表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

青空飛翔

 ここはとある世界にある組織、騎士団『レイヴン』。その名の通り、騎士を目指す者が沢山ここに居る。最初は三隊しかなかった人員も、今や十を超える数になっていた。


 「今日は何にしようかなー」


 そして、騎士しか居ないこの場に、一人浮いた少女が歩いていた。組織に居る者は皆、何時でも戦いに行ける様に鎧を着ている。なのにも関わらず、少女は洋服で目立った防具もない。桃色の髪を肩甲骨辺りで切り揃え、緑色の瞳をしていた。

 この少女、メーク・トリートはレイヴンの台所を任されていた。というのも、メークの家は注文された料理を作るという変わった飲食屋を営んでいた。それを手伝っていた彼女の腕を認めて、レイヴンに配属されたのであった。

 入って間もないメークを温かく迎え入れてくれたリーダー、この組織の皆に彼女は感謝していた。


 「……」


 「えーと、確か卵が足りなかった気がするなー」


 とにかく人が多く、メークはあまり人の名前と顔を覚えていない。しかし、弐番隊の隊員とは何かと関わりがあり、唯一覚えていると言っても過言ではなかった。

 その数少ない人が目の前に立っているのにも関わらず、メークは気付かずにメモを書いていた。


 「……メーク」


 「うわぁ! 居たんなら声かけてよ!」


 「……すまん」


 メークが見上げると、黒髪で目が前髪で隠れている青年が立っていた。彼の名前はカイス・シーグル、弐番隊に所属している騎士だ。

 メークが初めて会った弐番隊の人で、何かと話を持ちかけたりしていた。カイスは非常に無口で無愛想、無表情という無の三つ巴であった。しかし、組織の皆からは嫌われていない。多分それは、彼の人柄だと彼女は思っている。


 「……何してる?」


 「今日のお昼、何にしようかなーって。何が良い?」


 「……俺に聞くな」


 「まあ、そうだよね。カイスだけのご飯じゃないしね」


 そう言って、メークはカイスの横を通り過ぎって行った。元気良く手を振るメークに、彼は小さく手を振り返す。




 「うーん、結構重くなっちゃった。まあ、大丈夫だよね?」


 メモに書いてあった物を全て買い、メークは目の前にある袋を見て苦笑交じりに呟いた。

 そろそろ通行の邪魔になるだろう、とメークは一気に袋を持ち上げる。その時、重さに耐えきれず後ろにバランスを崩してしまった。


 「……あ、れ?」


 このままであれば、メークの背中は今頃地面にぶつかっていた筈だったが、背中に感じるのは硬い感触ではなかった。確かに硬いが、温かさが全く違った。


 「大丈夫かい? ……って、メークじゃねぇか」


 「ら、ライト!」


 重たい荷物を持ったメークを軽々押し返して、バランスを正常に戻したのはライト・タガーだった。茶色の長髪を緩く一つで束ね、髪と同じ瞳の色を持ったこの青年も弐番隊の人であった。


 「こんな重たい荷物持っちゃってさ、何してんの?」


 「お昼の買い物をちょっとね。ライトは……ナンパかな?」


 図星を突かれたのか、ライトは苦笑していた。彼と言えば、と聞かれれば即ナンパと答えるであろうくらい、飄々とした物腰が特徴的な青年であった。

 そんな姿しか見たことがないメークは、何故ライトが女性から好かれるのかがいまいち理解出来ていなかった。


 「それはそうと、何で買い物行くのに誰も連れてかねぇのかね」


 「え? いつもそうだけど?」


 「もう少し頼ったって良いんだぜ? で、他に何か買うもんとかある訳?」


 「ないよ」


 「んじゃ、早いとこ帰るとしますか」


 そう言って、さり気なくメークの荷物を全て持っていったライトを見て彼女は笑った。


 「何?」


 「そういう所が良いのかなって」


 「? 何の話だ?」


 「こっちの話」


 組織に返るまでずっと微笑みを絶やさなかったメークを見て、ライトは不思議に思いながらその顔を見ていた。

 組織の台所に荷物を全て置き、メークは早速食材を冷蔵庫に詰めることから始めた。


 「今日の昼飯は何?」


 「今日はねー、シチューだよ」


 「何だってそんなもん……」


 「たまには、『母の味』が味わえるものを出すのはどうでしょう? というルカさんの計らいですよー」


 ルカ、というのはこの組織のリーダー補佐……つまりは従者である。

 その名前を聞き、苦笑しながらライトは納得していた。メークが料理を始めると同時に、彼は台所から出て行った。

 それに気付かず、彼女は着々と料理をしていった。全員分となるとかなりの時間を有するが、一緒に作る調理班の人達と居ればその時間はあっという間に感じられた。


 「メークさん、またいらしたわよ」


 「え?」


 後はもう煮込むだけ、という所。メークを含め皆が休憩をしていた時、一人の少女に話しかけられた。何が来るのか、と思っていたら台所の扉が思い切り開いた。


 「メーク! 出来たか!?」


 そこに居たのは、一人の青年だった。キッド・ヌィーグというこれまた弐番隊の人で、金髪碧眼の元気いっぱいの青年であった。

 無造作にはねた金髪を揺らしながら、嬉しそうな顔をしてメークに近づいて来る。その時、近くに居た女性達は全員頬を赤く染めながら離れて行った。


 「あともうちょっとだよ」


 「もうちょっと、か。メークの作った飯が、早く食べたくて仕方ない。居ても立ってもいられないから、ここに来てしまった」


 「もー、食いしん坊だね。じゃあ、ボクの所に一番に来てくれたら、大盛りにしてあげる」


 「本当か!? これはもう、何が何でも行く!」


 目を輝かせながらメークと喋る光景は、飼い主と犬の様であった。

 それから一言二言話した後、キッドが戻って行く。すると、メークの周りに調理班の全員が輪を作って集まった。


 「な、何これ?」


 「メークさん、ヌィーグ様とどういう関係なの?」


 「へ?」


 気になるよね、と皆の同意を集め出した少女の話に皆が食いついてきた。何がそんなに面白いのか、と思っているとまた少女が聞いてきた。


 「メークさんが来てから、ヌィーグ様は毎日ここに来るのよ? 何かあるに決まってるわよ!」


 そう言うと黄色い声が上がり、メークは半ば放心状態でそれを聞いていた。


 「んーとさ、何か勘違いしてない? ボクとキッドは、本当に何もないよ?」


 メークがそう言うと、皆はざわざわと隣同士小声で話し始めた。彼女としては本当のことを言っているので、何故そういう反応をされるか理解出来なかった。

 内心、助けて欲しいと思っていたメークは、煮込み終わったと告げるけたたましく鳴るタイマーの音に感謝した。


 「ほらほら、シチュー出来たよ! 早く運ばなきゃ、皆さんが待ってるよ!」


 「はーい」


 渋々準備に取り掛かった皆を見て、メークは心の底から安堵した。




 今日も料理は好評で、満足しながらメークは食堂の様子を見ていた。シチューを貪る様に食べる人がちらほら、メークが来てから変わった味を堪能する様にゆっくり食べる人、様々居た。

 とにかく、皆が笑顔で料理を食べてくれることが彼女にとっては嬉しかった。


 「さ、次は晩御飯の下ごしらえでもしとこうかな」


 メークはまた、台所へと戻って行く。浮足立ったその足は、誰が見ても機嫌が良いと思える程であった。

 これが、彼女の日常。毎日作っては歩いての繰り返しだが、彼女はつまらないと思ったことは一度もなかった。寧ろ、楽しいと思っていた。

 メークは帰る途中、一番最初に来たキッドの表情を思い出して一人笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ