣と魔法のファンタジーらしい。

「うんしょ、うんしょ」

 妹は可愛らしい声を出しながら豆を挽いている。

「ほぉ」

 とりあえずそれらしき理由で勇者ライクな旅人が王城から旅立ったあたりで、ぽたぽたとドリップの音が聞こえてきて、1匹目の竜を倒したあたりで

「お兄様、お待たせいたしました」

 と妹特製「妹スペシャルブレンド」がキッチンからやってきた。

 銀色の盆に真っ白なマグカップがのってきて、俺はサイドテーブルに積まれた本をそこら辺の書棚に放ると、ひったくるようにマグカップを受け取り、サイドテーブルに置いた。妹もそれに倣ってか、妹のサイドテーブルに積まれた本を書棚に並べると

「ほわ!」

 となにやらキッチンに走っていく。

 そしてとたとたとなにやら円形のものを2つ持ってきた。

「コースターを忘れていました」

 てへっ、と舌を出してウインク。うーんロリ(シス)コンの人間が見たら発狂しそうなレベルの反則的な可愛さのドジっ娘(自称)。俺はそれを、

「ああ、うん」

 みたいな感じで受け流す。

 慌ただしかった妹もやっと席に着くとコーヒーにミルクを注ぎ、ちょびちょびと飲み始める。

「それになさってもお兄様」

「お前のその口調は何キャラなんだよ」

「お兄様は随分と女性のお友達が多いようですね」

「そんなことは」

 ないよ、と続ける俺だって。そんなに誰彼かまわず女友達を作っているわけじゃない。

 あの二人、二ノ宮と神崎ははっきり言って異質だ。


 夢部。学校非公認の同好会。それもそのはず、表向きは美術部として通っている。美術部としての活動はほとんど行っておらず、俺のように夢を夢と認識できる人たちのコミュニティと化している。これ、そんなに珍しいことなんですか?

「で、その人たちに女子が多いってだけなの」

 妹にはだいぶ噛み砕いて説明してやった。

「そうですか、部活の……」

 まぁ渋々納得してもらったところで、不意に昨日、

「明日、部室に来い。絶対な!」と二ノ宮に言われていたことを思い出し、

「ちょっと本屋行ってくる」

 とそれっぽい理由を告げて家を出た。

 妹は玄関まで出てきて

「いってらっしゃいませー」

 と送り出してくれたよ。見えなくなるまで手を振って。それはもうブンブンと恐ろしいくらいに。


 30分後。俺の通う御影高校まではそのくらいかかる。

「遅い!」

「ごめん二ノ宮。さっきまで忘れてた」

「いやぁ司クン。ボクも今気づいてね」

「神崎、部室に住むな」

「悪かったよ二ノ宮。後でなんかおごるから勘弁してくれ」

「まぁ、いいけど」

 二ノ宮は渋々、というより物欲が意地に勝った、といった感じか。きっと脳内では、

『おっごり♪おっごり♪つっかさのおっごりっ♪』

 といった具合に物欲妖精が狂喜乱舞しているはず。

「ではこれより、第ウン回夢部会議をはじめまーす!ぱちぱちぱちー」

 どこからかパフパフラッパが鳴り、人数にそぐわない音量の拍手が……

「ウン回って……回数覚えてないのか?」

「そーゆー司クンは覚えてるのかい?

「いや覚えてないけど」

「だろうね」

「で、今日もなんか面白い夢見た人、いる?」

「そうだねぇ……。あ、妹クンに司クンがにのみーと付き合ってるという嘘を吐く夢を見たよ」

「犯人お前か!」

「何よ司、何の犯人なの神崎が」とはににみーこと二ノ宮。

「さあ?」とは神崎。

「俺は今日、ヤンデレ妹に死ぬほど愛されて死にかける夢を見たんだ」

「え、殺される夢の間違いじゃないの?」

「は?」

 夢を他人に話すとその続きをその人が見るというが

「私は妹ちゃんがあなたの首を持ってきて『あなたが悪いんですよ……へへへ……。』と不気味に笑いながら這い寄ってくる夢を見たわ」

「うわあああああああああああ!」

 この場合、異常だ。話したら続きを見ていた(、、、、)!?怖すぎるだろ、オイ。

「神崎、リアルでは絶対妹にホラを吹き込むなよ?」

「合点承知之介」

「古ッ!?」

「で、面白い夢はこれだけ?」

「俺的には全っ然面白くない。怖すぎる」

「まあまあ司クン。所詮夢だ」

「それでも!だとしても!」

「まあ私はこれだけよ。あんたらは?」

「俺は特にないよ」

「にのみーには悪いけどこれだけだね」

「ちっ……つかえねーヤツ」

「今すげぇこと言わなかったか!?」

「別にぃー」

「で、今回で12回目だけど」

 何が、言いかけてやめた。

「3人の夢がつながった回数?」

「そうだと記憶しているよ」

「その通りよ」

 一瞬間を空けて、二ノ宮は

「おかしいと思わない?」

 と、そう言ったのだ。あの二ノ宮が。

『ガッコーにヘリ激突しないかなぁ』とか言ってたあの二ノ宮が。

 確かにおかしい。3人の夢がこうもぴったりとつながるのは普通に考えたらおかしい。だが、

「おかしいをおかしいと言わないのが、二ノ宮、お前じゃないのか?」

「うむ。にのみーがそう考えるほどには変なのだろうな」

 

 そして

「司クン、君が夢を見た時間は?」

「今朝の10時過ぎだ」

「私は昨日の夜よ」

 おかしい、つながっていない」

「ボクは……さっきだ。10時30分頃だな」

 逆……。

「逆だ。この夢は、結果から原因に巻き戻されている」

 つまり、この夢は

「「「妹 (クン)(ちゃん)視点である(んだね)(のよ)!」」」

「つまり私が妹ちゃんの夢に入ったけど」

「妹の睡眠時間の方が長かったので余りが俺に移動し……」

「それでも足りなかったからボクに移動したんだね」

「そしてタイムラグのために途中がちょっと切れてるのね、きっと」

「妹の夢を垣間見ていたと……そういうこと?」

「「そー(だね)(よ)!!」

 なんてこった。知らなくていい妹の暗黒面(ダークサイド)を知ってしまった。ドジっ娘妹ヤンデレ属性。全部解放したら『あ、お兄様ごめんなさい!ナタとチェーンソー間違えちゃった!』とかかな?おっそろしいわ!

「どうした司クン?震えているぞ?」

「いや、ちょっと今日妹と同じ家で寝るのが怖くなって」

「司クンなら泊めてあげてもいぞ」

「マジで!」

「部室に」

「だから部室に住むな」

「もちろん私は帰るぞ」

「なんでだよ!なんでこんな時だけ帰るんだよ!」

「代理でにのみーに残ってもらう」

「何故ここで私!?」

「そして……妹クンにありのままを」

「「伝えるなぁっ!!」」

 僕は今日も妹と一緒に寝ることになりそうです。(家的な意味で)

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