第14話 追憶
王都を囲む城門が、ゆっくりと開かれた。
その向こうには、まだ雪の残る山道と、冷たい風が吹いていた。
クラリスを乗せた馬車が、衛兵に見送られながら城門を出る。
馬車の中は、静まり返っていた。
窓越しに見える王都は、遠ざかるほどに美しさを増していった。
──しかしそこは、二度とは戻れない場所だった。
揺れる車内で、クラリスは手を膝に重ねて座っていた。
礼装を脱いだ彼女の姿は、町を歩く人々と変わらず、質素なものだった。
だが、何気ない彼女の仕草の端々からも透けて見える気品は、決して一般人のそれではないことを感じさせるものだった。
ふと、ひとすじの記憶がよぎる。
──まだ幼いころ、村の教会で。
花を編んでくれた少女がいた。
ミラ。
今よりも素朴で、無邪気で、優しい笑顔を見せていたあの少女。
「クラリスは、お姫様みたい。きっと王子様と結ばれるのよ」
「そんなことないよ、ミラの方がずっときれい」
「ううん、私は……」
──そう言って、微笑んでいた彼女の横顔は……
クラリスはそっと目を閉じた。
馬車は北へと進む。
王都の華やかさが消え、冷えた風が頬を撫でる。
「……どうして、こんなことに……」
ため息とともに漏らしたその問いに、答える者はいなかった。




