第七話 13人いる
激動の出会いの日。1993年3月31日から一週間。俺たちは、村立神津中学校に入学した。
進学して、学校が遠くなってしまったが、とりあえず、あの日出会った四人でつるんで通学できるのは、重畳である。
「神童くーん♡ 最近金髪っちゃんはべたべただねぇ。どういうことかちら?」
3年生になったさなえねぇは、俺たち新一年生の面倒を見るという名目で、しょっちゅう俺らのクラスに遊びにくる。大網元のお嬢であるさなえねぇは、島の学校という四角いジャングル、その閉じた生態系の頂点に立つ「百獣の王」なのだ。つまり、最上級生になった彼女を抑えられるものは何もない。これから卒業までの一年間、さなえねぇは、俺と怠惰で淫らな学校生活を送るつもりだった。
まりは、いつもの通りマイペースだが、あれはあれで凶悪なのである。誘惑されるとふらっといってしまいそうになるし、第一ぶつかると痛いんだ。あの乳。
駄菓子菓子、そんなさなえねぇ達の野望に対し、がるるるると威嚇して、俺を独占しようとする第三勢力が現れた。坂本金八、ではない。金髪っちゃんこと、橘 璃々その人である。
結局、親父との養子縁組を保留し(後見人にはなったらしい)橘姓を名乗ることにした璃々は、この一週間ばあちゃんに炊事、洗濯、掃除と、しごかれながら、俺と一緒に入学式をむかえ、新一年生13人の仲間に入った。
俺たちの世代、13人だが、特に親しい奴ばかりではない。大まかに4つの派閥がある。
まずは、俺たち、港の北側、沢尻湾の近くに住む一派。俺と、まり、そして璃々である。この集団のリーダーと目されているのが、さなえねぇなのであるが、まあ、おかげで、かなり大きな顔が出来ている。
次に、港の南側、学校近くの集落に住む比較的古くからの住人たち。最大派閥であり、半数の六人を占める。比較的行儀の良い集団で、クラス委員長を務める長澤 恵 がまとめる。主に親が役所などに勤める組がこの集団である。
他に、近年、島に住み着いたサーファーの娘が二人。それなりに要領良く、集落組にくっ付いたりもしてるので、問題はないかと思う。俺個人は避けられてるっぽいし。
問題は、最後の一組、多幸湾側から通ってきている、古くからある漁師の家の倅ども。貞夫&ヤス。
貞夫はどうやら、さなえねぇを狙っているらしく、事あるごとに俺に突っかかって来る。
こちらとしては、逝ってよし! な連中なんだが、むこうからすると、爆発しろー! と言いたいらしい。
まぁ、もてない顔だよな。あれは。最近は、まり の乳がでかくなったのを見てヤスの方がはぁはぁしてるし。
「きもいから、やー! なの!」
と、まりからも避けられる始末。あんなゆるいのに避けられるってどんだけだよ。
そうして、新たな生活がはじまって、璃々も、島の生活に慣れてきた。
あの日以来、おねしょはしていない。母親の夢も見ていない。
そのかわり、璃々は、いまだに俺の部屋に住んでいる。
そして、どこにでも、付いて来ようとする。
一度など、漁について来ようとして、船の上で、えれえれしっぱなしだった。
それ以来、漁には付いて来ないものの、それ以外の時は常にくっ付いて回っている。
夜になると、俺の布団に入ってきて「えへへ」と笑いながら、俺を抱き枕にして寝る。
俺は、毎朝腕が痺れてめを覚ますようになった。
その代わり、例の死ぬ夢は、見なくなった。
さなえねぇとまりも、その話を聞いてから、三回程泊まりにきた。
璃々を相手に、余裕を無くしたさなえねぇが夜中に怪しげな行動をしだしたので、うち、二回はばあちゃんに追い出されたが。
しかし、璃々に関しては、ばあちゃんは意外にも何も言ってはこない。
当人は、やることは、やっているので文句を言う筋合いでもないのかな?
親父と璃々のことで話したことを、ばあちゃんは俺だけに話してくれた。
親父はその後、ばあちゃんの口座に送金してきた。
その額、なんと一千万円。璃々の家と会社を清算した際に璃々のために残した金らしい。
殊勝にも、それだけしか残せなかったことを、璃々に詫びていた。
あの親父が、それだけのことを璃々に対してやっていたことに、ちょっとだけ、感動した。
そして、近いうちに、一人の協力者をこの島に寄越すと言っていた。
その人物が、俺たちに新たな決意を促すことになる。