5.僕、そして大切な人
転んだ葵姉を拾ってから、益々ギクシャクしているような気がする。
絶対に、避けられている。
・・・僕、何かしたか?
朝もまともに顔会わせないし、学校でもあまり見かけない。
このよくわからない状況に、だんだん耐えられなくなってきた。
何となく、胃も痛いような気がする。
それでも、少しでも姿が見られたら、少しでも声が聞けたら、
そんな事を考えてしまう僕は、かなり重症なのかもしれない。
「おにいちゃん、暗い。」
「理佐・・・いきなり暗いって、酷くないか、それ?」
理佐はため息をついて、続けた。
「暗いものは、暗いの。家の中で雨降りだしそうだから、外に行くか
悩むの止めてくれない?」
そういって、携帯をいじりはじめた。
・・・カワイク無い、こいつ。
そう思いながらも、素直に従って外に出かけた。
いや、言いなりになった訳じゃない、気分転換だ。
外に出ると、日が暮れかかった。
・・・俗に言う逢魔が刻ってやつか。
西の空は、必要以上の赤と、紫から紺に見事なグラデーションを成している。
思わず良い物が見れたと、喜びかけるが、
玄関先で突っ立って眺めてるだけなのも虚しい。
これでは、本当に追い出されただけだ。
それに、この空はすぐに墨色に染まる。
とりあえず、近くのコンビニに向かった。
外からよく見える雑誌売り場の前に、見知った姿があった。
まだ家に帰ってないらしく、制服姿で立ち読みをしている。
近付いても気付かないので、声をかけた。
「お客さん、立ち読はちょっと。」
「おうっ!? 聡太か、驚かすな!」
何をそんなに読み耽っているのかと、手元を見ると1冊の雑誌。
しかも、どちらかといえば、女性向けのものだ。
「占い?」
「そっ、気にならなねーか?」
気にならないわけじゃないが、気にしない。
結果が良くても悪くても、一々踊らされるのは嫌だ。
「別に。そんなに読み込むんなら、買ったらどうだ?」
すると無言で、雑誌の裏を示した。
「840円だな。」
「気にはなるが、出すには惜しい、よって立ち読み。You understand ?」
「はいはい。せいぜい頑張ってください。」
アップルティーのソーダを買い、店を出ようとしたら、航が追いかけてきた。
「待て待て、俺も行く。」
「占いはもういいのか?」
「立ち読みだけじゃ、ないんだぜ。」
と、オレンジジュースの入った袋をかざした。
店を出て、ブラブラと歩く。
まだ帰る気になれないので、公園の方に足を向けた。
当然のように、航は横に並ぶ。
側に港があり、風向きによっては、潮の香りがする。
立ち木で普通の船は見えないが、汽笛の音が響き、馬鹿でかい豪華客船なら
ここからでも見える。
昔はよく遊んだが、今日は久しぶりに来た。
外灯の下のベンチを陣取り、ペットボトルの蓋を開ける。
炭酸特有の、プシュッという小気味良い音が響く。
「・・・お前の買う物は、時々わかんねーな。うまいのか、それ?」
「知らん、今日初めて見た。気になるから買ってみた。」
一口、口をつけたが、これは、
「外れかな・・・。」
航は声を殺し、肩を揺らして笑っている。
「笑うなら、堂々と笑え、余計に気になる。で、お前は何でオレンジジュースなんだ?」
「えー、ビタミンの補給? 果汁100%だし。」
「・・・そっか。」
その答えに脱力しつつ、本題に入る。
「で、何か用か?」
「ん?」
「立ち読み切り上げてまで、ついてきたじゃないか?」
「あー、まぁ聞きたい事はある。」
少し真面目な顔をして、大声を出した。
「聡太!」
「・・・な、突然何だ?」
「・・・お前、ねーちゃんと喧嘩でもしてんのか?」
予想通り。
今、真面目な顔で話す事は、それくらいしかないよな・・・
「喧嘩なんかした覚えはない。」
「正直、ねーちゃんの機嫌が悪くて困ってんだ。なんつーか、八つ当たり?」
・・・弟の宿命だろうな、それは。
同情の念を抱きながらも、困っているのはこちらも同じ。
「何故か、避けられてるみたいなんだが、僕には理由が分からない。」
「気付いてないだけで、何かしたんじゃないのか?」
「怒らせるような事、した覚えなんか無いよ。」
「まったく、仲直りしてくれよ? 間にいるオレがきついんだ。」
・・・本当に、理由があるなら教えて欲しい。
昼休み、相変わらず答えの出ない問題について考えるため、図書館に向かった。
入ってすぐ、葵姉の姿が目に入った。
本棚に近い席で、頬杖をつき、何かの本を難しい顔して捲っている。
機嫌が悪そうな気がするが、そんな事は構っていられない。
迷わずに近付く。
本に影が出来たせいか、葵姉はすぐに顔を上げた。
目が合い、一瞬の沈黙。
そして逃げ出そうとした彼女の手を捕まえた。
「何で逃げるの?」
「・・・えーっと、何でだろう?」
「何で避けてるの? 僕何かした?」
「・・・・・・。」
「理由が分からなくて、もうずっとイライラしてんだ、教えてよ・・・葵姉。」
今にも泣き出しそうな顔で、しばらく黙っていたが、一度目を閉じ
再び目を開けると、まっすぐ僕を見据えてこう言った。
「言いたい事、・・・全部整理してくるから、時間頂戴。」
「・・・葵姉?」
「私も、モヤモヤして嫌だったの・・・あぁもう、私らしくない!
明日は土曜だから、港の公園で・・・そうね、10時?
一晩でまとめて来るから、覚悟してなさい!」
そう言い放つと、掴んでいた僕の手を振り払い、本を棚に戻して図書館から出て行った。
・・・僕は、何の覚悟をすればいいんだ?
翌朝、仕度をして出かけようとすると、妹に声をかけられた。
「あれ、何処行くの?」
「ちょっと出かける。」
「それ、質問に答えてないし・・・」
なんで、こいつはいつも携帯握り締めてんだ?
どうでもいい疑問を抱きつつ、適当に返すと、
「私も・・・友達と買い物行くんだけど、途中まで一緒に行かない?」
「行かない。方向違うし、公園に行くだけだから。」
「へー、港のとこ? 気をつけてね~」
誘ってきたくせに、あっさりと送り出された。
何か複雑な気分だ。
公園に着くと、葵姉は既に来ていた。
腕を組んで目を閉じ、何かを考えているようだ。
「5分前に着くように来たのに、葵姉早いね。」
「え、も・・・もう来たの!?」
なんだか慌ててる?
「もう、まだ早いじゃない、何で来たのよ!?」
「何でって、呼ばれたから。
そんな事で怒られてもな、待たせても悪いし、早く来たんだけど?」
葵姉は顔を赤らめ、ばつが悪そうに黙り込んだ。
「で、何の覚悟をしたらいいのか分かんなかったんだけど、
・・・歯を食いしばって、しっかり立ってろ・・・とか?」
「ぶっ、何それ、いつの時代よ?」
「あれ? 僕怒られるのかと思ってたんだけど?」
「何で?」
「さぁ、僕に思い当たるふしは無いんだけど。」
「・・・私、怒ってないし」
葵姉は、憮然として顔を背けた。
僕は少し安堵し、
「じゃあ、何で避けてたの?」
やっぱり分からない理由の正解を・・・彼女に促した。
「・・・恥ずかしかったの。」
消え入りそうな声が、耳に届いた。
「え、足踏み外したのそんなにショックだった? 僕見ちゃいけないもの見ちゃった?」
「そっちじゃない!」
「じゃあ何!?」
いい加減僕も焦れてきて、声に険しいものが混じった。
再び消え入りそうな声だった。
「・・・いつの間に、そんなに大きくなってんのよ。」
予想もしてない言葉に、僕は困惑した。
「は? そりゃあ時間は過ぎてくもんだし、ずっとちっちゃいまんまって人は・・・」
「あぁ、もう!」
僕の困惑からくる正論を、途中で切り、ズカズカと近付いてくる。
「って、やっぱり怒ってる?」
「怒ってない!!」
言葉とは裏腹な表情で、近付いて来る。
止まらない。
殴られる? と、思わず目を瞑ると、温かく柔らかいものに包まれた。
「葵姉?」
驚いて目を開けると、首に手を回して抱きつかれていた。
・・・やっぱり理由が分からない。
彼女の温かさ、柔らかさ、甘い香りに、益々混乱する。
思わず抱き返したくなる両手を堪え、聞いた。
「・・・えーと、質問して良いかな?」
「うん。」
彼女は少し頷いて答えた。耳に当たる髪の毛が、少しくすぐったい。
「・・・今、抱きついてるよね?」
「うん。」
返事は肯定だけ。
「・・・あのさ、僕ドキドキするんだけど?」
「・・・うん、私も。」
同意の意思を示す。
「・・・何で抱きついてるの?」
首に回された手に、力が入った。
「・・・ばか。」
「・・・えーと。」
やっぱり、明確な答えは返って来ない。
「・・・察してよ、ばか。」
同じくらいの身長の僕には、真横にある彼女の顔を窺い知る事は出来ない。
でも、きっと・・・
僕はゆっくりと彼女の背に手を回し、力を込めた。
「これで正解?」
「・・・うん。」
「ところで、さっきから『うん』とか、『バカ』とかしか言ってない気がするけど・・・
言いたい事、纏めて来たんじゃないの?」
僕は耳元で囁いてみた。
「・・・もう、意地悪ね。」
「そう? さぁどうぞ。」
とぼけて彼女を促す。
「・・・好き。多分ずっと前から。」
「うん、僕も。」
「ズルイ、」
思わず、肩から顔を離して講義した瞬間、
キスをした。
唇が離れ、真っ赤になった彼女に、
「僕も、ずっと前か
まずは、読んでいただきあありがとうございます。
初めて書いたくせに、次への布石や、裏で動く人物、
また進路が未解決だったりと、色々あるんですが・・・
この世界で、他のお話を進めようと思っております。
必ずしも、この二人が主役ってわけではありませんが、
お付き合い頂ける方は、今後とも宜しくお願いいたします。




