第11話 剥奪
「……そんな……」
沈黙の中で、クラリスは立ち尽くしていた。
今、自分が何をされたのか──頭では理解しても、心が追いついていなかった。
クラリスの背後に二人の侍従が歩み寄る。
一人が進み出て言った。
「クラリス様……クラリス様……」
聞きなれない声に、クラリスが我に返った。
二人はともに、ほんの数日前に彼女に仕えることになった侍従だった。
振り返ると、リュシアが隅の方で床にペタンと座り込んでいるのがクラリスの目に見える。
広間では、これから何が起こるのか、これまでとは異なる、好奇心にも似た視線がクラリスに集まっていた。
「クラリス様……王太子妃としての装飾、加護の証印……すべて、お預かりいたします」
髪飾りは、儀礼用にと、王家に代々伝わるものだった。
胸元のブローチは、婚礼の儀のために、特別に時間をかけて作り上げられたものだった。
今日までの間、時間をかけて用意された王太子妃としての証のすべてが、あっけなく外されていく。
二人はその作業の間、決してクラリスに目を合わせようとはしない。
──剥がされていく。一つずつ、一つずつ。
それはまるで、自分自身の一部を奪われていくようだった。
剥がされるたびに、胸の奥が軋むように痛む。
だが、それでもクラリスは、声を上げなかった。
その目は痛みに耐えているかのように、固く閉じられている。
装飾を外し終えた二人が下がると、ミラが壇上へ歩み出た。
「クラリス様。神託が我々に示したこと、私にも、すべてを正確に伝えることはできませんが……
これは、神がクラリス様に与えし試練なのかもしれません。
神はあなたのこれまでの行い、献身、信仰を、決して否定するものではありません。
ですが、“今のあなた”は、光の中にいてはならないのです」
その清らかで、柔らかな声は、今目の前で行われた、凄惨な行為の残り香を洗い流すのに十分なものだった。
少なくとも、クラリス以外にとっては。
群衆の中に、笑う者がいた。
陰口を囁く者がいた。
だが、一人として、彼女の為に声をあげる者は現れなかった。
クラリスは、ようやく小さく息を吐いた。
「……ミラ、どうして、こんなことに?」
厳粛な場に似つかわしくないその声が響き渡り、広間の温度が少しだけ上がったように感じられた。




