第52話 女神の呪いが怖すぎる件
僕らは首尾よく収容所島を制圧した。王国海軍が誇る最新鋭艦の主砲の威力は凄まじく、島に停泊している小艦艇程度では抵抗などできない。砲撃の余韻がまだ海面に残る中、僕らは解放した人魚族と合流し、島に駐留していた海兵たちを逆に収容所へと収監した。
数で言えば人魚族より少ない。立場が入れ替わるのに、時間はかからなかった。しかも、そこには闇の女神ディスフィア様の「呪い」が、漏れなく付いてくる。全ての海軍関係者が投獄されたその晩――。 夜の帳が島を覆い、焚き火の灯だけが揺れる頃、イリスの祈りに応じて闇の女神が降臨した。
《いぇーい! めっちゃホリデー!! 呼んだ?》
場の緊張感を嘲笑うかのような、軽い声。
「ディスフィア様〜、お願いがあってお呼びしましたー!」
イリスが一歩前に出て、この島の治安維持のために、神の力を借りられないかと願い出る。
《何しようかのうー? 海軍の人間をみんなネズミにするとか?》
あまりにも不穏な提案に、僕は反射的に割って入った。
「どうもお疲れ様です! いえいえ、そこまでやるとやりすぎですので、もう少し軽く……僕らに反抗できないようにお願いします」
内心では背筋が凍りつつも、平身低頭でお願いする。
《うむ……今後の作戦の為にもなるか。わしに任せるがよいぞ》
そう言い放つと、ディスフィア様はその姿をホログラムのように闇夜へ浮かび上がらせ、島にいる全ての者に見せつけた。巨像の目が赤く光り、女神が取ったのは、思わず「どーん」という擬音が浮かぶほど堂々たる「指差し」のポーズだった。
右手の人差し指が向けられた瞬間、囚われの海兵たちにズドーンっと衝撃が走る。
「うわぁー!」「ぐはぁっ!」「ひぃぃー」
一瞬意識を失い、再び目を開けたとき。彼らの額には、謎の数字が浮かび上がっていた。大抵が20~30だ。だが、ある極悪非道な看守の額には、「1」という黒い数字が刻まれている。
《くっくっくっ……その数字は残りの寿命の年数じゃ。この島で犯した罪の分だけ寿命を削っておいた。残りの人生を品行方正に暮らすが良いぞ》
「なんだと……!? 俺はもうあと一年しか生きられないのか? ……それなら暴れるだけ暴れて、一人でも二人でも道連れにしてやる!」
逆上した看守が警備の男人魚に掴みかかろうとした、その瞬間。額の数字が赤く輝き、炎の柱が男の全身を包み込む。
「がはぁー熱い! あああああ!!」
《見たか? わしの保護する者たちに害をなせば即死する呪いも掛けてある》
神の声が響いた瞬間、残された男たちの顔から血の気が引いた。
《ただし、わしに帰依し闇の覇道に尽くすなら、その額に刻んだ刑罰を働きに応じてやがて解呪してやろう》
僕や仲間たち、そしてウンチョウたち人魚族は、心の底から同じことを思った。 (怖っ! この女神にだけは絶対逆らっちゃダメだ!) 本当だ。こんな力があるなら、都市の一つや二つ、簡単に滅ぼしてしまうだろう。イリスが「超危険物」として恐れられている理由を、僕は改めて思い知らされた。
その後、解放の英雄である僕は、人魚族の美少女たちにもみくちゃにされ……ることはなかった。人魚族の民衆に囲まれているのは、キリリと美男ムーブを醸し出しているアシュレイさんだ。解放を祝した宴では、美男美女の人魚を侍らせ、優雅に酒を嗜んでいる。ユリシアさん、ノワール、トラ子も同様に大人気だった。
僕とイリスは、なぜか祭壇のような場所に並べられてはいるが、誰一人として近寄ってこない。
「ご主人様、なんか悲しい感じですね」
「まあいいよ。みんな楽しそうだし」
「ディスフィア様ったら、いつもやりすぎちゃうのです。ですから、なかなか怖がられてしまって……」
「僕は、イリスを含めて好きだから・・なんだかんだで助けてもらってるしね」
僕の言葉に、イリスがそっと肩を寄せる。喜びの宴は、夜明け前まで続いた。
***
翌日、戦艦レトヴィザンの作戦会議室。人魚族の解放を果たした僕らは、次の一手を検討していた。
ワスプ大佐を案内役に、イーストフォークにあるレキシントンの別荘へ「生贄の人魚」を献上するふりをして潜入。そこで僕が決闘を挑み、叩き斬る――。アシュレイさんから提示された最終決戦案は、その流れだった。……いや、無理だろう。相手はレベル100超え確実、しかも残機持ち。真正面からやるには分が悪すぎる。僕は恐る恐る手を挙げた。
「あのー……最後は僕が全て決めるというのも、なんか悪いですし……。ここはトドメをウンチョウたち人魚の皆さんに刺して頂くというのはどうでしょう?」
返ってきたのは、容赦のないツッコミだった。
「ええぇー? ここからがご主人様の見せ場ですようー! ファイト出していきましょうよ〜!」
「その通りですわ。良一郎様は既に押しも押されもせぬ立派な主人公ではありませんか!」
「私も激しく同意です。マスターにはディスフィア様のご加護がありますもの。大丈夫ですよ」
「任せなさいって。私の作戦にはアズマくんの主人公補正やら、作者のご都合主義も加味してるんだから!」
「良ちゃん頑張ろう!トラ子も一緒にぶん殴ってあげるからー」
僕はふるふると首を横に振る。
「駄目ですようー! その慢心や油断が大抵命取りになるんです! 今までのパターンから学びましょうよ!」
(……ちっ! 勘のいい小僧め)どこからか作者の声が聞こえた気がする。その舌打ちを無視し、話を進める。
アシュレイさんが難しい顔をして僕に向き直る。
「それじゃあ、どういうのがいいのよ? 何か代案があるなら教えてくれる?」
「はいっ! 寝る間も惜しんで考えました。僕の考える『理想の勝ち方&具体的な作戦案』です!」
僕は懐から一冊のノートを取り出した。 そこには、呉市民としての現代戦知識を応用し、生き残るために編み出した「姑息な作戦案」がびっしりと書き込まれている。僕はその中でも特にやりたい作戦を、作戦室の魔法ホワイトボードに書き込んでいった。
アシュレイさんが内容を読みながら、だんだん引いていくのが分かる。この作戦は、イリス(ディスフィア様)やユリシアさんにもかなりの無茶振りをするものだった。チラリとウンチョウとヨクトクの人魚義弟コンビを見る。彼らも顔を青ざめ、完全にドン引きしていた。
「アズマ兄貴〜……これを本気でやるんですかい?」
「くっ……やれと言われれば、やらないこともねぇですが……」
「出来るだけ安全には配慮するよ。それと、イーストフォークはレキシントンの庭だ。あらゆる場所は奴の手の内にある。今までのマフィアのアジトどころじゃない。……ヤツを海上におびき出すんだ」
「確かに一理あるわね。地上でレキシントンに止めを刺すのは難しいかもだし。……この作戦で行ってみるしかないのかもね」
許可が出て、僕は満面の笑みで喜んだ。 「はいっ! お願いします!」
ウンチョウは複雑な表情を崩さないまま、重々しく一言を放った。
「海の裁き……ヤツを捕らえれば確実に葬れる方法がありやす。兄貴……一丁やってやりやすか」
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