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クモ女子高生のんびり巣作り 〜本人は快適生活、周囲は魔王の侵略と勘違いしています〜  作者: 湿度管理係


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第13話:戦慄と、ほのぼの離乳食

 冒険者アルドは、「特級探査員」と呼ばれる数少ない人材の一人である。


 未知の迷宮。変異した階層。

 地図が役に立たなくなった場所に潜り込み、構造と危険度を読み解き、生還する――それが彼の仕事だ。


 本来、このダンジョンは“安全寄り”のはずだった。

 新人が苔を採り、中級者がキノコを摘み、小銭と経験を持ち帰る。そんな、言ってしまえば“育成用の迷宮”。


 だが今、アルドの背中を伝うのは、冷たい汗だった。


「……魔素の流れが歪んでいる」


 足を止め、空気を読む。


「まるで……誰かが、無理やり構造を書き換えたような……」


 数刻前。

 迷宮全体を震わせた、あの異様な魔力の脈動。


 あれは自然現象ではない。


「……くそ、最悪だな」


 アルドは低く呟いた。


「ダンジョンマスターが、目覚めたか」


 もしそれが事実なら、この迷宮は“資源採取場”から“殺戮領域”へと変わる。

 周辺の街にとっても、放置はできない災厄だ。


 アルドは検杖を構え、慎重に一歩を踏み出した。


 ――その直後。


 ぴたり、と足を止める。


「……あるな」


 地面。ほんのわずかな違和感。

 踏み固められたはずの土の中に、異物の“気配”。


 彼はしゃがみ込み、剣の切っ先でその一点を押し込んだ。


 ガシャン!!


 轟音と共に、床が牙を剥いた。


 地面から突き上がる、巨大な刃。

 空気を裂くその速度は、回避不能の領域。


「……重力感知型。しかも反応速度が異常だな」


 アルドは淡々と分析を続ける。


「そして……」


 視線を前へ。


 わずかに揺らぐ空気。

 鼻腔を刺す、焦げたような熱の匂い。


「奥に熱源……溶岩か」


 さらに、その横。


 妙に整えられた、平らな“安全そうな場所”。


 アルドの目が細くなる。


「ふむ…なるほど」


 吐き捨てるように言った。


「一段目で油断を削り、二段目で恐怖を与え、三段目で仕留める……」


 彼の脳内で、罠の設計図が組み上がる。


「刃を避けた者は、視覚的に“安全”に見える場所へ誘導される。だがそこは――」


 足を止め、距離を測る。


「ただの“落とし穴”だ」


 その構造はあまりにも単純。

 だが、それゆえに逃れにくい。


「……悪趣味だ」


 誰にともなく呟く。


「侵入者を“料理”するつもりか」


 アルドはその場を大きく迂回し、さらに奥へと進んだ。


 やがて辿り着いたのは――


 キノコの群生地。


 いや、“異様な庭園”と呼ぶべきか。


「……これは」


 しゃがみ込み、一つを観察する。


「アブラ・タケ……しかも高品質。焼けばバターのような香りが出るはずだ」


 別の個体へ視線を移す。


「シビレ・マダラ……神経毒持ち。触れただけで麻痺する」


 さらに、奥。


 発光する菌糸。色彩の違う胞子。


「……種類が多すぎる」


 アルドの眉間に皺が寄る。


「こんなものが自然に共存するはずがない」


 その時。


 カサ、と小さな音がした。


「――っ」


 反射的に視線を向ける。


 岩陰から現れたのは、小型の蜘蛛。


 だが。


「……デス・ストーカー?」


 本来は単独行動を好み、高所から奇襲を仕掛ける魔物。


 それが、一匹ではない。


 二匹、四匹、八匹――


 次々と現れる。


(群れている……?そんな、 あり得ない)


 さらに、彼らは襲ってこない。


 ただ、こちらを見ている。


(統制されている……?)


 アルドの背筋に、冷たいものが走った。


(まさか……ここは……)


 思考が繋がる。


(蜘蛛で動きを封じ、キノコで状態異常を付与し、最終的に回収する……)


 ぞっとするほど効率的な構造。


(これは……飼育場だ)


 獲物を逃がさず、弱らせ、育てる。


「……間違いない」


 アルドは確信した。


「この迷宮には、“意思”がある」


 その時だった。


 ひょこ、と。


 キノコの陰から、小さな影が現れた。


 小人。


 手のひらほどのサイズの存在。


「……スプリガンか」


 アルドは息を殺す。


 小人は蜘蛛たちに何か話しかけている。

 声は小さく、内容は聞き取れない。


 だが――


 確かに、その単語だけは聞こえた。


「……マオ」


 ぴたり、と。


 アルドの思考が停止する。


「マオ……?」


 反芻する。


「……魔王」


 ぞわり、と全身に悪寒が走る。


「やはり……!」


 点と点が繋がる。


 構造改変。

 複合罠。

 生態系の支配。


「すべて説明がつく……!」


 アルドの中で、仮説が“確信”へと変わる。


「この迷宮の主……魔王が、誕生したんだ……!」


 小人は従者。

 蜘蛛は兵。

 キノコは資源。


「……終わったな」


 低く呟く。


「早急に対処せねば、街は耐えられない」


 アルドは静かに後退した。


 一歩、また一歩。


 決して音を立てず、気配を消して。


(報告しなければならない)


(この“災厄”が完成する前に)


 彼は踵を返し、闇の中へと消えた。


 ――その頃。


「ごはんでちゅよ~♪」


 真央は、にこにこと笑いながら皿を差し出していた。


 皿といっても石板だが。


「はい、お肉のソテーとキノコ添えね!」


 スライサー産の細切れ肉と、バター風味キノコ。


 ちび蜘蛛たちは、カサカサッ! と嬉しそうに集まる。


「ほら見てピップ! おてて振ってる! 可愛すぎでしょ!」


「……ああ」


 ピップは真顔で頷いた。


(完全に統率されている……)


 彼の目には、そう見えていた。


(本来なら単独で狩るはずの種を、ここまで従わせるとは……)


「お前は本当に……とんでもないな、真央」


「でしょー?」


 真央は満足げに胸を張る。


「懐くとね、ほんっと可愛いのよ!」


(習性すら書き換える管理能力……)


 ピップの中で、評価はさらに上がる。


(この方こそ、真の主……!)


「すごいな、真央」


「でへへ~」


 その裏で。


 一人の熟練探索者が、「魔王誕生」を確信して逃げ帰っていることなど――


 彼女が知る由もなかった。

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