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第49話 闇の勇者、参上

 漆黒のフルプレートアーマーが、僕の身体を冷たく、力強く締め付ける。それは鎧というより、闇そのものを纏っている感覚だった。金属の重みが、逆に心を静めていく。かつて死闘を演じたデュラハンから奪ったこの甲冑は、暗黒の魔力を宿し、僕の動きをさらに鋭く、そして苛烈に変貌させる。

 

 手に握る魔剣マンイーターが、期待に震えるように両腕へ拍動を伝えてくる。血を求める意思が、剣を通してこちらへ流れ込んでくる感覚。 「……今宵の魔剣は、血に飢えているな」 自然と、そんな言葉が口を突いて出た。

 

 アシュレイが「状態異常防御」を僕らに掛け、戦艦の甲板に「眠りの霧」を展開する。霧は音もなく広がり、闇と混ざり合って視界を奪っていく。魔法の完成度の高さが、彼女の経験値を物語っていた。


 続いてユリシアが前へ出た。その背中には、一切の迷いがない。 「行きますわよ!」 彼女が魔法で現出したのは、通常の『ライト』の何百倍もの光量を誇る、巨大な光球だ。夜を破壊するためだけに生み出された、暴力的な光。それをドーンと艦橋の前面に叩き出す。深夜の海に、突如として太陽が現れたかのような爆光が炸裂した。

 

「目がぁー! 目が見えないっ!」


「な、なんだ!? 何が起きている! 総員起こし! 第一種戦闘配置へ!」


 パニックに陥る艦橋。訓練された兵士たちの声が、恐怖に上擦っていくのがはっきりとわかった。艦長室から飛び出してきた艦長が、怒号を上げる。


「敵襲だ! 保安要員、前甲板へ行け!」


 武器を手に艦内から湧き出てくる水兵たち。だが、彼らはアシュレイの放った状態異常魔法の霧に触れた瞬間、糸の切れた人形のようにバタバタと倒れ伏していった。

 

「トラちゃん、やってやって!」


 僕が背中をポンと押すと、トラ子が艦橋へ向かって猛ダッシュした。その身体に溜め込まれた闘気が、一点へと収束する。 「鉄山靠てつざんこう!!」 凄まじい踏み込みと共に放たれた体当たりが、戦艦の鋼鈑を飴細工のように凹ませ、艦全体を大きく軋ませる。衝撃は甲板だけでなく、艦の奥深くまで伝わっていった。艦内に響き渡る衝撃の中、僕はドラゴンボイスを全開にして叫んだ。それは宣戦布告であり、断罪の宣告でもあった。


「ワスプ! 出てこい! てめえら人間じゃねぇ! 叩き斬ってやる!」


***


 特別室で飛び起きたワスプ大佐は、魔導伝声管を掴んだ。眠りから覚めた直後にもかかわらず、その目に迷いはない。


「艦長、何事だ!」


「大佐! 謎の敵襲です! 保安要員は全滅の模様!」


「どこのどいつだ……! 私が指揮を執る。全士官を艦橋下に集めろ。アストラリア海軍の対魔導戦を見せてやる!」


 海軍士官はほぼ全員が貴族階級出身。王国騎士団に匹敵するスキル持ちの強者たちだ。ワスプ自身も、数々の海賊や魔獣を屠ってきた強者である。光の女神の加護を付与したサーベルを腰に吊るし、彼は艦内通路を突き進んだ。敗北という概念は、彼の思考に存在しない。艦橋下の第二指揮艦橋に集結した十数名の士官へ命令する。


「どこの馬鹿が挑んできたか知らんが、目にものを見せてやる。私に続け!」


 彼らはアシュレイの状態異常魔法を精神力で跳ね除け、僕らの前に立ちふさがった。 


***


 ユリシアの光球が真昼のように照らす前甲板。影の逃げ場はなく、全てが暴かれる。僕ら「闇の一行」と、ワスプ率いる海軍士官たちが対峙する。ここが、運命の分水嶺だった。


「何者だ貴様ら……。海軍所属、戦艦レトヴィザンと知っての狼藉か?」


「もちろん、知っているぞ」


 僕は漆黒の兜を脱ぎ、その顔を晒した。夜風が、汗と血の匂いを運んでいく。


「ワスプ大佐……この顔に見覚えがあるだろう?」


 ワスプの顔が、一瞬で土気色に変わる。


「な……なんだと!? 貴様はアズマ! 昼間に処刑したはず……なぜここにいる!」


「ハハハハハ! ある時は隊商護衛の冒険者……またある時はエチゴのちりめん問屋……果たしてその正体は!」


 僕は魔剣を高く掲げ、高らかに宣言した。


「闇の勇者アズマとは、僕のことだっ!!!」


 決まった……!遠山の金さんか水戸黄門か。かつて日本のテレビで見たヒーローのような爽快感が僕を包む。


 だが。


「闇の勇者アズマ……だと? お前、知ってるか?」


「えーっと……すいません大佐、勉強不足で……」


「聞いたこともないですね……」


 士官たちの冷ややかな反応に、僕は膝から崩れ落ちた。


「……しくしく。知名度が全くないのにイキってしまって、すいませんでした(涙)」


「ご主人様……ふぁいと!」 イリスが小声で励ましてくれた。


「良一郎様、しっかりして! 私たち隠密行動してるんですもの、知名度がなくて当然ですわよ!」


「はっ! そうだった! くそー、覚悟しろワスプ!」


「やれ! 皆殺しだ!」ワスプを先頭に士官たちが襲いかかる。


「補助魔法全開! みんな、思い切りいって頂戴!」


 その号令と同時に、甲板の空気が一変した。アシュレイの補助魔法が幾重にも重なり、仲間たちの身体能力と魔力を限界まで引き上げる。血が熱を帯び、視界が研ぎ澄まされ、世界が一拍遅れて見える――戦闘特化状態だ。


 ユリシアの対人地雷魔法が甲板上で炸裂し、士官たちが吹き飛ぶ。 「あん♡気持ちいいですわ!」 悲鳴と共に宙を舞う影。規律正しく並んでいたはずの陣形は一瞬で崩壊した。


 続けざまにノワールのレイピアが閃く。 「そらそら、遅い遅ーい!」 電光石火の突きが、敵の四肢を正確に貫き、反撃の意思そのものを奪っていく。


 そしてトラ子が踏み込んだ。 「ローリングなサンダー!!」 低い重心から放たれた必殺拳。一瞬にして顔面、顎、みぞおちの三箇所に重いパンチが撃ち込まれ、士官の身体がくの字に折れる。鋼鉄の甲板に叩きつけられる音が、戦艦全体に響いた。


 更にイリスの瞳が赤く光り、静かな殺意を湛えたまま死の呪文を紡ぐ。 「ヒール・アンデッド!」 それは癒やしではない。生きる者の肉体を内側から腐食させる、反転治癒の呪いだった。


「うおぉ、足が! 水虫が悪化していく〜!」


「痛い! 持病の痛風がぁー!」


 甲板上のあちこちから情けない悲鳴が上がるが、同情する余地はない。

 

 そして、僕はワスプと刃を交えていた。聖なるサーベルと魔剣マンイーターが火花を散らす。光と闇が反発し、激しい衝撃が甲板を揺らす。重い。速い。さすがは歴戦の戦士――だが。


「やるなアズマ……だが、私は負けん!」 その言葉には、焦りが滲んでいた。


 その時だ。海面から、ウンチョウたちの野太い歌声が響き渡った。 『船に五色の 旗をたて〜♪』『海の男が 風を切る〜♪』 『祭りだ 祭りだ 祭りだ 大漁祭り〜!!』 理屈では説明できない圧が、戦場を包み込む。歌は魔声となり、リズムは鼓動となって、僕の身体に力を流し込んできた。


「くっ……なんだ、この歌は!?」 ワスプの動きが、目に見えて鈍る。


「思い知れワスプ! これが人魚族の怒りだ!」


 魔声によるバフ。祭りのリズムに乗り、僕の魔剣が閃いた。光の加護を切り裂き、ワスプの首を鮮やかに跳ね飛ばす。転がる首を尻目に、僕は返り血を拭い、胸の奥から声を張り上げた。


「者ども、控え控えー!この艦は今からこのアズマが乗っ取った!」

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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