姫君と王子
「お断りします」
話を最後まで聞くことなくそう言った私に、お父様が困惑した顔を見せる。
「お前も17だ。そろそろ婚約者がいてもいい頃だろう」
確かに縁談のひとつやふたつ、もっとわいてきてもおかしくないし、受け入れて婚約者がいてもおかしくない。王族ともなれば尚更だ。
おかしくはないけれど、受け入れるつもりもない。
話を切り出したのはお父様。だけど、話をもってきたのはお父様ではない。
誰に話をつければ良いかは最初から決まっている。
隣国の王子との縁談。
隣国とは言え、山ひとつ越えなくてはいけないのだから結構な距離がある。
近いようで遠い、その国を指定してきたのは何故か。
王女とは言え、現状、政略結婚をする必要はない。
国土の拡大も狙っていないし、また逆に、他国からの侵略の心配もないのだから。
「分かりました。どこにでも嫁いでさしあげますわ」
突然物分りのよい返事をし始めた私に、説得対象である人物が眉を顰める。
当然、思い通りの答えなんてあげるはずがない。
「リタと一緒ならどこへ行っても淋しくはありませんもの」
憂い顔を作りながら呟いた台詞に、案の定同席していたお兄様は反応した。
「リタを・・・?」
「リタは私の侍女ですもの。嫁ぎ先へ侍女を連れて行くのは禁止されていないと思いますが?」
侍女のひとりも伴わず嫁に来いとは相手も言い出さないだろう。
人質として嫁ぐのならまた違ってくるだろうが、今回の縁談はそういったものではない。
「勿論彼女にも選ぶ権利はあると思いますけれど、以前私の嫁ぎ先がどこであろうとずっと仕えてくれると言ってくれましたし」
兄と私を天秤にかければ、断然私の方へ傾く自信がある。
こう言えば、私を僻地へ嫁へ出そうなんて考えは捨てざるを得ないだろう。
私の意図を正確に読み取ったお兄様は、若干顔をひきつらせながら問いかける。
「・・・どこに嫁ぎたいんだ」
「そうですね。オオクト国とか」
「そこも遠いだろう」
ここから遠い国を選んでるもの。当然よ。
にっこりと笑みを浮かべて、最終目的を口にした。
「じゃあ、アルください」
「それが目的か」
自分の恋が実らないのに兄の恋だけ実らせてたまるもんですか。