王子と側近
「お前、ローズと結婚しろ」
「・・・・・・は?」
彼の突拍子もない発言はいつものことだが、今回のそれはいつもと違っていた。
思わず間抜けに聞き返してしまった声に、主は眉を顰める。
「お前の耳と頭は飾りか」
「いや、聞こえましたし、言葉の意味はわかりますけど。突然何です?」
「あいつはお前と結婚できないなら、世界の果てに嫁に行くそうだ」
苦々しげにはき捨てるが、そこまで兄妹仲が良かっただろうか。
「殿下には特に問題ないのでは・・・ああ」
ローズ様が異国へ行こうと殿下は気にしない。けど、連れて行かれては困る子が彼女のすぐそばにいるのだ。
「・・・俺を売りましたね?」
「婚約者も恋人もいないんだから、問題ないだろ」
そういう問題でもない。
「お前の父親には話を通しておいた」
「・・・それはそれは」
「喜んでたぞ」
「でしょうね」
王族と縁続きになれるのだから、断るはずなどない。
「何か不満か」
「そんなの挟める余地、もうないんでしょう」
自分にこの話をする前に、周囲への根回しは既に終えているはずだ。
その用意周到さを自分の恋愛に生かせば良いのに、と横暴でいて弱気な主人にため息をついた。