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謎解きになると先に行く美人の相棒が、次は「謎解きじゃなくても会いたい」と言ってきた

作者: 黒咲かぐら
掲載日:2026/10/20

「あっ、この模様、入口にもありましたよね!」


 開始の合図から、まだ十秒も経っていなかった。

 隣の女性が問題用紙から顔を上げ、会場の入口へ向かう。

 ついさっきまで、丁寧に挨拶をしていた人だ。


 俺は彼女の背中と、手元の用紙を見比べた。


「待って。こっちにも同じのがある」


 声をかけると、彼女はすぐに戻ってきた。


「どこですか?」

「ここ。時刻表の横」


 長い髪が肩から滑り、彼女が用紙をのぞき込む。

 近い。

 俺が少し体を引いたところで、彼女は目を輝かせた。


「本当だ。じゃあ、両方見たほうがよさそうですね」


 今日の相棒は、どうやらよく動く人らしい。


     *


 藤野航、二十三歳。

 平日はメーカーで働き、週末には時々、謎解きイベントへ行く。


 職場で目立つほうではない。飲み会でも、気づけば誰かの話を聞いている。

 ただ、一人で遊びに行くのは苦にならなかった。

 気になる企画を選び、知らない会場を訪れ、帰りに好きなものを食べる。その休日は、結構気に入っている。


 今回申し込んだのは、列車を題材にした室内探索型の謎解きだった。

 二人一組だが、一人参加の枠もある。受付で参加費を払い、同じ枠で来た人と組ませてもらった。


「相原莉央です。よろしくお願いします」

「藤野航です。こちらこそ」


 肩より少し長い髪に、明るい色のカーディガン。

 きれいな人だ、と思った。

 彼女は案内された机にバッグを置き、会場を見回す。壁に貼られた架空の路線図や、古びた切符の看板を見つけるたび、少し口元が緩んだ。


「この企画、ずっと気になってたんです」

「俺もです。二人だと違う問題が出るって書いてあったので」

「そう! そこ、面白そうですよね」


 話が通じるのが嬉しかった。

 とはいえ、初対面だ。俺はまだ、どのくらい話していいか探っていた。


 スタッフの説明を聞く。

 探索するのは、目印のついた掲示と机だけ。走らず、ほかのチームが調べている場所では順番を待つ。

 制限時間は六十分。


 そして開始の合図が鳴った途端、相原さんの雰囲気が変わったのだった。


     *


 入口の掲示には、時刻表の一部があった。

 同じ模様のついた用紙と照合すると、欠けていた一行が埋まる。


「写真、撮っていい場所でしたよね」

「確認用なら。投稿はだめって」

「じゃあ、机で見られるように撮ってきます」


 相原さんが記録しているあいだ、俺は用紙の指示を読んだ。


『発車が早い順に、駅名の読みの最初の一文字をたどれ』


 ふりがなのついた四つの駅名と、ばらばらの時刻。

 石野(いしの)が九時五分、林田(りんだ)が九時二十分、群野(ぐんの)が九時三十五分、千代(ちよ)が九時五十分。


 戻ってきた彼女の画像で時刻を確かめ、順に並べる。


「い、り、ぐ、ち……」

「入口!」


 相原さんが俺を見る。

 俺も頷いた。


「さっきの掲示、裏にも模様がありました」

「今度は裏か」


 二人で入口の掲示へ戻る。

 スタッフが示した探索用の看板を裏返すと、合言葉が書かれていた。

 受付へ伝えに行くと、次の問題の入った封筒を渡された。


「よし」


 彼女が小さく拳を握った。

 俺まで嬉しくなった。


 次の問題では、俺が止まった。

 切符のような紙に文字が並び、ところどころに小さな穴が開いている。並べ替えても、途中から意味が通らない。

 もう一度向きを変えようとすると、相原さんが指を伸ばした。


「文字じゃなくて、空いてるところを見るのは?」

「空いてるところ?」

「ほら、この隙間。ちょっと窓っぽくないですか」


 俺は封筒から取り出した紙を重ねた。

 切符の小さな穴から、別の文字が見える。


「……そっちか」


 今度は、はっきりした言葉になった。

 俺が同じところを読み直しているあいだ、彼女は全然違うものを見ていた。


「助かりました」

「さっきは藤野さんが並べてくれたので。今度は私」


 そう言って笑う顔が、妙に印象に残った。


 彼女は何かを見つけると、すぐに動いた。

 でも、俺が呼べば戻る。解けたらこちらを見て、俺が頷くのを待ってから次へ進む。


 一度、違う絵を手がかりだと思い込んだ。


「これ、さっきと同じ鳥だ!」

「羽の向き、違わない?」

「え」


 彼女は紙を持って戻り、自分で二つを見比べた。


「違った。こっちは魚くわえてる」

「そっちは鳥で合ってたんだ」

「そこまで疑わないでください」


 言い返されて、俺は笑った。

 相原さんも笑い、正しい絵を探し直す。


 受付での挨拶より、こうして話すほうがずっと楽だった。


 途中、ほかのチームが掲示を見終わるのを待ちながら、仕事の話になった。

 彼女も別の会社で働いているという。


「社会人になってから、休みの予定を立てるの、前より真剣になりました」

「分かります。二日しかないので」

「私、二十三なんですけど、まだ日曜の夜に慣れなくて」

「俺も二十三です」


 相原さんが、俺を見た。


「同い年なんだ」

「うん」


 自然に返事が短くなった。

 順番が来て掲示の前へ進むころには、彼女も「こっち、見て」と言うようになっていた。


 最後の五分は、二人ともよく喋った。

 彼女が拾った情報を俺が書き留め、俺が迷った条件を彼女が確かめる。

 残り一分で、ようやく最後の答えを出した。


「正解です。クリア、おめでとうございます」


 スタッフの声を聞いた瞬間、隣で息が抜けた。


「間に合った……!」

「本当にぎりぎり」


 彼女がこちらに手を上げた。

 俺も反射的に手を上げ、軽く合わせた。

 ぱちん、と音がした。


 解説が終わり、問題用紙を片づけると、急に話す理由が減った気がした。

 さっきまで、あんなに言葉が出ていたのに。


 入口近くの撮影用ボードには、『脱出成功』と書いてあった。

 相原さんがスマホを取り出す。


「参加した記録、SNSに載せたりする?」

「時々。写真と、楽しかったっていうくらいだけど」

「私も。インスタ?」

「うん」

「よかったらフォローしていい?」


 俺は自分のアカウントを開いた。

 謎解きの参加記録と、帰りに食べたもの。投稿は月に数回しかない。

 彼女は画面を見て、「このパン、おいしそう」と言った。


 相原さんのほうにも、同じような記録が並んでいた。

 見覚えのある企画も、俺が行きそびれた企画もある。


「これ、行ったんだ」

「うん。面白かったよ。次にやるのがあったら、おすすめ」


 相互にフォローして、撮影を済ませた。

 問題や答えの写らない、記念ボードだけの写真だ。


「今日はありがとう。楽しかった」

「俺も。相原さんと組めてよかった」


 彼女が笑った。


「私も」


 駅で違う方向の電車に乗った。

 帰り道、俺は今日のことを思い出して、何度か笑いそうになった。


     *


 その夜に載せた写真へ、彼女から反応が来た。


『残り一分、危なかったね』


 俺も彼女の投稿に、楽しかったと返した。

 それから数日は、時々写真へ反応するくらいだった。


 翌週、仕事帰りにスマホを見ると、企画の紹介ページが送られていた。


『これ行く?』


 翌週末に始まる新しい謎解き。

 俺も、受付でもらった案内を見て気になっていた。


『行こうと思ってる』

『じゃあ、また一緒に組みたい』


 駅のホームで、その文章をもう一度読んだ。


 前は、受付が決めた相手だった。

 今度は彼女が、俺を選んでくれている。


『俺も一緒にやりたい。土曜の午後は?』


 彼女が時間枠を調べ、俺が空席を確認した。

 ペアの申し込みを済ませ、互いの参加費を精算する。

 次の予定が決まると、普段は少し長い金曜の午後まで、楽しみの手前になった。


     *


「藤野くん!」


 二週間ぶりに会った彼女は、俺を見つけると手を振った。

 前より短い挨拶をして、二人で受付へ向かう。

 今度は最初から、同じ机に案内された。


 また、開始と同時に彼女の目が変わった。

 用紙に描かれた星と、壁の飾りを見比べる。


「あそこ、何かありそう」


 彼女が向かったあと、俺は机の端の小さな札に気づいた。


「相原さん、こっちも何かある」

「待って、今行く!」


 すぐに戻ってきて、俺の指す文字を読む。


「これ、壁の絵とつながってるかも」

「俺もそう思う。先にこっち確かめない?」

「うん」


 一緒に札を読み、彼女が見つけた飾りと照合する。

 思っていた方向ではなかったけれど、次の手がかりが見つかった。


 俺が考え込んだとき、彼女は先へ行かなかった。


「どこが引っかかってる?」

「この矢印。順番だと思って並べたんだけど、変になる」

「向きのほうかな。どこで変になった?」


 まだまとまっていない考えを話す。

 彼女は用紙を指でたどり、「そこなら、こっちの図も見よう」と言った。


 正解を確かめてからでなくても、話していい。

 言ってみると、彼女の考えも返ってくる。

 一人で詰まっていた場所が、二人で迷う場所になった。それは、案外楽しかった。


 今度は少し余裕を残してクリアした。

 会場を出ると、彼女が腹に手を当てた。


「お腹すいた。何か食べて帰らない?」

「俺もすいた。何がいい?」


 近くの店を調べ、二人で定食屋に入った。

 注文を待ちながら、さっきの謎の話をする。

 最後に彼女が急に答えを見つけた理由を聞くと、別の問題用紙の模様を覚えていたという。


「私、見たことある形だと、すぐ気になっちゃう」

「よく覚えてるよね」

「覚えてたのは形だけで、何の問題だったかは忘れたけど」


 そういうところもあるのか、と笑った。


 料理が来ると、話は食べ物に変わった。

 彼女は添えてあった辛いソースを迷わず使い、俺は少しつけただけで水を飲んだ。


「辛いの、苦手?」

「好きなんだけど、得意じゃない」

「ああ、分かる。好きと得意、別だもんね」


 彼女はソースを自分の皿のほうへ寄せた。


「次は別の店にしよ。ここも、おいしいけど」

「駅の向こうに、オムライスのおいしい店があるよ」

「いいね。私、辛いものだけで生きてるわけじゃないから」

「そうなの?」

「そうだよ」


 少し睨むような顔をして、彼女は笑った。

 謎を見つけたときとは違う、ゆっくりした笑い方だった。


 仕事の話もした。

 週明けの会議でうまく説明できなかったことを話すと、彼女は自分も質問されると答えを急いでしまうと言った。


「さっきみたいに聞いてもらえると、話しやすい」


 俺が言うと、彼女は箸を止めた。


「私、急かしてない?」

「謎を見つけたら、ちょっと速いけど」

「あ、それはごめん」

「でも、俺の話も聞いてくれるから」


 彼女は目を伏せて、少し笑った。


「気になるんだよ。藤野くんがどこ見てるのか」


 俺も同じだった。

 彼女が次に何を見つけるのか、何で笑うのか。

 用紙がなくなっても、まだ知りたかった。


 店を出たところで、彼女が言った。


「相原さんって、ちょっと仕事みたいだね。同い年だし、莉央でいいよ」

「じゃあ、俺も航で」

「うん。航」


 名前を呼ばれると、思ったより嬉しかった。

 俺も「莉央」と呼んでみた。

 彼女は、その一回で振り返ってくれた。


     *


 次の企画を送ったのは、俺からだった。


『これ、行きたいんだけど。一緒にどう?』


 莉央は、しばらくしてから返してきた。


『私も気になってた! 行こう』


 それからは、イベントの予定以外にもメッセージが来るようになった。

 昼飯の写真に、俺が反応する。帰りに買ったパンを送ると、彼女が店の場所を聞く。

 俺が勧めた店へ行った日には、『ここの卵サンド、おいしかった』と届いた。


 莉央が買った新しい靴の写真も来た。

 長く歩けそうだから、という説明を見て、次のイベントのためかと思った。


『次は室内だから、そんなに歩かないかも』

『知ってる。普通に出かける日にも履くから』


 当たり前の返事だった。

 彼女には、俺の知らない休日もある。


 その休日に、一緒に出かけてみたいと思った。

 オムライスの店も気になっている。ただ、次の企画ではなく食事だけに誘う文章は、何度か書いて消した。


 莉央からの返信は、仕事中には来ないこともある。俺も帰ってから返す日がある。

 それでも、会ったときには前に話したことの続きを聞けた。


 二週間後、三回目のイベントへ行った。


 その日は、最後の問題を解けなかった。


 残り十分の時点では、いけそうだった。

 手がかりはそろい、俺が並べた記号も、莉央が見つけた図と合っていた。

 ところが、最後に出てきた言葉が意味をなさない。


「逆から読んでみる?」

「それだと、ここが合わない」

「じゃあ、この記号が別の意味かな」


 何度も用紙を見直す。

 俺が考えた順番と、莉央が考えた位置を、一つずつ試した。


 ひらめきそうで、ひらめかない。

 残り一分の案内が聞こえた。


 俺は時計を見て、また紙へ戻った。

 最後まで考えたかった。

 隣で、莉央も新しい並べ方を試している。


 終了の合図が鳴った。


「……だめだった」


 莉央が鉛筆を置いた。

 俺も椅子の背にもたれた。


「あと一個だったのに」

「うん。悔しい」


 解説を聞くと、最初の並べ方に思い込みがあった。

 矢印の示す順番は、二人とも逆に取っていた。

 気づいてから紙を見直すと、最初から指示は書かれている。


「こっちからだったか……」

「先にここ読んだのにね」


 莉央が俺を見る。

 情けないというより、信じられない、という顔だった。

 俺も多分、同じ顔をしていた。


 二人で笑ったあと、もう一度正しい順に並べた。

 ようやく、答えが読めた。


「今なら、すぐできるのに」

「来る前の俺に教えたい」

「ネタバレ禁止です」


 俺が笑うと、彼女も笑った。


 会場を出て、駅へ向かって歩いた。

 今日は成功のボードで撮った写真がない。それでも、莉央と話している時間が終わるのは惜しかった。


「最後の、もう一回やりたかったな」

「二人とも答え知ってるけど」

「じゃあ、別の難しいやつ」


 彼女はスマホを出しかけ、やめた。

 歩道の端に寄って、俺を見る。


「次、なんだけど」


 俺も足を止めた。

 また面白そうな企画を見つけたのかと思った。


 莉央はバッグの持ち手を握り直した。

 手がかりを見つけたときには、あんなに迷わないのに。


「謎解きじゃない日も、一緒にいたいんだけど」


 車の走る音が、急に遠くなった気がした。


「……食事とか?」

「うん。食事とか、普通に歩いたりとか」


 彼女が俺を見る。

 期待しているような、困っているような顔だった。


 俺が書いては消した誘いも、同じことだった。


「俺も誘おうと思ってた。前に話したオムライスの店、来週どう?」


 莉央の目が少し大きくなった。


「行きたい」


 すぐに答えてから、彼女はもう一度聞いた。


「それ、デートって思っていい?」


 今までみたいに、企画の予定だけを決める話ではない。

 俺は顔が熱くなるのを感じながら、頷いた。


「うん。俺はそのつもり」


 莉央が笑った。

 ほっとしたように、肩の力が抜ける。


「よかった。謎がないと退屈って言われたら、どうしようかと思った」

「俺、そんなこと言う?」

「言わないと思ったけど。聞くのは緊張するんだよ」


 俺も、それで送れなかった。

 声に出すと短いのに、勇気のいる言葉だった。


 店の場所と時間を決めて、駅へ向かう。

 今度の約束には、クリアする目標も、制限時間もなかった。


     *


 翌週、莉央は待ち合わせ場所に先に来ていた。

 いつものスニーカーに、淡い色のスカート。

 俺を見つけると手を上げ、少しだけこちらを見直した。


「今日、シャツなんだ」

「うん」

「いいね。似合ってる」


 言われて、自分の襟元に触れた。

 普段の休日は、だいたい同じような服を着ている。

 今日は鏡の前で、いつもより長く迷った。


「莉央も。今日の服、いいね」


 思ったことをそのまま言うと、彼女は少し照れたように笑った。


「今日は、掲示板を探し回らなくていいから」


 店まで歩く途中、彼女が足を止めた。

 小さな雑貨屋の窓に、鳥の形の皿が並んでいた。


「見て。これ、ちょっと困ってる顔してる」


 尖ったくちばしの横に、小さな目がついている。

 確かに、何か言いたそうだった。


「一番右の、怒ってない?」

「本当だ。隣のやつに何かされたのかな」


 二人で並んで、皿の顔を眺めた。

 何かを解くためではなく、ただ面白かった。


 オムライスの店では、莉央が料理の来る前にスマホを伏せた。


「今日は、次の企画を調べないようにしようと思って」

「別に調べてもいいけど」

「うん。でも、航と話したいから」


 俺もスマホをしまった。


 彼女は店のソースを気に入り、家でも似たものを作れるだろうかと話した。

 俺が作るのは、焼くか炒めるかで済む料理ばかりだ。


「私も、そんなに凝ったのは作らないよ。休日に一回頑張ったら、次の日は残ったの食べる」

「分かる。二日目のほうが楽」

「そう。おいしいし、楽」


 休みの日の朝、何時に起きるか。

 買い物へ行くと、予定にないものを買ってしまうか。

 そんな話をして、料理を食べ終えた。


 店を出たあと、俺が近くの古本屋を見たいと言うと、莉央は「行こう」と答えた。

 彼女が雑貨屋で迷ったように、俺も本棚の前で立ち止まる。

 昔読んだ本を見つけて話すと、莉央は表紙をのぞき込んだ。


 知らない本でも、聞いてくれた。

 彼女が気になった本は、俺が知らないものだった。


 謎解きのときとは違う面白さがあった。

 俺の知らない莉央が、少しずつ増えていく。


 夕方になって、駅の近くまで戻った。

 ずいぶん歩いたなと思い、彼女の靴を見た。


「その靴、歩きやすい?」

「うん。買ってよかった」


 莉央は足元を見てから、俺を見た。


「この前、写真送ったとき、次のイベントのためだと思ってたでしょ」

「思ってた」

「また、食事とか誘ってくれたらいいなって思ってたんだよ」


 俺は返事に詰まった。

 そんな前から。


「……じゃあ、もっと早く誘えばよかった」

「でも、誘ってくれて嬉しかった。今日、楽しかったし」


 莉央は少し笑い、付け足した。


「次もあると、もっといいけど」


 俺はスマホを取り出した。


「いつ空いてる?」


 彼女も予定を開いた。


     *


 二度目のデートは、莉央が気になっていた街へ行った。

 見たい店があるというので、俺もそこで食べてみたいものを調べた。


 昼を食べ、店を見て、川沿いの道を歩く。

 風が強くなったところで、莉央が髪を耳にかけた。


「こっち歩こう。風、ちょっと弱そう」


 建物の陰になる道を指す。

 俺もそちらへ曲がった。


 彼女は気になるものがあると、今も先に動く。

 でも、こちらを見てくれる。

 俺も見たいものがあれば呼ぶ。その声に、莉央は戻ってくる。


 そろそろ駅へ戻ろうかというころ、俺は歩く速度を緩めた。

 川沿いには、少し離れて何人かが歩いている。

 莉央が、俺を見た。


「どうしたの?」


 俺は立ち止まった。


「莉央といると楽しい」


 彼女も足を止める。

 俺は、次の言葉を続けた。


「謎を解いてるときだけじゃなくて。好きだから、付き合ってほしい」


 莉央の目が、まっすぐ俺に向いた。

 少しのあいだ何も言わず、それから笑った。


「うん。私も好き」


 握りしめていた拳の力が抜けた。

 彼女は一歩近づく。


「何か見つけたとき、最初に航に言いたくなるんだよね。航は別のことに気づいてたりするし、すぐ分からなくても、一緒に考えてくれるから」


 彼女は、少し考えた。


「あと、普通の話でも。どう思ったか聞きたくなる」


 俺も同じだった。

 彼女なら何を言うだろうと思って、日常の出来事まで覚えておくようになっていた。


「だから、これからも会いたい。デートで」

「うん」


 俺が頷くと、莉央は小さく息を吐いた。


「よかった。今日も、帰りに次の予定だけ決めて終わったら、どうしようかと思ってた」

「それは、俺も」

「航も?」

「言うタイミング、ずっと考えてた」


 彼女が笑った。

 俺も笑った。


 駅へ戻るとき、俺から手を差し出した。

 莉央はその手を見て、嬉しそうに取ってくれた。


     *


「航、こっち!」


 付き合い始めてからも、莉央は手がかりを見つけるとよく動いた。

 次に参加したイベントでも、壁の掲示を指して俺を呼ぶ。


 俺は用紙の端を見て、彼女に声を返した。


「こっちにもある。先に一緒に見よう」

「え、どこ?」


 莉央が戻ってきた。

 二人で机に寄り、紙をのぞき込む。

 今度は、近くても体を引かなかった。


 解説を聞き終えて会場を出ると、莉央は自分のスマホを開いた。


「夜、さっきの店と、もう一個見つけた店、どっちがいい?」

「もう一個って?」


 彼女が画面を見せる。

 俺も気になっていた店だった。


「こっちがいい」

「じゃあ、こっち。少し歩くけど」


 俺は彼女の手を取った。


「いいよ。一緒に行こう」


 謎解きのときには、先へ進みたがる莉央が、今は俺と並んで歩いていた。


~完~


お読みいただき、ありがとうございました。


謎が解けた日も、解けなかった日も、帰りにまた会う約束をする。そんな航と莉央の恋を楽しんでいただけていたら嬉しいです。


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