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第50話 戦艦乗っ取り完了

 アストラリア海軍・最新鋭戦艦レトヴィザンの艦上に、僕のドラゴンボイスが響き渡る。怒号というより、もはや艦そのものを支配する宣言だった。血と油の匂いが混じる甲板に、恐怖と静寂が一斉に広がっていく。ワスプ大佐の首を跳ね飛ばした今、この艦に僕らに抗える者はもういない。


 前甲板には、僕らに倒された海軍士官たちが呻きながら転がっている。誇り高きはずの貴族士官も、今は剣を失ったただの敗者だ。そこへ、海から上がってきた奴隷人魚解放戦線の戦士たちが次々と襲いかかり、手際よく亀甲縛りで拘束していった。 「ううっ・・そこ・・もっとキツくして」 ……反省の色がまるでない、ヤバい奴も混じっていた。


 僕は更に投降を呼びかける。甲板の中央に立ち、艦内全域に届くよう、腹の底から声を張り上げた。


「艦長に告ぐ! 直ちに降伏しろ! じゃないとお前も首チョンパだぞー!」


 その言葉が引き金となり、僕の合図で人魚戦士たちが艦内へ乱入する。通路の奥から悲鳴と足音が重なり、抵抗の意思が急速に削がれていくのが分かった。10分も経たないうちに、艦橋から顔面蒼白の艦長を引きずり出してきた。軍服は乱れ、威厳の欠片も残っていない。


「何者だ貴様ら……よくもやってくれたな……!」


 僕は膝をつかされた艦長の目の前に、懐から取り出したある書面を突きつける。あえて芝居がかった動作で、書類をひらりと翻した。


「えぇーい! 控えおろうー! この紋所が目に入らぬか!」


 艦長が顔を上げ、書面の内容を認めた瞬間、「はっ!」と息を呑んだ。その瞳に浮かんだのは、疑念ではなく絶望だった。


「……この書類にある通りだ。僕はアストラリア王国法務省から派遣された『特別監察官』だぞ! お前たち海軍の悪事を暴くため、敢えて若旦那に変装して潜入したのだ」


 続いてアシュレイが、冷徹な美貌を湛えて畳み掛ける。その声には、情けも逃げ道もない。


「その特別監察官アズマ様に、あなたたちは何をしたのかしらね? あの乱暴狼藉だけで、軍法会議は確実よ」


 艦長はわなわなと震えながら書面を読み耽る。文字を追う指先が、紙を破きそうなほど強く震えていた。実はこれ、最悪の事態を想定して用意していた「偽造文書」だ。……とはいえ、バックアップしてくれているのは王国の大法務官、サラトガ伯爵こと山本先輩である。魔法紙、魔法インク、書式、そして伯爵のサイン。これらは全て「本物」。偽物なのは『国王のサイン』と『玉璽の押印』だけだ。王国のガチ官僚が目を皿のようにして確認してやっと判別できるかどうかの最高級偽造品。海軍のいち佐官クラスに見抜けるはずもない。


 さらにノワールが、懐から「諜報騎士団のバッジ」を取り出して突きつけた。金属がライトの光を反射し、否応なく真実味を帯びる。


「私はこの案件を調査していた諜報騎士団員よ。証拠は既に揃っているわ。大人しくアズマ様に従うことね」


 彼女は団長イノカワ直属の切り札。こちらはバッジも身分も正真正銘の本物だ。虚実を織り交ぜた圧倒的な脅しに、艦長はついに屈した。


「へへっーアズマ特別監察官様……王国に仕える者として、指示に従います。その代わり、どうかお慈悲を……!」


 僕は視線を下げ、艦長を見据えた。ここでの一言が、この艦の命運を決める。


「心配するな艦長。悪いのはレキシントン提督と、その周りで甘い汁を吸っているワスプのような輩だ。これから僕の指揮に従ってくれるなら、艦内の兵士・士官ともお咎めなしにしてあげる。どうかな?」


 艦長は平身低頭、床に額をこすりつけた。甲板に鈍い音が響く。


「ははーっ! 全てアズマ様の指示に従います! どうぞ、よしなにお願い申し上げますー!」


 こうして僕らは、一兵も損なうことなく、この巨大な戦艦を乗っ取ったのだった。


***


 軍隊という組織は上意下達が徹底している。命令系統の頂点が変われば、現場の空気も一変する。最高位のワスプが消え、艦長が僕に従った結果、反抗的だった兵たちも全員が土下座して恭順を誓った。恐怖と保身が、忠誠に姿を変えただけだ。僕は彼らを許し、引き続き操船に従事させる。


 現在、戦艦レトヴィザンは人魚たちの「収容所島」へ向けて全速前進している。偵察の人魚たちを先行させ、残りの戦士は艦内に集結。ウンチョウたちを各所に配置して監視させながら、作戦を練る。この艦はもう、敵の牙ではない。解放のための刃だ。


 そして、僕は、斬首したワスプの遺体をノワールに託した。ノワールが死体の側に首を置き、手首を切って「聖なる闇の血」を注ぎ込む。 闇属性特有の、静かで冷たい魔力が満ちていく。……すると、切り離されていたワスプの首が吸い付くように繋がり、傷跡がみるみる修復されていった。


「かっ!」と見開かれた目は、しかし生前のような光はなく、暗く虚ろだ。


「ワスプ大佐……おかえりなさい」


「……我が主人、ノワール様。なんなりとご命令を」 ゆっくりと起き上がった死せる大佐は、ノワールの前に跪いた。


「ワスプ。私のマスターであるアズマ様にも、忠誠を誓いなさい」


「はっ! アズマ様に、永遠の忠誠を!」


 僕はアンデッド化したワスプに向き合う。生きていた頃よりも、よほど役に立ちそうだ。


「大方予想はつくけど、大佐。お前の今回の任務は何だ?」


「レキシントン閣下の命令により、収容所島から『生きのいい人魚』を選別し、イーストフォークへ護送することです。若い者を二、三人選び、閣下の別荘で観賞用として飼育した後……やがて活け締めにして食する予定でした」


「……っ!」 その言葉に、イリスが悲痛な声を上げた。拳を握りしめ、今にも泣き出しそうな顔だ。


「ご主人様……早く人魚さんたちを助けましょう! ディスフィア様も、罪のない人魚が虐げられているのをお怒りです!」


「ああ。奴の横暴はここまでだ」 僕は甲板の先、朝焼けの方向を睨み据える。


「僕は闇の勇者として、レキシントンが大事にしているものを全て奪ってやる。まずは手始めに、人魚は全員解放するぞ!」


「良一郎様、その次はどうなさいますの?」 ユリシアの問いに、僕は迷わず答えた。


「奴から艦隊を奪います。……みんな、僕に力を貸して下さい!」


 やがて長かった夜が明け、水平線が朝の光に染まる頃。朝霧の向こうに禍々しい岩肌を見せる島の影が現れた。ウンチョウが僕の背後に立ち、力強くその島を指差す。 「アズマ兄貴……あれが、収容所島でさぁ」 その声には、怒りと希望が混じっている。


 朝日を浴びながら、戦艦レトヴィザンが収容所島の港湾施設・・地獄の門へと迫っていく。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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