第6話 彼女の名を呼ぶ声
祝賀の式典は翌日に控えていたが、王城には相変わらず重苦しい空気が漂っていた。
原因は誰にも解っていたが、相変わらず陰でこそこそとは囁くものの、それを表立って言うものは誰もいなかった。
クラリスは一人、城内の庭園を歩いていた。
かつてリオネルと共に語らった花の小径。夜にもかかわらず月明かりに照らされた様々な花が、静かに輝いていた。庭園は花の種類ごとに綺麗に整えられ、見る者の目を楽しませてくれていたが、すでに花の時期を終え、葉々を緑に茂らせようとしているものもあった。
「クラリス」
「リオネル様……」
「この庭園はやはり月の輝く夜にこそ最も美しく映える……そうだろう?」
「ふふ。私を王太子妃候補にとお声がけくださった時、そうおっしゃっていらっしゃいましたね」
クラリスは、リオネルにこの場に呼ばれていた。
彼女の名を呼ぶ彼の声はとても柔らかかった。
そしてその声は、クラリスに勇気を与えると同時に、なぜか不安の影を落とさせるものだった。
「明日ですね、いよいよ」
「……ああ。私は、ずっと君に、この日が訪れることを願っていた」
リオネルは、クラリスの青みがかったグレー色の瞳をじっと見つめる。
「わたしもです。あなたの隣に立てることが、何よりの幸せだから」
リオネルはその言葉に静かにうなずくと、笑みを返した。
「……クラリス。大丈夫。周りが何と言おうと、私は……君を信じている」
「……ありがとうございます、殿下……わたしも、あなたを信じています」
その瞬間、二人の想いは、確かに重なった。




