第8話:新居は最高? いいえ、たぶん“事故物件です
新しいお家は、正直に言って――最高だ。
明るい。広い。湿っぽくない。
それに何より、「ここ、こうしたいな」と思った瞬間に、頭の中にふわっと“メニュー”みたいなものが浮かぶ。壁をどうするか、通路をどう使うか、なんとなく“いじれる気がする”のだ。
……すごくない? 私、ついに“理想のマイホーム”を手に入れたんじゃない?
「ふふっ……ここを、私の完璧な城にしてみせるわ」
私はキラキラ石――もといダンジョンコアの横で、満足げに脚を組んだ。八本あると、ちょっとした威厳が出る。気がする。
よっし!まずはレイアウトだ。
コアのあるこの広い空間は、当然リビング兼寝室。
問題は、それ以外――生活感のある“ごちゃごちゃ”をどこに押し込むか。
「あらやだ!コアの横に、脱ぎっぱなしの糸とか転がってるのは……お嬢様として、いかがなものかしらね。」
うん、ダメだ。美しくない。
せっかくの新居が、“ちょっと気を抜いた女子高生の部屋”みたいになる未来が見える。
「よし。あっちの通路、物置にしましょう」
リビングから少し離れた、行き止まりの細い通路。
あそこなら、多少雑に使っても視界に入らないし、なにより“生活感の隔離”ができる。
私はさっそく、その通路へ移動し――
「ただの穴じゃ味気ないわよね。入口は……こう!」
糸を紡ぎ、編み、重ねていく。
くるり、ひらり、ふわり。
完成したのは、レースのカーテンみたいなフリル付きアーチ。
「見てこれ! 可愛すぎない!? ちょっとした貴族のお屋敷じゃない!?」
テンションが上がる。
自画自賛が止まらない。私、絶対センスある。
……が。
「……あれ?」
入って、出ようとした瞬間。
ぴと。
「ちょ、ちょっと待って。脚、引っかかるんだけど」
フリルが絶妙に“返し”みたいな構造になっていて、外に出るときだけ絡みつく。
「よいしょ……ふん!よいーーしょ……っ」
もぞもぞ、じたばた。
……出られた。
「はぁ……。ちょっとやりすぎたかな。でもまあ、防犯には良いよね!良い事にしようと私が決めました!」
私は笑ってごまかし、そのままコア・ルームへ戻った。
ちなみにこの物置、岩の隙間から水が滴る“天然の水場”だったのだが――
その時の私は、「あ、水近くて便利〜」くらいにしか思っていなかった。
この判断が、後にとんでもない結果を招くとも知らずに。
◆
その夜。
私はコアのそばで丸くなり、久々に安心した眠りについていた。
――ピコン。
「……ん……?」
頭の中に、妙な音が響く。
――『トラップ撃破:経験値を獲得しました』
――『レベルが2に上がりました』
「……は?」
寝ぼけたまま、ゆっくり目を開ける。
「……私、何もしてないけど?」
戦ってない。動いてない。寝てただけ。
なのに、レベルアップ?
「え、なにそれ。夢?」
気になって、ふらふらと物置の方へ向かう。
フリルのアーチをくぐり抜けて、中を覗き込むと――
「……え?」
そこには。
ぎゅうぎゅうに詰まった、小型の魔物たち。
ぴょんぴょん跳ねるやつ、カサカサ動くやつ、ぬるっとしたやつ。
そして全員、出口付近で詰まっている。
理由はシンプルだ。
入るときはスムーズ。
出るときは――私のフリルが、逃がさない。
「……あー」
理解した。
水場に惹かれて入ってきた魔物たちが、
私の“おしゃれ入口”に捕まって、出られなくなっている。
そして。
――ピコン。
『レベルが3に上がりました』
「え、ちょっと待って?」
視線を戻す。
中では、パニック状態の魔物たちが互いにぶつかり、噛みつき、引っ掻き――
気づけば、小さな生存競争が始まっていた。
「……これ、もしかして」
私はゆっくりと呟く。
「勝手に集まって、勝手に戦って、勝手に経験値くれる感じ……?」
――ピコン。
『経験値を獲得しました』
「すーごーいっ!!」
思わずぴょんぴょん跳ねた。
「なにこれ!? 寝てるだけでレベル上がるとか、最高じゃない!? 夢の不労所得システムじゃない!!」
外では命がけで戦ってる人たちがいるのに、
私は部屋で寝てるだけで強くなる。
なにこれ、神仕様?
「キラキラ石……あなた、天才ね……!」
私はコアにすり寄った。感謝のハグ。
……なお。
その裏で起きている“蟲毒じみた光景”については、
深く考えないことにした。
だって、便利だし。
「よーし! この調子でどんどんお部屋改造していくわよ!」
私はテンションMAXで宣言する。
「次は滑らないラグマットかな~? それと収納増設! あと照明ももうちょっとおしゃれに――」
くるくる、ぱたぱた。
八本の脚が軽やかに動く。
こうして、私は気づかないまま――
このダンジョンを、じわじわと。
確実に。
“帰ってこれない場所”へと作り替え始めていたのだった。




