第二話 ゴッデス ばあちゃん
「つまり……」
二人して首をすくめる。ギロリと睨む眼光が怖い!
璃々は生まれて初めて遭遇する剣呑な生き物に涙目である。
「こっちの金髪さんは、うちのドラ息子が養子に迎えるって理解でいいんだね?」
「は、はいっ!」
バカ親父からの紹介状を祖母、やえ に手渡して3分。
一緒にいるだけの神童にしても、こんな怖い祖母を見るのは久方ぶりである。
もっとも、彼女の怒りは、この場に居ない第三の人物に向けられているので怒りの余波を受ける二人にとっては、只のとばっちりなのであるが。
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神童の父、桜田 一八氏は、人生の大半を「無職、住所不定」で過ごしてきた人物である。御母堂が四十近くになって生まれた一人息子であり、当時生むにあたり、医者からは
「母体ないし、お子さんの生命は保障しかねる」
と言われながらの出産であった。彼の父、桜田 源一郎氏は、こうして産まれた子に
「一か八かの賭けに勝った! この子の強運は途轍もない!!」
と、一八と名づけられた。
しかし、その由来に反して生来の引きの弱さというか、勝負弱さがあり、大事な場面で、運を天に任せるというか、人事を尽くさず天命を待つという人物に育ってしまった。
大学受験のために島を出て、当然のように努力不足で受験失敗。そうして、仕送りをもらいながら浪人生活をしていたが、翌年の受験シーズンを迎えることなく家賃滞納でアパートを追い出され失踪。
そうして、十年後、ひょっこりと島に神童少年(当時一歳)を連れて帰ってきて、親に預け、また、どこかへ去っていった。帰島直後は本物かどうか疑われたらしいが、昔馴染みとチンチロリンをして、連戦連敗、借金の山を築いて本物だぁぁ! と認められたらしい。当然、現在まで清算はされていない。
以来、音信不通のまま、今日まできてしまったため、父といっても、神童少年は一八氏との面識もないのである。
そんな父親の死に目にも立ち会わなかった(源一郎氏は1991年海難事故で死亡)親不幸なドラ息子が十一年ぶりに連絡してきたと思えば、人の親面をした挙句、扶養家族をまた一人押し付けてきた。
御母堂からしたらキレもするというものである。
~ジョー=コッカー記す~
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「それで、お嬢さんはどうしたいんだい?」
祖母は殺意の波動を収めると、璃々に向き直り務めて優しく語りかけた。
すこし、安心した顔になった璃々は、
「既に東京の家はなくなりました。いずれは、東京に帰って生活したいですが、親も、親戚も居ない身の上です。恥を忍んでお願いします。しばらく、ここに置いてはいただけませんか?」
ここも東京都なんだけどなぁ、と突っ込みたい所ではあるが我慢。
ふむ、と祖母は考え込むと、
「まあ、いいでしょう。躾のできた、良いお答えでした。ただし、私も病み上がりの身だから、色々手助けを頼むことになると思うし、自分のことは、最低限自分で全部やってもらいますよ」
「あ、ありがとうございます。精一杯お手伝いさせていただきます」
祖母の瞳がギラリと光る。
あぁぁ、言質を盗られた! これから苦労するぞ。
しかし、うれしい誤算だ。千載一遇の機会を逃すかと、声をかけた美少女と、一緒に生活できる。
嬉しい反面、それが妹としてとなると、非常に付き合い方が難しい。
家族といえば、年長者であるじじ、ばばしか知らないのだ。面倒を見る相手、という人付き合いはしたことが無いのだ。
それに実のところ、祖母の躾は相当厳しい。
民宿をやっていたころは、半分男あさり目当てで短期アルバイトに来た茶髪ギャルのビッチ共が、二週間の雇用期間が終わると黒髪に戻し大和撫子になって家へ帰って行って、家族からお礼の手紙を受け取る、という事がほぼ毎年あったのだ。
こんな島に来る以上、ただれた「ひと夏の経験」を目的に来ているのは明白であるが、それを許さない厳格なシステムが、この祖母にはあるのだ。
中でも、恐ろしい説得力のある言葉があり、それを聞くとどんなにゆるいおつむのビッチでも、自分の人生を考えて生活を改める魔法のことばがある。曰く
「成程、あんた達は、今が盛りの花の女子高生だ。あんたらをものに出来るなら男はいくらでも出してくれるよ。しかしね、それが通じるのは、最初の一回、処女を失うまでだ。それでも、三万くらいは出す男もいるだろう。それも、二十歳まで、あとは、毎年3割の安売りが始まって25歳までに限りなくゼロになる。そのあとは、永遠に媚びて、貢いで、すり減らすだけの人生さ。年収一千万の夜の蝶なんて、余程の美人でも一生に一回経験できれば成功だけど、その後の落ちぶれたときはもう手遅れだ」
「それが嫌なら、人から求められるような接遇を身に付けるしかないよ。ここで働いて一生の宝を手に入れるか、とっとと逃げ出して、男の餌食になるか、好きにしていいよ」
祖母は、若い頃、熱海で芸者をしていたそうだ。中には、莫大な金を払って水揚げしたいと言う御大尽もいたそうだが、25すぎる頃には、若い後輩に追いやられ、居場所をなくし、島へ帰ってきて祖父と見合い結婚したそうだ。その頃の思いがあるのだろう。家で働く女の人には、厳しい節度を求めてきたのである。
大体、七月初め頃、毎年祖母のこの演説を聞くと、島も本格的な観光シーズンになる。家の宿は、健全を売りにしていたため、家族づれが多く、リピーター率も高かったが、祖父が亡くなり、祖母も体調不良では、今年は無理だろうと一月の時点で廃業を決めたわけだが、そのタイミングでの扶養家族の増加は、家計に多大なダメージを与えるだろう。
俺自身も、ずっと家賃と食費を毎月はらっている身。右も左も分からない女の子が同じように稼ぐとなれば、結構難しい環境なのだ。島暮らしというやつは。
なお、親父は、絶対仕送りとかしない。生きた証人の俺が保障する。今まで一度も無かったことを、女の子相手だからってやるとも思えないし、資金も無いはずだ。
いずれにせよ、我が家では、祖母の権力は絶対である。璃々には厳しい洗礼が待ち受けているはずだ。
さしあたって、璃々は今日のところはお客さん扱いとなり、俺が世話をするように言いつかった。
と、なると、あそこへ連れて行かねばなるまい。時刻は午後七時前十分、頃合いである。
「温泉に行こう!」
と、誘ってみる。
「え゛!?」
出会ってから一番嫌そうな顔された。
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