第11話レベルは勝手に上がるし、キノコはだいたい裏切る
「……おはよー……」
キラキラ石――もといダンジョンコアの横で、私はぬるっと目を覚ました。
昨日は調子に乗って焼肉を食べすぎた気がする。満腹で寝落ちって、なんか人間らしくて良いわよね。
……いや、クモだけど。
のそのそと身体を起こし、なんとなくステータスを確認した、その瞬間。
「……って、ええっ!? なにこのレベル!?」
思わず八本の脚がバラバラに跳ねた。
昨日から、レベルがごっそり上がっている。五段跳び。意味がわからない。
「ちょっと待って、昨日の私、なにしたっけ!? 特訓? してない! 戦闘? してない! じゃあこれ、何のポイント!?」
ぐるぐると記憶を遡る。
やったことといえば――
「……あ」
ピン、と来た。
「もしかして……『システムキッチン』設置ボーナス!? 住宅のリフォームで経験値が入るタイプの世界なの!?」
脳内で花火が上がった。
「え、なにそれ最高じゃない!? 私、戦わなくていい『建築士系主人公』だったの!? つまり安全圏からレベル爆上げ!? 勝ち確じゃない!!」
現実では、冒険者一人が犠牲になり、夜中には匂いに釣られた魔物たちがスライサーで細切れになり、そのまま溶岩ゴミ箱へシュートされていたのだが、そんな裏事情を知る由もない私は、
インテリア=経験値という夢理論を、鉄筋コンクリート以上の強度で脳内に施工してしまった。
「ふっふっふ……最高じゃん、この世界。私に優しすぎる……」
戦わずして強くなる。
そんな夢のライフスタイルが確立した今、次に求めるものはただ一つ。
「……食の多様性よ!」
ぐっ、と脚を握りしめる。
「毎日トカゲ肉オンリーはさすがに飽きるね。栄養バランス的にもアウトでしょ。お肌――外骨格に悪いわよ!」
というわけで。
「行っくよー!新メニュー開発! 素材調達の時間だい!」
私は軽やかに通路へ飛び出した。レベルアップの影響か、動きがやたら軽い。壁も天井もスイスイだ。気分はほぼアスレチック。
しばらく進むと、岩陰に色とりどりのキノコが群生している場所を発見した。
「ほおぉ……これは……宝の山では……!」
赤、青、紫、意味不明な光沢を放つものまで。
完全に当たりとハズレが混在する危険ゾーンである。
「よし……キノコガチャ、いざ参る!」
私は慎重に一つを選び、脚の先にちょん、とつけてみる。
……異常なし。
「パッチテストクリア。では本番――」
ガブリ。
「…………」
一瞬の静寂。
次の瞬間。
「……あ、あばばばばばばばば!!?!?!?」
全身が震えた。
いや、震えたどころじゃない。これは振動だ。バイブレーション機能搭載。完全に誤作動。
「なにこれぇぇぇ!! 神経に直接くるタイプのやつっっっ!! スタン効果持ちじゃないぃぃぃぃ!!」
私はその場で白目を剥き、八本の脚をガクガクさせながら岩の上でしばらく震え続けた。
数分後。
「……ぐふぅ。死ぬかと思ったぜ……」
ぐったりしながらも、私は次のキノコに手を伸ばす。
「でもね、ここで引いたら負けなのよ……私!まけない!」
今度は地味な茶色。
「これは……安全そう。逆に怪しいけど、いってみるか!女は度胸だい!」
パッチテスト、異常なし。
ガブリ。
「……あ」
目を見開く。
「……ぅうまぁ~これ、美味しい~」
じんわりと広がるコク。
ほんのりとした甘みと、芳醇な香り。
「なにこれ……焼いたら絶対バター……いや、もうエシレよこれ……」
当たりを引いた。完全勝利である。
「キノコガチャ、もしかして神ゲーか……!」
夢中で食べていると、ふと背後でカサカサと音がした。
「ん?」
振り返ると、そこには小さな蜘蛛たち。
手のひらサイズで、つぶらな目がこちらを見上げている。
前世の私なら即失神案件だが、今の私は違う。めっちゃ可愛く見える不思議
「あらまぁ~……かわいい子犬ちゃんたちじゃないのぉ~」
むしろ癒やし。
「なに? お腹すいてるの?」
私はスライサー産のトカゲ肉とキノコを差し出した。
「はい、どうぞ。お代はスマイルでいいわよ」
ちび蜘蛛たちは嬉しそうに群がり、もぐもぐと食べ始める。
そしてそのまま、私の脚にすり寄ってきた。
「えっ、なに……懐いた?」
さらに、ぴょこぴょこと周囲を指差すような動き。
「……あ、もしかして」
直感が閃く。
「あなたたち、キノコ育てられるの?」
ちび蜘蛛、コクコク。
「で、報酬はお肉?」
再びコクコク。
「……」
一拍。
「オッケー、契約成立!!」
私は即決した。
「最高じゃない! 私はお肉を支給、あなたたちはキノコ栽培! 完璧な外注システムの爆誕じゃん!」
労働なき収穫。
これはもう文明の勝利である。
その後、私は意気揚々とコアの部屋へ戻り、さっそくインテリア改造に取り掛かった。
「キノコといえば、やっぱりビジュアルも大事よね」
コアに意識を集中し、リビングの隅に巨大なキノコオブジェを生成する。
「赤地に白ドット……うん、かわいい! メルヘン! 完璧!ベニットテング君と名付けよう。」
洞窟とは思えないファンタジー空間が完成した。
「ふふっ……これ、小人とか一目ぼれして来るんじゃない?」
自分で言って、自分で笑う。
「いやいや、さすがにそれはな――」
その時。
――トタトタ。
小さな足音。
キノコの影から、三角帽子を被った身長10センチほどの存在が、ひょっこり顔を出した。
「…………」
目が合う。
「…………」
数秒の沈黙。
「……来んのかいっ!!」
私は全力でツッコミを叩き込んだ。




