2.知りたい事、知りたくない事
まったく聡太は偉いな~、航なんかを毎日迎えに来てて。文句言いながらも
見捨てないでいてくれるし、本当に良い子なんだよね~
今朝の事を思い出しながら、物思いに耽っていたらしい。
「葵、どしたのさっきからニヤニヤして、気持ち悪いよ?」
と、美晴に笑われてしまった。
・・・にやけてた?
あー恥ずかしい!
「なんかいい事でもあった? 聡太くんにでも告白されたか?」
「はぁっ???」、
・・・何故ここで、聡太の名前が出てくる!?
「まぁいいや、ところで進路・・・」
「良くないっ!!」
思わず大声で叫んでしまった。
注目を集め、赤面しながらも、疑問を晴らそうとした。
「何で聡太の名前が出てくるの?」
「あれ?気付いてない?」
ますます、頭の中が疑問符で埋まる。
「・・・えーと、聡太に告られる事は、良い事なの?」
「あーらあら、天然さん? 葵、聡太くんの話してる時楽しそうじゃん」
私は、楽しそうにしてるのか?
「その様子じゃ当然知らないだろうけど、彼の株上がってるよ~」
「へ?」
「入試の成績かなり良かったらしいし、見た目も可愛らしいしさ、冷めてるっつーか
ちょっと大人びた雰囲気あるじゃん?それで同級から年上まで、満遍なく狙ってる子
いるらしいよ~」
「・・・誰が? 聡太が???」
何それ?・・・っていうか何で動揺してるの、私。
「幼馴染って安心してると、誰かに持ってかれちゃうよ~」
黙り込んだ私の様子に、満足げに笑うと、
「で、本題なんだけどさ、進路どうすんの?」
そういっていた気がするけど、自分の思考の中に入ってしまった私には、さっぱり届かず、
授業に来た先生の声がかかるまで、ぐるぐると考えていた。
放課後、今朝の事はとりあえず置いておき、音楽室で頑張っている吹奏楽部の友達の所に
邪魔しに行く事にした。
先生が来るまでの時間に、楽器を吹かせてもらうのが楽しくて、よく邪魔しに行く。
音が出たり出なかったり、友達とふざけあって、結構至福の時間である。
「あ、為井くんだ。」
誰かの声がした。
今年入部の1年生を中心に、空気がざわついた。
窓から校庭を見ると、確かに聡太の背中が見えた。
ついでに航と、彼女の朋ちゃんもいた。
もう帰るらしく、校門の方へ向かって歩いている。
この急に沸き立った空気に、正直驚いた。
・・・美晴が言ってた事は本当だったんだ。
「安田~練習はじめるから、部外者は出てけ~」
ポンと丸めた楽譜で、頭を小突かれた。
ゆっくり首を巡らせ、憮然とした表情で顧問の先生を睨んでやった。
「お前、毎日のように、ここ遊びに来るくらいなら、入部すれば?」
もう何度も聞いた台詞を、また先生は口にする。
「それとこれとは別なんです。」
荷物を乱暴に抱え、
じゃ、また明日~と、友人達に手を振り音楽室を後にした。
吹奏楽部は毎年、野球部の県大会予選の応援に借り出される。
今年度も、既に練習を始めていた。
階段を下りながら、
「暑いのはご免なんですよ~」
と、ぼそっと一人呟いた。
他に用事もないし…帰ろう。
下駄箱の自分の靴の下。
ちょうど隠れるくらいの封筒が1枚置いてあった。
「何だ?」
興味本位と、面倒事を厭う気持ち半分で開けてみると、折りたたんだ便箋が1枚。
・・・えーと、読めないって。
ミミズがのたくったようなとは、こういう字の事を言うのだろう。
小学生でも、もっときれいな字が書けるんじゃないの? ってほど酷い文字の羅列。
とりあえず、何が書いてあるのか分からない事には、手の打ちようもない。
テストの時、先生はどうしてるんだろう?
他人事ながら、先生達に同情しつつ、
とりあえず持って帰って、解読してみる事にした。
「ねーちゃん、何してんの?」
夜、リビングのソファで謎の怪文書とにらめっこをしていると、
風呂上りの航が、麦茶片手に声をかけてきた。
「これ。」
ピラッとその紙切れを渡した。
お手上げである。断片的に読める平仮名はあるが、ひん曲がった漢字は『字』と認めたくない。
滅びた文明の、文字の解読もこんな苦労だったんだろうな。疲労のせいか考えている事が
ひどいと、自分でも思うが、
止めない。
紙切れを眺めていた航が
「どうすんの、これ? 西山隆志って3年だったよな?」
「はぁ???」
・・・今日はよく驚く日だ。
「あんた読めるのこれ?」
「確かに汚い字だけど、・・・ねーちゃんは読めないのか?」
「まったく、ぜんぜん! 古代文字の解読ってくらい?」
航は、盛大にため息を一つつくと、読み上げはじめた。
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安田 葵様
明日の放課後、2号棟の裏で待ってます。
来るまで待ってます。
西山 隆志
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「・・・だってさ。」
「へ~あんた、特技よそれ、何でそんな字読めるのよ?」
思わず、感心してしまった私に、あきれた表情を向ける航。
「それはいいから、どうするか考えてやれよ~」
「えーっと、西山って誰だっけ?」
残っていた麦茶を一気に飲み干すと、
付き合ってられないとばかりに、自室に戻りかけた航を呼び止める。
「航! ・・・今日美晴が言ってたんだけど。・・・聡太って、モテんの?」
「はぁ? 突然何だよ?」
「いーから、質問に答えろ。」
私の気迫に負け、憮然としながらも口を開いた。
「あーんと、小5くらいから、キャーキャー騒がれるようになったかな?
そのくらいから成績もトップになりだして、俺みたく、バカな事しなくなって
・・・少し雰囲気変わったんだよな、まぁ聡太は聡太だけどさ
もちろん、今も大人気だぞ、本当腹が立つほど。」
・・・へー、そうなんだ。
弟のような彼の、そんな変化に驚いた。
その夜、夢を見た。
学校に行く仕度を済ませた頃、玄関のチャイムが鳴る。
弾む心をおさえ、急いで靴を履き、玄関から出ると、
そこに思う姿は無く・・・ただ白い世界が広がっていた。




