第51話 収容所島への殴り込み
朝日が昇り、辺りが明るくなる頃、その異様な島の形がはっきりと視界に入ってきた。島はさほど大きくなく、見るからに人間が住むには不便そうだ。それというのも、島の周囲はほぼ断崖絶壁で、切り立った岩肌が海に向かって牙を剥いている。船が近づくのも容易でない地形なのは、一目で分かった。
島の南にかろうじて港湾施設があり、船の発着はこの場所だけが可能らしい。逃げ場を徹底的に排した構造は、意図的に作られた“閉じ込めるための島”そのものだった。唯一の港も決して大きくはなく、戦艦のような大型艦が接舷できるほどではない。
戦艦は島の沖に停泊し、そこから連絡艇を使って上陸するようだ。用意された小型エンジン付きのカッターに、僕らは順に乗り込んでいく。波間に揺れる船体が、これから始まる事態を予感させるように不安定だった。
「艦長はここで待機で。アシュレイさん、トラ子さん、ヨクトク達はここへ残って島の監視をお願いします。僕らに何かがあったら、迷わず主砲をぶっ放してください」
冗談めかした言い回しの裏に、僕の本気が滲む。
「ええ、わかってるわ。この艦はあの島にいる連中への抑止力として、いつでも攻撃可能なようにしておくから」
「良ちゃん……気をつけてね。魔導通信で連絡してよ」
「うん、吉報を待ってて」
短い言葉のやり取りを終え、僕はイリス、ユリシア、ノワール、ウンチョウとその部下たち、そして下僕となったワスプを引き連れて連絡艇に乗り込む。僕らアズマ一行は海軍の士官服に着替えていた。布の感触も階級章も、完璧に“それらしく”整えられている。一見して、どこからどう見ても普通の海軍士官にしか見えないはずだ。艦橋から「到着」の合図を送り、僕らは堂々と湾内に入り、埠頭に接舷するのだった。
***
連絡船が到着すると、そこには迎えの馬車が用意されていた。あらかじめ決められた段取りなのだろう。迎えに来た士官にワスプが敬礼し、レキシントンからの命令書を見せる。島の駐在士官が一瞬だけ目を走らせ、すぐに姿勢を正して敬礼した。
「ようこそワスプ大佐。お待ちしておりました。所長がお待ちかねです」
「出迎えご苦労だ大尉。紹介しよう。こちらは王国法務省の特別監察官アズマ特務少佐と、部下の方々だ。心配するな、提督には全てご承知のこと。監査も形だけだ……いいな?」
「はっ! 了解しました。どうぞ馬車へ。収容施設へご案内いたします」
疑念は、権威の前にあっさりと霧散した。ワスプを先頭に馬車に乗り込む。やがて、有刺鉄線が幾重にも張られた壁が見え、監視塔などの構造物が確認できた。その全てが、逃げることを許さない配置だった。馬車は幾つかの検問を通過して収容所へ到着する。荒野のど真ん中、水も食料も乏しそうなこの環境では、生きづらいのは想像に難くない。
有刺鉄線の壁の向こうに、多くの人影があった。支給された粗末な服を着て、手に鍬や鋤を持ち、自給自足のための農作業に従事させられている人魚族の男女だった。俯いた背中からは、自由に生きることを削られてきた悲痛さが滲んでいる。
(罪のない人魚族が王国の奴隷より惨めな暮らしを・・絶対許さないぞ)
建物の中から所長が出迎えに出てきて、ワスプ大佐に敬礼をする。
「遠い所をご苦労様です。引き渡し候補は既に選別しております。どうぞ中へ」
そのやり取りを聞いていた僕は、懐から書類を取り出した。ここから先は、予定通りだ。
「所長だったな。僕は王国法務省の特別監察官だ。今日ここへ来たのは、『この収容所の閉鎖と解散』を命じるためだ。直ちに執行する」
場の空気が、一瞬で凍りつく。僕は後ろに控えていたイリスから、収納魔法に潜ませていた魔剣を受け取る。金属音が静かに響いた。
「さあ、命令に従ってもらおうか!」
***
僕の宣言を聞いて所長は激高した。理性よりも保身が先に立ったのだろう。
「そんな筈はない。おかしいぞ大佐! 私には提督からの連絡も指示も無い。この島で従うべきはレキシントン提督の指令書のみ。……貴様を逮捕する!」
所長の合図で、施設のあちこちから看守兼守備兵が現れ、僕らを取り囲む。慣れきった動きだ。
(やっぱりなぁー。そうなるだろうとは思ってたよ) 僕らも一斉に武器を構える。
「私は提督に収容所の全権を委任されているのだ。奴らを捕らえろ! 手に余るなら斬って構わん!」
「「おおっー!!」」
その声を合図に乱闘が始まった。しかし、こちらは一騎当千の強者揃いだ。数の差など、意味を成さない。
イリスの瞳が紅に染まる。 「人魚の皆さんを虐げていたあなた方を、闇の女神は許しません。……獣化の呪いですぅ!」 イリスが両手で邪神の印を組み、呪文を唱える。向かってきた敵兵が闇の霧に包まれ、次々とその姿を変えていった。
『ピチピチ、ピチピチ!』 兵たちは次々と「海の魚」に姿を変え、土の上を跳ねる。その数はどんどん増えていき、数十匹に達した。ディスフィア様の怒り、怖すぎるよう……。
「な、なんなんだ!? その力は一体!」
所長は狼狽しながらも懐からリモコンのようなものを取り出し、震える指でスイッチを押す。すると格納庫から数体のアイアンゴーレムが現れ、重い足音を響かせながらこちらに向かってきた。
「くそっ!あんな秘密兵器があったのか?」
僕は向かってきたアイアンゴーレムをノワールと共同で叩き壊していく。しかし一体がAランクの魔物に匹敵するのだ、魔剣でもなかなか傷が入らない。金属と刃がぶつかるたび、衝撃が腕に返ってくる。僕はたまらず応援を頼む。
「ユリシアさん、お願いします!」
「わかりましたわ」
ユリシアは得意の爆発魔法でゴーレムを足元から粉砕していく。金属の巨体が崩れ落ちる音が、戦況の終わりを告げていた。
さらに彼女は杖を大きく動かして、空中に「光の的」を出現させた。その的を、収容所の真ん中にそびえ立つ監視塔の頂上へ掲げる。暫くすると――海の方角から、巨大なエネルギー波がその的に目掛けて飛んできた。
――ズドォーン!!
戦艦レトヴィザンの主砲射撃だ。監視塔は直撃を受け、真ん中から上が跡形もなく消し飛んだ。
「ヒッ! 何なんだ!? 戦艦の主砲を撃ち込んだのか!?」
あまりの衝撃に腰を抜かした所長の首に、僕は魔剣を突き付ける。
「見ての通りだ。僕らが乗って来た戦艦は僕の指揮下にある。お前が降伏しないなら、何発でも撃ち込んでもらうぞ。……ユリシアさん! こいつにもマーキングを!」
「はい♡ えいっ!」
ユリシアが再び光の的を出現させ、所長の頭上で輝かせる。
「この光の的は、主砲の光弾を百発百中で当てる魔法陣だ。これが輝く限り、どこに逃げても主砲で狙い撃つぞ。……蒸発したいのかな?」
「ヒェーッ、待って……降伏します! 今すぐ降伏しますので、主砲だけは勘弁して下さい!」
「よーし。じゃあ、人魚の皆さんをすぐに解放しろ!」
ウンチョウたちが看守から鍵束を奪い取り、収容所の出入り口を次々と解錠していく。
「ウンチョウさん! 生きてたのか!?」
「おおっ! みんな! 今日からは自由だぜ。この島から全員で脱出するぞ!」
歓喜の声が、荒野の収容所に響き渡った。それは、長い抑圧の夜が終わったことを告げる、確かな解放の叫びだった。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
もし「面白い!」と思っていただけたら、評価(☆)をぽちっと押していただけると励みになります。
星は何個でも構いません!(むしろ盛ってもらえると作者が元気になります)
そして、何らかのアクション&ひとこと感想(一行でOKです)をいただければ幸いです。
特に感想はめっちゃ元気になりますw
よろしければ、ブックマーク登録もお願いします。
更新時に通知が届くので、続きもすぐ追えます!
今後の展開にもどうぞご期待ください。




