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クモ女子高生のんびり巣作り 〜本人は快適生活、周囲は魔王の侵略と勘違いしています〜  作者: 湿度管理係


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第3話:糸は三つ編みにしてこそ、その真価を発揮する

さて。この身体には、ひとつだけ明確な“強み”がある。

 現代日本人なら、その強みは「血筋」や「財力」だろう。


 だけど今の私にあるのは、お尻からするする出てくる、この白い糸だ。


しかもこれ、ただの糸じゃない。やたら丈夫。

 細いのに切れない。引っ張ってもびくともしない。

 ……どう考えても、高性能素材。

 

「コストゼロでこれ出せるの、普通にずるくない?」


リフォーム系クモを自称するからには、使わない理由がない。

 むしろこれを使いこなせなければ、ただのデカい虫として一生を終えることになる。

 それは嫌だ。没落……ならぬ、害虫落ちは絶対に回避しなくては。


……ただし。問題がある。

 この糸、めちゃくちゃベタつくのだ。


「うへぇ、また……!」


脚を動かした瞬間、ぺたっ、と何かに引っかかる。

 振り向くと、自分の出した糸。そしてそれに絡まる、自分の脚。

 さらに動く。もっと絡まる。


「ちょ、待って、待って待って――」


結果。がんじがらめ。


「……何これ」


私はその場で、芋虫みたいに転がっていた。

 八本も脚があるのに、全部封じられている。完全敗北。

 糸。強い。便利。でも


 制御できない。


しばらくもがき、自分の脚を一本ずつ救出する。

 ……疲れた。

 

「……使えないと意味ないでしょ、これ」


私は少し離れて、糸を観察する。

 白くて、綺麗。見た目は育ちのいいシルクみたいで、すごくいい。

 でも触ると終わる。くっつく。絡まる。自由を奪う。

 完全に、お上品な顔をした罠だ。


「いやいや、これ絶対使い道があるはずよ……」


考える。

 このポテンシャルで、ただの粘着トラップなわけがない。

 前世の知識。ロープ。繊維。加工。

 

「……あ、束ねれば、いいんじゃない?」


糸単体がベタつくなら、まとめればいい。編めばいい。

 粘着面を、内側に閉じ込めてしまえばいい。


「三つ編み……」


ぽつりと呟く。前世で、自分の髪や文化祭の装飾でやってたやつ。

 あれを応用する。

 やってみるわよ。


糸を三本出す。

 右。真ん中。左。

 クロス。もう一度。クロス。


「……あれ?」


絡まらない。いや、正確には違う。

 絡まっても、制御できる形(構造)になっている。

 

 さらに続ける。

 右。左。中央。

 ここで八本の脚という「異形」が牙を剥く……じゃなくて、真価を発揮した。


 右の二本で固定して、左の二本で送り出し、真ん中の脚で締め上げる。

 同時に押さえられる。編める。爆速だ。


「ちょっと待って~これ……へいへいへい!」


手応えが一気に変わる。

 完成。一本の、太いロープ。

 

 触ってみる。

 べたつかない。表面はさらっとしている。

 全力で引っ張る。……びくともしない。


「……やっば……これ強っ」


単体の糸よりも、扱いやすくて、強くて、安定してる。

 

「……勝ちじゃん」


思わず呟いた。

 これだ。これが正解だわ。

 

 私はすぐに次の実験に移る。

 ロープの片端を、天井の突起に固定。

 もう片方に、その辺に転がっていた「後で資材にするかもしれない石」をくくりつける。

 

 持ち上げる。

 浮いた。


「……うひょおぉ」


床から物が消えた。正確には、床にあったものが“空中に移動した”。

 つまり。空中収納バンプアップができたのだ。


「くんくん……文明の、香りがするわ……」


思わず、蜘蛛の顔でうっとりする。

 床が広くなる。足場が安定する。邪魔なものが減る。

 QOL(生活の質)が、明確に一段階、上がった。


「これ、普通に革命きたんじゃない?」


ただの糸じゃない。ただのクモじゃない。

 私は今、この絶望の穴で、生活をアップデートしている。


 なまの糸は事故の元。何事も、結束してこそ力になる。


 そして、床に物を置かないのがデキる匠の鉄則。


 三つ編み一つで、私の「蜘蛛生」は、ただのサバイバルから「お部屋作り」へと進化した。


 使えない素材なんてない。使い方を知らないだけ。


 私は新しく編んだロープを見上げる。

 白い線が、この暗い洞窟に一本、凛として通っている。


 それだけで、少しだけこの場所が“人の住む場所”に近づいた気がした。


使えない素材なんてない。使い方を知らないだけ。


 私は新しく編んだロープを見上げる。

 白い線が、この暗い洞窟に一本、凛として通っている。

 

 それだけで、少しだけこの場所が“人の住む場所”に近づいた気がした。


「……やった」


小さく呟く。


 床を整えた。次は収納。

 この調子でいけば、ここはちゃんと“私のお部屋”になる。

 

 私は再び、お尻から糸を引き出す。

 今度はもう、怖くない。

 むしろ――次はどう編んでやろうかと、ワクワクしている自分がいた。

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