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王太子妃(仮)でしたが、聞いたこともない予言のせいで追放されました。ですから、今さら呼び戻されても困ります。  作者: 實藤圭
序章:断罪の儀

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第9話 断罪の鐘は鳴った -前編-

 雲一つない王都の空に、鐘の音が響いた。

 婚礼の儀。神殿の大広間──神託の間には、白金の天幕が掲げられ、祭壇には古より伝わるとされる聖器が並べられていた。高くそびえる天窓から注ぐ光が、静かに荘厳さを増している。


 参列者の衣ずれの音と、やや抑えめの話し声が、神域の静けさと重なって広がっていく。

 クラリスは控室の鏡の前に立っていた。淡く銀糸を織り込んだ純白の礼装が、窓から射す光を柔らかく反射している。


「……もうすぐですね、クラリス様」


 付き添うリュシアの声は、どこか震えていた。


「そうね。……まるで夢のよう。夢なら覚めないでほしいわ」


 軽口もうまく言えないクラリスに、リュシアが何か言葉をかけようとしたが思いとどまる。扉の向こうから、参列者のざわめきがすぐそこまで近づいてきていた。


 聖堂の中心へ、王太子妃として歩み出るその時が迫っている。




 ──その頃、正面祭壇の脇には、聖女ミラ・セレスタが控えていた。白の祭衣に身を包み、祈りを捧げるその姿は、まるで陽光を纏った彫像のように冷たく美しい。


 彼女は、共に祭壇で祈りを捧げ続けていた大司教がその祈りを終えたことを確認すると、何かを言葉少なに交わし、微かにうなずいた。その視線は、誰にも届かぬ深い沈黙をたたえている。

 祭壇から降りた大司教は、参列席の最前列中央に座ると、無言で壇上を見つめた。

 大司教セヴェルス。国王であるアルグレウスが長きにわたる療養中の今、王太子リオネルが国政全般を担っていたが、こういった儀式などの場においては王弟でもある大司教が国王の代理を務めるのが常だった。


 一方、広間の後方では、警備の要として控えているセラドが、場内を鋭く見回していた。

 彼の眉間には、ほんのかすかな皺が寄っていた。




 やがて──控室から続く扉が開き、クラリスが現れた。

 頭上からの光は彼女のブロンドの髪を、ドレスを神々しく照らす。

 光に包まれたまま、彼女は静かに神託の間の中央へと歩を進めていった。


 ──そう、私は王太子妃 クラリス・アルデンティア──


 クラリスは、前だけを見据え、進んでいく。

 クラリスよりも早く、先で待っていた、王太子リオネルが手を差し出す。

 クラリスがその手を取り、そっと微笑む。

 リオネルも応えるように笑った。だが、彼の頬はわずかに蒼白で、その手には冷たい汗が滲んでいた。

 だが、クラリスは気にするふうでもなく、その手を強く握った。

 この"温かな"手を信じて、ここまで来たのだ──そう、自分に言い聞かせるように。





 ──いま、儀式が始まろうとしている。


 

 鐘の音が大きく一つ鳴り響く。



 一斉に静まる会場。



 ミラがゆっくりと立ち上がった。



 祭壇へと歩みを進める。



 いよいよ聖女が祈り、そして、続けて王太子リオネルと王太子妃クラリスが祈る。



 誰もがそう思っていた。

 何人かの"真実"を知るものを除いては──


 


「ここに──一つの神託を読み上げます」




 そうして、断罪の儀は始まった。


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